挿話 ブレイキングナイト
頭痛と
さすがのあたしでも、十二時間ぶっ通しの自習で疲れきってしまったようだ。
「フゥゥ……」
ため息とともに、勉強中にだけ掛けている眼鏡を外す。
これは賢人の眼鏡といって、装備すれば知力と集中力が大幅に増加する装飾品だ。それでも、かなりの無茶をしたから、左右の目頭を指先で押さえて眼精疲労のツボをマッサージする。
マホガニー材の学習机の上にひろげられていたのは、王立図書館で秘蔵されている本来は持ち出し禁止の古文書が二冊、それと、インクが乾ききっていない書きかけの論説文にオリジナルと比べて個性的な魔法円や図解が記された新品のノート。
その古文書には、偉大なる大先達が遺してくれた禁断の秘法や錬金術の知識が惜し気もなく掲載されていて、その不完全な部分を最新の技術と魔術で再構築し、導き出したあたしなりの見解をノートにずっと書き溜めていた。
痺れて思うように動かない右手で、近くにあった古文書を閉じる。〝パスン〟て音が、なんだかオナラみたいに聞こえた。
「はは、ははは……あははははははは!」
超ウケる。笑いが止まらない。
疲労が
──コンコン、コンコン。
不意に叩かれたドアの音で正気に返る。
「……ロアお嬢様、入ってもよろしいですか?」
いつものように、メイドのセーリャがあたしの耳もとでささやいた。こうして彼女は毎回なぜか、主人の許可の有り無しを完全無視して部屋に侵入してくる。大盗賊も真っ青の超人的
「みゃ? ねえセーリャ、このにおいって……バッファロー肉のステーキ?」
「いいえ。セーリャ特製のチョコレート・スプラッター・マウンテンです♪」
天使のような笑顔とともに目の前に差し出されたのは、愛らしい白磁のお皿に盛られた物騒なネーミングの茶色い物体。恐らく、甘い食べ物なんだろうけれど、なぜかたまにピクンて脈打つ。あたしの生存本能が〝食べちゃダメ〟って、教えてくれた。
「うぐっ…………あの……深夜に甘いモノを食べちゃ、その……太っちゃう……し……残念だなぁ!」
「うふふ♡ ロアお嬢様、これだけ長時間脳ミソをフル回転されていたんですから、多少の糖分や糖質はノーカウントになるんですよ?」
「……えっ、そうなの?」
「はい♪」
あたしは、魔法関連の知識には自信があるけれど、それ以外の知識は人並み程度しか持ち合わせていない。けれども、絶対に食べちゃダメって、あたしの守護霊が直接脳に語りかけてくる。
「あのね、セーリャ…………せっかく作ってくれたのに悪いんだけど、あたし食べたく──」
──ガッシャーン!
突然、チョコレートなんちゃらが盛られていたお皿が床に落ちて割れる。
と、同時に、チョコレートなんちゃらが走り去り、そのまま大きく飛び跳ねて窓を突き破り逃げた。
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