第8話 エラー排除機構

「テマクマクマコン、テマクマクマコン」


叫んですぐ、目の前がぽわわーと光り出して女神さまの姿が浮かんだ。


『呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃーん』


女神さまは後光の中で忙しく両手を振った後、ちょっと唇をとがらせた。


『ちなみに、テマクマクマコンじゃなくてテクマクマヤコンですぅ。初回だからおまけで出てきてあげたけど』


「いいから、これどういうことですか?」


女神さまの話を遮って、僕は焦げた木を指さした。


『あはーん』


女神さまがあごに手を当て、にやにやしながら答える。


『あんたに添加する運に手を加えたって言ったでしょ?うまくいったみたいね』


「じゃあ、これあなたが…」


『もう、怒んないでってば。そんなに難しい話じゃないんだからさ』


そう言うと、女神さまはふわりと僕の頬を撫でた。


『普通生き物っていうのはね、自分から死のうとはしないものなの。


どんな理由があったにしろ、あんたは自ら死を望んだ。

言うなればちょっとしたエラーってことね。


だから私はエラーの排除機構を強めに働かせただけ。


もうあんたは自分で死ぬことはできない。あんたの『天運』がそれを邪魔する』


「そんな…」


すべてを終わらせたい。そんな僕の唯一の願いさえ、叶わないのか。


僕の絶望をくみ取ったのか、女神さまの手が僕の頬から首を伝って、胸元に移る。


『ま、私のせいとはいえ、死のうと思うくらいなんだもの。


いろいろ辛いこともあったわよね。でも安心して。


これからは楽しいことばっかりよ』


気付いた時には、女神さまの顔が間近にあった。


僕が反応するより先に、女神さまのやわらかい唇が僕のおでこに触れる。


髪の毛がさらさら顔にかかって、花束に顔をうずめたみたいな香りがした。


『バカンスだと思って、せいぜい残りの寿命を楽しんでちょうだい。


それじゃ、見守ってるわ』


現れた時と同じように、女神さまがぽわわー、と消えていく。


と思ったら、完全に消える直前に思いついたように叫んだ。


『あ、言っとくけどアカレコには全部内緒だからね!』


「え、アカレ…?」


『アカシックレコードのこと!絶対よ!!』


フシュン、という音とともに女神さまの光も痕跡も消え去り、その場には僕だけが残された。

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