グロウ・バディズ・オンライン〜幼女師匠(幼女ではない)と美少女弟子(女ではない)の神ゲー攻略〜
結城ヒカゲ
一章 月見えぬ夜世界は加速する
第1話 キャラメイクはプレイ時間に含まれますか?
「癒しが欲しい。具体的には年上で美人で巨乳なお姉さんにおぎゃりたい」
学生にとってラスボスであり中ボスでもある期末テストを乗り越えた俺を、カウンター越しに立つこのゲームショップの店長は腕を組んで見下ろす。
「悪いわね。法律はお姉さんにもどうにもできないわ。残念だけれど」
年上で美人で巨乳な残念なお姉さんは、悲し気に目を伏せる。
いや、貴女の事ではないです。てか、おぎゃるのに法律は関係ないだろ。何するつもりだよ。
テスト期間中の為午前中で終わった学校帰りに寄った個人経営のゲームショップ『サイバイバー』。そこの店長であり従姉の
ゲーム廃人とは、ゲーマーの中でもリアルとゲームを天秤に乗せた時、ゲーム側に傾きその勢いでリアルが数百メートル上空まで吹き飛ばされる人種の事を言う。中にはゲームに人生を捧げながらリアルも充実しているという特異個体も存在するが、通常とは異なるから特異なのであって通常はリアルは目も当てられない。
目の前の
ただ二年程前、一度菊葉姉さんの部屋に遊びに行った時、大人用おむつが置いてあったのは流石に引いた。俺も廃人に片足突っ込んでいる状態ではあるが、まだおむつやペットボトルのお世話になった事はない。
ともかく、ゲームの為に人としての尊厳まで捨てられる人間におぎゃる事は俺にはできない。そもそも、リアルでおぎゃりたいなんて一言も言っていない。
「はいはい、分かってるわよ。そんな葵くんにピッタリのゲームがあるわ」
菊葉姉さんは店の一番目立つ場所に大量に積まれてあるゲームソフトの一つを俺に差し出す。
「グロウ・バディズ・オンライン。葵くんも名前くらいは聞いた事あるでしょ。今一番熱いゲームよ」
「んー、MMOかー」
俺は基本的にソロのゲームしかやらない。別にこだわりがあるとか、過去にネトゲで嫌な思いをしたとかではなく、単純に俺はゲームに入り込むタイプなのでロールプレイを人に見られるのが恥ずかしい。
「葵くんがオンゲーやりたがらないのは知ってるけど、これをやらないのは流石に勿体ないよ」
菊葉姉さんの言いたい事も分かる。グロウ・バディズ・オンライン、通称GBOは去年発売されたプレイヤー数一千万を超える文句なしの神ゲーだ。
何を隠そうこの俺もそのパッケージに手を伸ばしかけた事は一度や二度ではない。それでもこの一年間最後の一歩を踏み出す事ができなかった。
だが、遂に時が来たのかもしれない。MMOという底なしの沼に飛び込む時が。
「……買う」
「毎度ありー。拡張パック付きの特装版もあるけどどっちにする?」
「特装版」
当然だ。正直一万五千円はかなり痛いが、ここで妥協していては廃人への道は拓かれない。いや別に目指してないが。
菊葉姉さんから袋を受け取り店を出る。
俺はゲームが好きだ。新しいゲームを買った時の、このワクワクが大好きだ。他の物では味わえない高揚感。これだからゲームはやめられない!
家に帰ると先ずお湯を沸かし、五分タイプのカップ麺にお湯を注いでシャワーを浴びる。気分はさながらRTA。やった事ないけど。
烏すら置き去りにする早業でリビングに戻ると、ちょうど五分のタイマーが鳴る。一分で汁まで飲み干し自室にダッシュする。
GBOのソフトを本体にセットして電脳の世界へダイブする。特装版だから設定資料集とかついてたけど、ネタバレは嫌だから読むのは後だ。
ソファとテーブルがあるだけの殺風景なマイルームに降り立つと、拡張パックのインストールに時間がかかる為その間にGBOの公式サイトを覗く。
世界観は剣と魔法のファンタジー世界で冒険者となり世界中を旅する、というオーソドックスな物。しかし、通常メインストーリーと呼ばれるプレイヤーが辿るべき道はなく、プレイヤーは自由に世界を冒険する事ができる。
全プレイヤー共通のワールドストーリーというものがあるらしいが、その進捗率はサービス開始から一年たった今でもゼロのままだ。
それでも神ゲーの名に翳りがないのだから、クオリティは推して知るべし。てか、どんだけ自由度高いんだよ。
お、インストール終わった。では参ろう。GBOの世界へ!
