第17話 カースト革命
「いってきます」
玄関まで見送ってくれた義母さんに小さく手を振ると、僕は前を向いて歩き始めた。
道は眩しいほどの朝日に照らされている。
だけど歩みを進めるたび、上を向いていたはずの気持ちが次第に重たく沈んでいくのが分かった。
学校。
同じ年齢で同じような地域に住んでいたというだけで、何の共通項もない僕たちを集め、閉じ込める牢獄。
そんな風に考えてしまうのは、僕がクラスの中で上手くやれていないせいなのだろうか。
僕の頭の中に、僕を馬鹿にして嘲笑するクラスメイト達の声が流れ始める。
そのノイズは振り払おうとしても脳みそにこびりつくように離れない。
今日もまた、息も自由に吸えない一日が始まっていく。
「よっ」
「わっ」
背中を叩く気配に僕は小さく飛び上がった。
「ごめん、ごめん。驚かせちった?」
「か、神崎さん」
そこには神社で会った時とは違い、きちんと髪型とメイクを整えた神崎さんがいた。
もう目元に涙の跡はない。
表情も、あのあどけない少女のようなニュアンスは消えて、いつもの勝気でギャルらしい笑顔に戻っている。
さっき僕が神崎さんの部屋にいたなんて、嘘みたいだ。
「ちょっと耳貸せよ」
「おわっ」
神崎さんが荒っぽく僕の肩に手を回して自分の方に引き寄せる。
それから神崎さんは僕の傾いた頭に唇を近づけ、ひそひそ話をするように囁いた。
「金庫から取り出した手紙にさ、ママの連絡先が書いてあったんだ。
それで、電話してみたら繋がった」
「えっ」
「いいから黙って聞けよ」
神崎さんの吐息が僕の耳たぶをくすぐる。
「ママ、ずっと私からの連絡を待ってたんだって。
それで、今度ママに会えることになったんだ」
何か答えようかと思ったけど、神崎さんに黙れと言われたばかりの僕は慌てて口をつぐんだ。
代わりに神崎さんが僕の耳元でふふっと笑う。
唇から送り出される吐息のせいで、耳たぶが変にこそばゆい。
「ありがとな。マコト。
あと、今度二人であそびにいこーぜ」
「え?」
さすがに聞き返すと、神崎さんは既に僕を置いて歩き出していた。
神崎さんの背中では、隙なく綺麗に巻いた髪がゆらゆら揺れている。
あの背中に声をかける勇気は僕にはなかった。
僕はあきらめて再び歩き始めた。
けれど、やけに視線を感じる気がする。
僕はひそかに周りに視線を巡らせて気付いた。
周囲の生徒達が皆、針を刺すような目で僕のことを見ている。
―なんでスクールカーストトップの神崎と、アイツが…?
そんな心の声が聞こえてくるようだった。
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