第7話 テマクマクマコン

「うう…」


テクマクマヤコン…なんだよそれ…


「はっ」


急に意識が冴えて、僕は飛び起きた。


見慣れた風景に、手になじむシーツの感触。僕は自分の部屋のベッドの上にいた。


「え、なんだ…夢…?」


僕は壁に掛けた時計を見上げた。明け方5時。


この時間なら、まだ義母さんは寝ているはずだ。僕はベッドから飛び降り、できるかぎり音を立てずに、だけど急ぎ足で玄関に向かった。


靴を履くのももどかしく、外に駆け出す。


10分くらい走った先に神社がある。ちょっとした小山の上にあって、裏手が森みたいになった場所だ。


あれが夢じゃなければ…そこは、僕が首を吊ったはずの場所だった。


石の階段を駆け上り、おやしろの裏手に回る。



人目につかない森の奥にその木はあった。


「やっぱり…」


そこには僕が運んできた踏み台用の木箱と、枝から垂れ下がるロープがあった。


僕は手をきつく握りしめた。


やっぱり、あれは夢じゃなかった。


せっかく、人生で一番の勇気を出したのに。それをあの訳の分からない女神さまが台無しにしたんだ。


怒りが僕の腹の底から湧きあがった。この怒りがあれば、きっとできる。


僕は前に進み、木箱に足をのせた。


女神さまが僕に何を望もうが知ったことじゃない。


もう一度、いや何度だってやるだけだ。


僕は縄に向かって手を伸ばした。


ビュオオオオオ


「へあっ?」


冗談みたいな強風が吹きつけて、僕の手から縄がすり抜けた。


縄は風にあおられてぶらんと上に持ち上がり、また戻って来た。その縄を掴もうとすると。


ビュオオオオオ


「なんなんだよ、いったい」


僕が手を伸ばすたび、風が吹きつけて縄が僕の手から逃げてしまう。


「この、この…」


何度手を伸ばしてもだめだ。そのうち、空からゴロゴロと不穏な音が聞こえてきた。


「なんだ?」


僕が空を見上げた瞬間だった。


空がピカッとまたたく。そして。


ズガァアアアン。


「どわああああ」


衝撃に吹き飛ばされ、僕はやわらかい土の上に尻餅をついた。


遅れて、目の前に雷が落ちたんだとやっと理解した。


煙が立ち込めている。それが消えると、そこにはぷすぷすと音を立てて焼け焦げる木だけが立っていた。


僕が用意したロープも木箱も、焼け落ちて見る影もない。


「テッ」


僕は叫んだ。


「テマクマクマコン、テマクマクマコン」

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