第6話 さあ、いってらっしゃい
「もしかしてまだ自分に拒否権があるとでも思ってるんじゃないかね?」
女神さまのそのセリフはかなり芝居がかっていた。
前言撤回。やっぱこの人はこういう人だ。
僕が呆れていると、女神さまは急ににっこり笑って続けた。
「ねえ、強情もの。言ったわよね? ここは留置所みたいなものだ、と。
一度留置所に入れられた人間は、大人しく自分の処遇が決まるのを待つしかない。
そして処遇が決まった者は」
女神さまが人差し指の先で僕の額を押した。
「それに従うしかないのよ」
ずん、と女神様の指先が重力を増した。
正確な表現じゃないかもしれないけど、感覚としてはそう表現するしかなかった。
女神様の指先から伝わった重力は、僕の体の内側に入り込んで中をぐるぐるかきまぜていく。
視界がぐわんと揺れた。
はるか高いところから降りてくるように、女神様の声が響く。
「本当はね、穏便に済ませたかったのよ。
でも、うんって言ってくれないんじゃしょうがないわ。こちらも強硬手段にでるしかない。
だって、アカシックレコードは絶対だもの」
ふふふ、と吐息のように妖しげな笑い声が耳に吹きかかった。
「あんたに添加する運に、ちょっとだけ手を加えたわ。
これであんたは寿命が来るまで死ねない」
視界が黒く狭く閉じていく。すべての音が遠ざかっていく。
女神様の手が僕の背中を軽く押した気配がした。
―さあ、いってらっしゃい。
あとに残されたのはやわらかい暗闇と、どこか懐かしい浮遊感だけだった。
――――
―――
――
「あ、忘れてた」
急に耳元で聞こえた素っ頓狂な声で意識が引き戻された。
「なんか私に用がある時は、心の中で『テクマクマヤコン、テクマクマヤコン』って唱えるのよ。そしたら答えてあげるから」
はあ?
テクマクマヤコンって聞き覚えがある気がするけど、なんだっけ…
「それじゃ、次こそばいばーい」
疑問がぐるぐると渦を巻いたまま、僕の意識は今度こそ闇の中に溶けていった。
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