第0章 2人の暁 3
(なんで、来れるんだよ…)
にっこにこの小峰先生の隣に、顔色ひとつかえない深見先生。
(どんな神経してるんだろう…)
「というわけだから、見学部屋にいますね」
いや、全然、頭に入ってこない。
ホント、なんなのこの人…。
なんなら、にっこり笑ってるように見える。疲れてんのかな…。
いや、がっつり笑ってる…。
まじか…。なんでそんな顔できるんだよ…。
「わかりました。小峰先生、パス持ってましたっけ?」
「はい、先日発行してます。ホラ」
「じゃあ、練習にもどりますね」
「菊原さ―」
私は振り返ることもなく。先生が強引に呼び止めることもない。
小峰先生が制止したのだろう。
次の模擬戦闘試験は、それくらい重要なものだ。
次の生徒会の件も、先生の件も、友にはお見通しだったから投げとくことにした。
こういうときに、責任を持って動いてもらえないと困る。
友のほうが先輩なのに、いいように私に上にいかせようとする。
「なんだこいつ」って思った印象は、私のことを呼び出した上官だった。
『今、周りにいる人間に心を置けない状況はつらいだろうな…』
友は、私の周りを整地するように動き。判断をしやすいような説明をしてくるようになった。
その時に『菊姉は、俺の上官になるからな』と笑って言う。
そのことはもう、決定事項だし。
私の気持ちが入ったところで変わることはない。
ただ…。
――
「菊姉、ごめん。ちょっときてー?」
慌てた様子の香織。まるで逃げてきた小動物だ。
「なんや、どうした??」
「えっと、サジットが…。あれ、ヘリオスのことがーかな…」
「ちょっと深呼吸しよか?ほれ。ふー…」
「どうしましょうか」
「どうするっていったって…」
いくつかの視線。
中には、威信をかけた意気込みのやつもおる。
(こりゃ、ちゃんとせんとなぁ…)
「菊姉?」
「あーー。もう」
「まぁ、あとであまいもんでもおごったるわ」
「模擬戦闘前に、体重をふやしてどうする」
「俺の連覇がかかった、作戦のうちやで!」
「うっざ」
白い制服が揺れ、空気が変わる。
自然と道がひらけていく。
梓の視線が刺さる。
「小石麻実さん。あんたは呼んでないんだけど?」
俺が作ったマニュアル通りの対応を、返す。
「おはようございます。生徒会長。こちら側の書記なので記録係として、同席させてください」
「なら、副部長の俺もな?」
2、3歩さがったところに立ってひらひらと手を挙げることで、存在をアピール。
「…岬さん…。わざわざ3人もくることないでしょう?」
(そういうお前が、一番圧があんのよ…)
少し前までの梓を思い出し、悲しさを感じる。
「生徒会やて、香織に、佐山に。お前に3人やん?無暗に口出ししたりせんよ」
「こっち側で、所属してるのは―」
「阿呆。サジットの話ちゃうやろ。生徒会の括りや」
こうなると何も言っても無駄。
木のように。石のように。風景に徹することが一番だ。
「俺らも口出しはしないようにしような。香織」
「…うん」
「では、録音機能・書記機能を起動します」
「俺の方も、書記機能を起動する」
「生徒会長、ご用件は?」
部長として、端麗で。周りより、1,2度温度を下げたような空気。
「…なんでこんなに、予算があるわけ?」
「予算…ですか?」
「そうよ。サジットの部がそれぞれがこのくらいなのに、ヘリオスの部は倍以上。なにこれ」
(その話は、どうにもならんよ…)
「先日の視察ありましたし。その審査上でのものでしょう」
「贔屓じゃないの?」
「明星の城がですか?それはないとおもいますが」
「どーだか。あの城だってヘリオスが鍵を握ってるようなものじゃない」
「佐山君、みょうじょーの…?」
「明星の城。ヘリオスと、国内組織のトップが話し合う会議の呼称だよ」
「アステール・カウスじゃなくて?」
「アステール・カウスは、この国での特別機関だよ。アステールは、星。カウスは、いて座の星の名前からとってる」
「2つの組織の名前が関係してる名前なんだね」
「明星の城は、ヘリオスに関係する各国のトップが集う国際会議の場所。今回はこの国で開かれてて、サジットとも交流してるってニュースでみたよ」
「へぇ…」
基礎的な説明ないとだめなんか…。
香織の認識を再度確認する必要があるかな。
「説明はおわりましたか?」
「…ごめん」
「余らせる事があったら、返してないで。ほかの部にもまわすとかしてもらえる?」
「それはできません」
「なんでよ。じゃあそういう意見を上にしてもいいんじゃないの?」
「できません」
「なによ、助け合いもできないの?」
「そういう決まりを作ったのは、ケイローン・サジットの皆様です。明星の城でも恒元家の当主が説明されていましたよね」
「お母さんひとりで、話が通るわけがないでしょう!?」
「梓…。サジットから、親御さんだけが出たわけじゃないだろう。全員がおもってるなら、正式に書面で言えばいい」
梓が母さんを大事に思っている理由はわかる。
その母さんに、大事に育てられて、いずれサジットを継ぐであろう運命は、俺と色が違うだけだ。
「本部許諾が通りましたので、提示いたします。サジットの署名もご確認いただけますでしょうか」
「めちゃくちゃ古い書面だして…!どうせ、ちゃんとした話し合いもこの時からしてないくせに」
「アリア・ヘリオスは、この国を導いたケイローン・サジットに、最大限の敬意を払って接しております。各組織からの出資は、学校の資金ではありません。余らせたからと勝手に他の部へ譲渡することはできません」
「ここをご覧ください。この類のものは、ケイローン・サジットから禁止要請がでている項目です」
「…喧嘩売ってんの?」
「協定条約の基礎に、反する事は致しません」
(気持ちいいトドメだなぁ…)
「梓ちゃん、私たちの会議でなんとかなるレベルの話じゃないよ」
「香織は、サジットでしょ?少しは話に加わってもいいじゃない」
「話があるって言いだしたのは梓で、俺たちは言ってない」
「じゃあ、射撃部の結果が伴っているとでもいうの?ルクスっていっても、こんなもん?」
「はぁ?」
あぁ、言いおったな。
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