初発電車は4時4分.5
扉を抜けると光が収まる。
初めに視界に入ったのは下へ降りる階段だった。
バタンと背後で音がしたので振り返ると、今通ってきた扉が閉まっている。
ドアノブを動かしても、びくともしない。
「カエサル様。もう後戻りは不可能です。階段を降りてあなたの守護者と合流してください」
GMがそう言い残すと、扉は存在していなかったように音もなく消えてしまう。
逃すまいと掴んでいたドアノブも掌の中で消失してしまった。
扉があったところは本来出入り口のように四角い穴が空いているが、白い靄のようなものに覆われ、通れないばかりか音も聞こえず、向こうの様子も伺う事は不可能だった。
カエサルは振り返って、下へ続く階段に目を向ける。
踊り場には電灯が灯り、闇に包まれてはいないが、見ているだけで気分が落ち込んでいく。
しかし、既にゲームが始まっているとしたら、いつ敵プレイヤーに襲われるか分からない。
襲われたら最後、武器もなく、ましてや戦闘技術など何も覚えていない。
せいぜいアニメや映画でアクションを見たぐらい。
一人ではとてもこの不安には耐えられそうにないから階段を降りていく。
降りると、小さなコンビニがあり、券売機と改札が見えてきた。
少し低い天井のせいで圧迫感を感じる。ここは、地下鉄の駅だった。
コンビニや複数ある上への階段は全て照明が落とされており、まるでこちらに来るなと拒絶しているよう。
手近なコンビニを覗いてみると、商品らしきものが陳列されている。更に目を凝らしていると、レジに人影が見えて思わず声が出そうになった。
店員のNPCが暗闇の中で棒立ちしている。
カエサルは胸を撫で下ろし、後ろにある改札の方を見ていく。
駅員のNPCがいる部屋、その横に並ぶ改札。奥には更に下へ続く階段らしきものが見える。
天井には電光掲示板があるが何も表示されていない。
その掲示板に目を奪われている間に改札の向こうに人がいた。
「うわぁ! 待ってください。僕は戦う気なんてありません。だから殺さないで!」
カエサルは腰が砕け、必死に命乞いをする。
改札の向こうの人物は腰に差した杖を掴みながらゆっくりと近づいてきた。
カエサルは尻餅をついたまま後ずさる。
それを追って人物はゆっくりと距離を詰めてきた。
逃げるカエサルの背中が壁にぶつかる。同時に人物も足を止めた。
カエサルは頭を下げて両手を前に出して防御の姿勢を取っていたが、一向に向こうは手出ししてこない。
「落ち着いた?」
頭上から声をかけられて初めてカエサルは顔を上げる。
目の前にいたのは詰襟の制服を着た鋭い刀身のような青年だった。
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