初発電車は4時4分.8

 立ち上がった大男は天井に頭をぶつけるのを防ぐために身を屈める。

 それはまるで大岩のようで、椅子から立ち上がっただけなのに、通路を塞ぐバリケードか、橋を塞いだ弁慶のようだ。

「自己紹介がまだだったな。オレ様はゾウガメ。アイアンファイターのゾウガメ様だ!」

 ゾウガメが自分の胸を叩く。その後はゴリラのドラミングよりも強くまるで大砲の発射音だった。

「こっちが名乗ったんだから、アンタらも名乗れよ」

 ライはゾウガメに指を指されても、口を開かない。

 次にカエサルに指を指す。

「僕はカエサルです。えっとクラスはジュエルーー」

「答えなくていいわ」

「でもライさん」

 ゾウガメはホームベースのように四角いアゴを撫でる。

「オッケー。詰襟制服の優男がライで、その後ろのマスク女がカエサルだな。お互い恨みっこなしだ。オレ様もまだココを追い出されたくないんでーー」

 突然の発砲、続く甲高い破裂音にカエサルの身体が一瞬硬直した。

「ライさん何を」

 いつの間にかライの右手には腰から抜いたピストルが握られていた。

 まるでマカロニウエスタンのガンマンのように、目に見えない速さのクイックドロウ。

 そのまま突き刺せそうな細い銃身から飛び出した7.62ミリの弾頭がゾウガメの額に直撃。

 額から銀色の閃光を迸らせながら仰向けに倒れ込み、後ろのドアに背中を預ける形で動きを止めていた。

「何も突然撃たなくても」

 ライは構えたまま答える。

「これはデスゲーム。襲ってくるプレイヤーを殺さなければ、死ぬのはカエサル。あなたなの。それに……まだ終わっていない」

「そうまだ終わってないぞ!」

 カエサルは声がした方を見る。そこには額に銃弾を受けたゾウガメしかいない。

 彼は何事もなかったようにギザ歯を見せながら凶暴な笑みを浮かべる。

「生きてる。頭を撃たれたのに、あっこれが硬貨の力」

 GMの言葉、そして発砲音の後の破裂音が、答えに繋がる。

「全く、不意打ちなんて、やるなぁ」

 ゾウガメが両腕を上げるのと、ライが発砲するのはほぼ同時。

 一瞬早く二発の弾頭がゾウガメの胸にヒットした。

 どちらも心臓がある位置。即死したはずなのにゾウガメは笑顔を見せる。

「オレ様の身体に豆鉄砲は効かねえよ」

 ゾウガメは右手を後ろに左手を前に構えたまま歩き出す。

「カエサル。座席の陰に隠れて」

 ライの言葉通り、二人から一番遠い座席の陰に身を隠した。

 その間にもゾウガメが距離を近づいてくる。

 ライは両手を伸ばして発砲。

 一発、二発と頭を狙った弾頭はゾウガメの固く拳を握りしめた前腕に吸い込まれる。

 更に繰り返し合計八発撃ったところで弾が切れた。

 ゾウガメの両前腕には八つの弾がめり込んでいるが、本人は全く痛がる雰囲気を見せない。

 前腕を撫でるように固めた拳を動かすと、ひしゃげた弾頭が床に落ちていく。

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