第1.5話 都合の悪い記憶は忘れるか改ざんすればいい

 山神徹。未来人との噂もあるこの男は、比喩や誇張抜きで人類文明を五十年スキップさせた。

 山神の完成させたフルダイブ型VRシステムはあらゆる分野で活用され、人類を次のステージへと進めた。


 かつてのファンタジーはリアルとなり、その恩恵は当然ゲーム業界にも齎された。

 ゲームの中に入る、というゲーマー達が一度は夢見た理想ファンタジー現実リアルにした山神は、ゲーマー達から神と讃えられている。


 その山神が開発メンバーに名を連ねたGBOは、オーパーツレベルの技術が詰め込まれた、ゲーマーが感涙し開発元のフューチャークラフト社本社ビルの方角に礼拝する出来となった。


 しかし、文句なしの神ゲーであるGBOだが、そのゲームシステムから不名誉な別称が付けられている。

 それは、性癖博覧会。



 少年とも少女ともとれる中性的な容姿の従弟が店を後にするのを見送った菊葉は、ニヤァと口元を邪悪に歪める。


「さぁーて、見せてもらおうかしら。葵くんの性癖を」


 菊葉は他の客が来る前に急いで店を閉め、シャッターを下ろし張り紙を貼る。


 店の隣の自宅に戻り、軽くシャワーを浴びて全裸のまま寝室に向かう。途中冷蔵庫からエナジードリンクを取り出して一気に飲み干し、ヘッドギア型のゲーム機を被りベッドに寝転ぶ。


「あー、楽しみだなぁ。葵くんはどんなバディにするんだろう。私みたいなのだったらどうしよう」


 菊葉は葵の初恋の相手である。そして、菊葉は葵が思いを寄せている事に気づいていた。


 しかし、葵のその想いは菊葉の部屋で大人用おむつを見つけた時に粉々に砕け散った。流石に葵に敬語を使われた時には三日程泣いたが、しかし葵が菊葉に魅力を感じていたのは事実である。


 その事実だけがあればいい。


「コネクト」


 音声コマンドで電脳空間へダイブした菊葉が浮かべていた笑みは、悪戯を仕掛けた子供のようであり、恋する乙女のようでもあった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る