第3.5話 身バレにはご注意を
GBOにて全てのプレイヤーが初めに降り立つ街、王都セントリウスは四つのエリアに囲まれている。
西は【小さき森】、東は【風の平原】、南は【群れる湿地】、そして北は【迷わずの渓谷】。この四つのエリアはいずれも初心者用エリアであり、それぞれのエリアのボスモンスターを倒しその先の街に辿り着く事で初心者を脱したといえるだろう。
つまりは、上級者達は各エリアの先の街を拠点としており、セントリウスにいるプレイヤーは初心者か、その初心者達をターゲットとした生産職プレイヤーである。
生産職プレイヤーとは、サブ職業で取得できる鍛冶師や料理人といった戦闘以外を行う職業をメインにプレイしているプレイヤーの事だ。
生産職プレイヤーは基本的にそれぞれの職業に補正の掛かる装備を身に着けている為、戦闘職のプレイヤーとは少々装備の毛色が異なる。
また、GBOではレア度の高いアイテム・装備程細かな装飾が成されていたり、オブジェクトとしての奥行きが違う。例外も存在するが、大半はこの法則が適用される。要するに見ればだいたいレア度は分かる。
故に、初心者と生産職プレイヤーの集まるセントリウスにおいて、明らかに高いレアリティの露出度の高い
時は少し遡り、葵が現実で炒飯を作っていた頃、セントリウス中央広場のベンチに一人のプレイヤーが座っていた。赤いメッシュの入った黒髪、その上に表示されている
赤を基調とした戦闘衣は肩周りから脇腹、そして背中を大胆に露出しており、何故かへそ部分の布が菱形に消失している。
黒のプリーツスカートは内側に赤い布が使われている。丈は膝上二〇センチ程で、同じく黒のロングブーツとの絶対領域が上半身のある特定部位と同じくらいの存在感を放っている。
とても防御力が高いとは思えない装備だが、それが現状最高クラスの装備である事が道行く初心者プレイヤー達にも察する事ができるくらいには、その装備はオーラを放っていた。
ともすれば痴女と言われかねない装備を堂々と着こなすアルテアスキーは、今から約六時間程前からずっと周囲の目を気にも留めず、この場に留まり続けている。
その背後に同じく六時間程立ち続けていた、青い髪のメイド服を着た
「あのー、お嬢様、これは今何をしているのですか?」
アルテアスキーは血のように赤い瞳をリゼに向ける。
「バカねリゼ。ここに居る理由なんて一つしかないでしょ。出待ちよ」
「ちょっと何を言っているのか理解できません」
この中央広場は、初めてGBOにログインしたプレイヤーが冒険者ギルドに向かう際に必ず通る場所だ。そこでアルテアスキーは、今日必ずログインするとあるプレイヤーの出待ち、正確にはそのプレイヤーがどのようなバディを作ったのかを見る為に六時間もの間この場所に留まり続けていた。
「いい加減私も何もしないで突っ立っているのに飽きてきたので、お嬢様の髪をいじらせてもらいますね」
「それは良いけど、よく何もしないで六時間も我慢できたわね」
お嬢様がそれを言いますか、とは口に出さず、リゼはインベントリから【聖樹のコーム】を取り出し、主の長い髪をとかす。
三つ編み、ポニーテール、ツーサイドアップと遊んでいると、不意にアルテアスキーは立ち上がる。
「いた! ……けど、んん?」
視線の先には金色の髪以外はどこか現実の自分の姿に似ている女性アバターの白ネームサンリッチと、その少し前を歩くどう見ても一〇歳前後の銀髪ロリ。
「あのロリっ娘を追いかけてるから、あの子がバディで間違いないのだろうけど」
グロウ・バディズ・オンライン。またの名を性癖博覧会。
その不名誉な呼び名の由来は、バディのキャラメイクを自分で行える事から、自らの性癖を詰め込んだマニアックなバディが誕生し、それを自慢気に見せびらかすプレイヤーが大量に発生した事にある。
余談だが、博覧会とは種々の産物を陳列し公衆に見せ、販路拡張と改良進歩を目指して開く会、である。
つまりは、そういう事なのだろう。アルテアスキ―、本名日向菊葉は現実の知人、もとい親戚の見てはいけないものを見てしまったようだ。もはや、その口からは乾いた笑いしか出てこない。
なんとも言えない感情のまま、主の髪を好き勝手にいじってご満悦のリゼを見る。
「リゼ、何か美味しいものでも食べに行きましょう」
「本当ですか! なら、私イーストンで魚料理が食べたいです!」
「いいわね。それじゃあ、イーストンへ転移しましょう」
(GBOが性癖博覧会と呼ばれているからといって、全てのプレイヤーが自分の性癖を詰め込んだバディを作るわけではない。葵くんもやむを得ない理由があってあのバディにしたのよ。きっとそうね)
自分に言い聞かせるように、菊葉は心の中でそう唱えた。
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