初発電車は4時4分.9

「アンタの狙い正確だな。頭や心臓ばかりに弾が飛んでくる。流石にヒヤヒヤしたぜ」

 ゾウガメは銃口を前に耳の穴をほじっている。

「そんな余裕でいいの?」

「まあどんなに撃たれてもオレ様の勝ちだからな。この鉄の身体は鉄砲で貫通できねえし、刀でも切れねえよ。ぶっ壊したいなら大砲かじゃなきゃな!」

 ゾウガメが懐から何かを取り出そうとした。

「カエサル頭を伏せていなさい」

 そう言ってライは跳躍。

 直後にゾウガメが握る三銃身のショットガンが一斉にに火を噴いた。

 その火を吹く様は、まるでケルベロスのようであり、放たれた無数の散弾は直撃すれば致死毒のトリカブトのように容易く命を奪うだろう。

 その群れをライは間一髪飛び越えた。

 数発の散弾がカエサルの方に飛んできたが、ライの言いつけを守って頭を下げていたことと、電車内が破壊不可能オブジェクトだったことから、被弾は免れた。

 三発同時に撃ったゾウガメは銃身を折り、空薬莢を排出させて次の弾を装填する。

 ライは座席を飛び越えながらその隙を見逃さず、ポールを両手で掴むと、鞭のように全身を振るった蹴りを放つ。

 狙い違わずゾウガメの右手にヒット。持っていたショットガンが床を転がって座席の下に潜り込む。

「カエサル。7.63ミリの弾薬を頂戴」

「えっ? 弾薬なんて持ってませんよ」

 カエサルは座席の隅から顔を出す。

 会話中のライに向けて拳を固めたゾウガメのストレートが飛んできた。

 顔面を狙って飛んできた拳を避けながら、カエサルの背中を示す。

「リュックから選んで取り出せる。それがあなたの能力なの」

「ベラベラ喋ってないでオレ様との戦いに集中しろ!」

 ゾウガメの鉄の拳が、車内のガラスや壁に激突する。

 ライの銃の発砲音より大きなソレは聞いているだけで心臓が破裂してしまいそうだった。

 カエサルは言われた通り、リュックのジッパーを開ける。

「えっとえっと、7.なんだっけ? 7.7……そうだ7.62だ」

 声に出すと、リュックの中に弾薬が現れる。

「本当に出てきた。でも……」

 しかし複数の種類が出てきてどれがライが求めているものか分からない。

「ライさん。7.63ミリのどれがいるんですか」

「十発がクリップでひとまとめになったものを早く」

「えっと、7.63ミリのクリップで十発一纏めになったもの! 出てきた!」

 次に現れたものも複数の色違いの弾薬だった。

 もう一度聞いてみようとライの方を見ると、ゾウガメの巨体がライを押し潰さんばかりに迫っている。

 カエサルは質問せずに、適当に弾薬を掴む。

「ライさん。弾です。受け取ってください」

 カエサルはキャッチしてくれると信じて戦闘中のライに向かって投げた。

 放物線を描きながら回転するクリップ。

 先に気づいたライがゾウガメの右フックの上に着地するように蹴って回避。

 宙を舞うクリップを見ないで掴み、素早くリロードして着地すると同時にゾウガメの頭にサイティング。

「これで終わり」

 止めの銃弾が放たれる……ことはなかった。



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