第19話 妬けるぜ
「あの、なんか、今までゴメン」
いろんな考えが頭をよぎったけど、とりあえず僕は素直に謝ることにした。
僕だって、義母さんから返事をもらえなかった辛さはよく分かっている。
だけど池田君は軽い調子で答えた。
「いいって。高見が嫌がらせで答えなかったわけじゃないの知ってるからさ」
あれ? ちゃんと僕の名前を知ってるのか。
僕の疑問には気付かない様子で池田君が続ける。
「いやだって、高見っていつもしっちゃかめっちゃかじゃん?」
「へ?」
「例えば入学式でさ、俺初めて高見を見て、とりあえず近くにいたから話しかけてみるかーと思ったのよ。
その途端、蜂の大群が現れてさ。
蜂も何考えてんのか、まっすぐに高見だけを狙い始めたんだよな。
高見も逃げ出したんだけど、すぐに追いつかれて。
その時、自分が何やったか覚えてる?」
「…さあ?」
蜂に追いかけられるなんて日常茶飯事だったから、本当に覚えていない。
すると池田君が急に厳かな雰囲気で目を閉じた。
「こうやって蜂の方向いて、両手を少し広げて、目を閉じて蜂を受け入れた」
どうやらその時の僕の動きの再現だったらしい。
なら顔まで似せてみろよ!とはとても言えない。
「おい、逃げねえのかよって思ったんだけどさ。
なんかもういっそ神々しくて、これもう蜂も刺さないんじゃねって思った」
ああ、うっすらと記憶が蘇った。
そうだ、逃げても無駄だと思ってあきらめたんだ。ってことは。
「でも、確か実際は」
「うん。めっちゃ刺されてた。高見だけ。
そんで確か高見は入学式も出れずに、保健室行きだったんだよな」
完全に記憶が蘇った。
本当に、なんて運の悪いヤツだったんだ自分。
僕は自分が遠い目になっているのを感じた。
「それ見て以来さ、実は俺、ずっと高見のファンだったんだ」
遠い目のままふーんと言ってから、僕は池田君の言葉のおかしさに気付いた。
「って、え?? ファン???」
イケメンがファン? イケメンのファンじゃなくて??
僕の混乱をよそに池田君がにこやかに続ける。
「だってそんな面白いヤツいねえじゃん。
だからいつかちゃんと喋ってみたかったんだけど、まさか、神崎に先を越されるとは」
そう言って池田君は照れ臭そうに鼻をこすった。
「ちょっと妬けるぜ」
そっち???
僕が言葉を絞り出す前に、池田君が爽やかに片手を挙げた。
「あ、俺部室寄ってから行くからここで。それじゃ、これからもよろしくな」
「う、うん」
イケメンはやっぱり、去り際までイケメンだった。
なんか、今日は朝から盛りだくさんすぎる。
僕はふらつく足でよろよろと教室へ向かった。
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