第2話大反響前夜
「グロリアでバイトすることになったんだ」
僕は一応筋を通すために友人にその様な言葉を口にすると彼は驚きの表情を隠さなかった。
「マジ!?お前も狙ってるってこと!?」
「違うよ。純粋にあそこのコーヒーの味に惹かれてね」
「へぇ〜。コーヒー好きって言ってたもんな。それにしても俺がバイトしたいって言った時はキッパリと断られたんだが!?どんな手を使ったんだ!?」
「いやいや。お前の下心が透けていたんだろ。マスターだって仕事中二人きりになる人は自分で決めたいんじゃないか?」
「お前がその人だって言うのかよ」
「そう言いたいわけじゃないよ。でも下心ある人とは一緒に居たくないんじゃないか?」
「ぐっ…!確かに…」
友人はダメージを食らっているようで苦虫を噛み潰したような表情を浮かべると僕の肩に軽く触れた。
「俺から彼女を奪ってくれるなよ…」
「何言ってんだ…全然相手にされてないじゃないか」
「ぐはっ…!もう無理だ…!帰る…」
友人はお腹の辺りを押さえると僕を置いてキャンパス内の広間から出ると帰路に就くようだった。
僕は時計で時間を確認するとバイトの時間も迫っていたためキャンパスを抜けるとグロリアに向かうのであった。
「こんにちは。今日からお願いします」
マスターは店内に入ってきた僕と目が合うと会釈をする。
「こちらこそお願いします。色々と軽食やデザートのメニューを考えてきたのですが…」
「ホント!?昨日の今日なのに…悪いね…」
「いえいえ。僕の当面の目標はグロリアを超有名喫茶店にしたい。なので…」
「でも…何でそこまで…」
「衝撃が走ったんですよ。こんなに美味しいコーヒーがあるんだって…それをもっと広めたいと思うのは可笑しいことじゃないでしょ?」
「そうだけど…」
「それにバイト終わりに一杯のコーヒーを頂けるなんて…最高です」
「そう?そこまで言われると嬉しいわね…」
「早速考えてきたメニューを見てもらってもいいですか?」
「うん。もちろん。喜んで」
そうして僕はバックヤードで簡単に着替えを済ませてメモ帳を持ってマスターの側に向かう。
「こんな感じなんですけど…」
「ふんふん…」
マスターは料理の詳しい分量や値段設定を目にしてウンウンと頷いている。
「仕入先にお得意様が居るようでしたら…教えて頂けると助かります」
「うん。それは後で教えるね。それにしても…これを一日で考えたの?」
「考えたってよりも普段から料理はするので…」
「そうなんだ。実家ぐらしじゃないの?」
「はい。一人暮らしです」
「へぇ。今までは仕送りだけで生活していたってこと?」
「恥ずかしながら…」
「そっかそっか。それでもこの料理スキルは立派すぎるよ」
「ありがとうございます。材料があれば…作りますけど…」
「あぁ。うん。じゃあ手本を見せてもらおうかな」
「了解です」
そうして僕はキッチンで簡単なデザートや軽食を作るとマスターに食してもらう。
「うん。デザートは見た目大事にって感じだね。軽食は味も大切にって感じか。これで値段設定を少し高めにすればいいの?」
「はい。大人の心理的に100円のコーヒーだけを飲んで帰るわけにはいかないと思うんですよ」
「そうかな?」
「はい。大人としての見栄もあるでしょ?それにマスターを見たら…男性客なら良いところを見せたいって思っても不思議じゃないです」
「どういうこと?」
「鏡を見てくださいってことです」
「え?え?」
「冗談はともかく。試しに値段設定を変えて営業をしてみたらどうですか?反響があって赤字にならないのであれば継続すれば良いわけですし」
「いきなり値段を変えるなんて…信用問題とか…そういうところは大丈夫かな?」
「安くなるなら良いじゃないですか。喫茶店に来るお客様は大体がコーヒー目当てです。そこに少し高くても美味しい料理があったら…尚良いです」
「そっか。わかった」
「あと…ジュース系の飲み物も用意すると良いと思います。コーヒーフロートとかコーラフロートとかクリームソーダとか。もちろんコーヒーじゃないので高めの値段設定にしますけど」
「コーヒー以外のところから利益を沢山引っ張ってくればいいのね?」
「そうです。きっと成功しますよ」
「うん。頑張ろう」
そうして翌日からメニュー表は一新されて大繁盛を巻き起こすことになることを僕らはまだ知らない。
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