第15話 義母さんのタンクトップ

「ぷはっ」


僕は義母さんの体…というか主に一部の膨らみから顔を離して息を整えた。


気のせいかもしれないけど、顔が埋まった時に柔らかいものに加えて固い突起も触れたような…


義母さん、もしかしてノーブ…


いやいやいや。考えるのをよそう。


僕はぶるぶると髪を振って、義母さんに向き直った。


「落ち着きましたか?」


「はああ、怖かった~。マコト君、ありがとう」


いつもの硬い表情とは打って変わって、ふにゃっと崩れた泣き顔で義母さんが言った。


僕はなんとなく義母さんのタンクトップから目を背けて、ついでに体も回しながら告げる。


「それじゃ、僕は部屋に戻ります」


「待って」


背後からシャツを引っ張られる感触がした。義母さんだ。


「あの、まだ何か…」


「こんな早朝にどこに行ってたの?」


「ああ、ええと」


まさか首を吊りに行ったら女神様に文句つけられて現世に戻されましたーなんて言えるはずもない。僕は視線を泳がせながら答えた。


「ちょっと、散歩に」


「そう…」


義母さんがうつむく。それから少しの沈黙のあと、義母さんが潤んだ目を上目遣いで僕に向けた。


「やっぱり気を遣わせちゃってるかしら」


「え?」


ぐすっと義母さんが鼻をすする。


「私、出て行った方がいいわよね?」


「へ?」


「パパがいなくなった後、私が少しでもマコト君の助けになれればと思ったのに、私、マコト君に気を遣わせてばかり。


駄目なお義母さんでごめんなさい」


義母さんはだんだん小さくなる声でそう言うと、両手で顔を覆ってしくしくと泣き始めた。


ええええ。


僕は混乱しながら目の前で肩を震わせる義母さんを見つめた。


義母さんが出て行く?


むしろ、義母さんは父さんが残したこの家を自分の物にして、僕に出て行って欲しいと思ってたんじゃないのか?


父さんが死んで以降、僕達の間にろくな会話はなくて、時折義母さんからの冷たい視線を感じるだけだった。


はずなんだけどなあ??


混乱しすぎて、思わず僕の口から素直に疑問が漏れた。


「あの、むしろ義母さんの方で、僕にどっか行って欲しかったんじゃ」


「どうして!?」


心底びっくりしたと言うように義母さんが目を丸くする。


「いやだって、話しかけても、あんまり返事も返って来なかったというか、ハイ」


なんだか居心地が悪くて、僕は体を縮こまらせながら答えた。


それを聞いた義母さんが呆気にとられたように僕を見つめる。


「私が?返事を?」


てん、てん、てん、と表現できそうな沈黙の後、急に義母さんが叫んだ。


「ああああああ」

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