初発電車は4時4分.11
ゾウガメは立ち上がったライに構えを解いて近づく。
立ったとはいえフラフラの姿を見て、ゾウガメは自分の有利を信じて疑わなかった。だから後頭部に衝撃を受けるまで不意打ちに気付かなかった。
「マスク女。オメエから死にたいらしいな」
拳を解き、カエサルの細首を掴む。
五指がタイツ越しの首に深く沈み込んでいく。
リュックを落としたカエサルは両手で引っ掻いたりつねったりして、抵抗した。
「オイオイ、痛えじゃねえかよ!」
と言いながらゾウガメはサディスティックな笑みを浮かべた。
更に首に力がこもり、カエサルの意識が途切れかけたところで指が離れる。
カエサルに意識を向けていたゾウガメが、ライの肘打ちを食らってたたらを踏む。
ゾウガメが体制を立て直す前に距離を詰めると、ジャブで顔を打って牽制し、右ストレートを囮にして左フック顔を強打され後ろに下がったゾウガメに飛び蹴りを見舞う。
その一撃は拳を固めたゾウガメの前腕に完全にブロッキングされてしまった。
ライは着地すると同時にバックステップして距離を取り、両手を開いた構えを取る。
「その細い身体でいい打撃じゃねえか。だが後一歩足りなかったな」
ゾウガメの打撃をライはその場から動かずに上半身の動きだけで避ける。
「お前の攻撃は全て見切った。もう拳は当たらないよ」
「舐めんじゃねえ!」
ゾウガメは構え、全身に力を込めた。上半身の筋肉が大きく隆起する。その背中は亀の甲羅のように盛り上がっていた。
榴弾砲の発射音のような音と共に、今までの中で一番早い拳が放たれる。
ライは動かず顔面に直撃。
「ライさん!」
カエサルはライの敗北を確信してしまうが、金貨が割れることはなく、攻撃した方のゾウガメが前につんのめるようにバランスを崩す。
体制を崩したゾウガメの側頭部に、ライの右ハイキックが炸裂。
両者そのまま固まるが、ゾウガメが笑い出す。
「スリッピングとは、女みたいな顔して良い度胸してるじゃねえか。でもオレ様には後一歩及ばねえな!」
蹴りを入れたライの顔が歪んでいる。
タイミングよくパンチと同じ方向に顔を動かしてゾウガメの攻撃を回避してから、必殺のハイキックをお見舞いしたが、鉄の身体は破れず、逆に脛に激痛が走っていた。
ゾウガメが拳を解きながら前に踏み出す。
ライも気づいて避けようとするが、痺れる脛のせいで間に合わなかった。
「オレ様最大最強の必殺技で終わらせてやる!」
両手でライを掴んで頭の上に担ぎ上げると、左手で顎を動かないように固定した。
「オラ、ライトニングストライク!」
ライの頭を下にしたまま一緒に倒れ込む。もし床に頭を強打すれば、落雷の如き衝撃で即死は免れない。
ゾウガメは勝利を、カエサルは敗北を確信するなか、ライは一人冷静だった。
逆さのまま頭が急速に床に近づいていく。
その状況でも、自由な右手の指二本でゾウガメの目を突いた。
目潰しされたゾウガメは思わずライの拘束を解く。
ライは素早く受け身を取ると、傍らの座席の下に手を伸ばした。
痛む目でゾウガメが見たのは、先程蹴り落とされたショットガンの三つの口のような銃口。
拳を固めるよりも猟犬の顎門の方が早かった。
顔面に血のような赤いヒットエフェクトを瞬かせて、ゾウガメは頭から倒れる。
仰向けのまま白い煙が昇るように全身が消えていった。
「勝った……勝ったんですねライさん!」
一人目を片付けたライは、特に喜ぶ様子も見せず、ショットガンを捨てると自分のピストルを拾う。
カエサルの方を見る事もなく、銃から装填した弾を手動で排莢する。
ニッケルメッキされた弾薬が電車の床に澄んだ音を立てて落ちていく。
その作業の間に電車が次第に速度を落としていく。
アウレウス残り四枚。
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