先ずはオープニングムービー。これは何回も見たからスキップ。
キャラメイクはプリセット使ってもいいけど、どうせなら新しく作るか。
俺は基本的にアバターは女性にしている。何故かって? 男は皆美少女になりたいという潜在的な欲望を抱えているのだよ。
アバターの性別を変えても声は変わらないが、俺の地声は男にしては高く、女にしては低い丁度中間くらいの声だ。見た目が美少女なら女に聞こえない事もない。
オンゲーをやるのは初めてだから、所謂ネカマデビューというやつだ。
さて、プレイヤーネームは『サンリッチ』と。本名の
キャラメイクは……ヤバいなこれ。めちゃくちゃ細かく作れる。時間溶けるなー。
折角だし気合い入れて作るか。
とりあえずこの辺で妥協しとくかな。そうしないと一生ゲーム始められない。
次は、バディもキャラメイクできるのか。これ今日ゲーム始められるかな。
名前は俺が
さて、最高のバディを作るとしますか。
「どうしてこうなった?」
完成した二つのアバターを前に、思わずそんな疑問が溢れた。
初心を思い出せ。俺は何の為にこのゲームを始めた?
それは、年上の美人で巨乳なお姉さんにおぎゃる為だ。
それを聞いた菊葉姉さんがこのゲームを勧めたという事は、つまりバディを年上で巨乳のお姉さんにしておぎゃれ、とそういう事だろう。
俺の前には二つのアバターが立っている。どちらも俺が作成した物だ。
一つは身長一六五センチくらいの金髪美少女。髪型はハーフアップで、瞳は髪と同じ金色。華奢な体型で胸はDカップくらい? 正に俺の理想のお姉さんだ。なんか菊葉姉さんに似てないか? いや、気のせいだな。
もう一つは身長一五〇センチ弱の幼女。腰辺りまで伸びる銀髪と蒼穹の如き澄んだ碧眼。幼さの残る顔立ちは見た目一〇歳くらいだ。
少々幼過ぎた気もするが、まあお姉さんにおぎゃるならこのアバターでも悪くはないだろう。
問題は前者が俺のアバター、後者がバディのアバターという事だ。え、何で?
途中から薄々気づいてはいたよ。なんかおかしいなって。でも楽しくなってついやってしまいました。後悔はしていません。反省もしていません。
もう一度心に問いかけてみよう。俺は何故お姉さんにおぎゃりたかったのか。それは癒しが欲しかったからだ。
つまり、癒しが得られるのならそれはお姉さんにおぎゃる事でなくてもいい。
ふう、危ない危ない。手段が目的になっていた。
であるならば、制作時間五時間の幼女ちゃんと旅をするのも悪くないのではなかろうか。というか、ぶっちゃけもうどうでもいいから早くゲームしたい。
キャラメイクを終了したら、次はステ振りか。
このゲームはレベルアップ等で貰える
俺はいつも通り移動砲台ビルドにステ振りする。移動砲台ビルドとは、その名の通り移動しながら高火力の魔法をぶっ放すスタイルの事だ。
次は
最初に選べるのは戦士、武闘家、狩人、魔術師の四つ。当然魔術師だ。
バディの職業も選べるのか。俺のステータスは紙装甲なのでバディにはタンクになってもらいたい。という事でバディの職業は戦士。
さて、次は……バディとの関係も設定できるらしい。母娘、姉妹、友達、主従、仇なんてのもある。
関係によって好感度が上がりやすかったり、ステータスに補正がかかったりする。
俺が選んだのは師弟だ。師弟を選んだ場合、プレイヤーは弟子にしかなれない。師匠は弟子の持つスキルや魔法を全て使え、弟子は師匠からスキルや魔法を習う事ができる。
まあ、その辺のシステム的な所はあまり見ていない。幼女師匠というのがなんか面白かったから師弟にしただけだ。
この関係は好感度やクエストで変わる事もあるらしいから、最悪後で変えればいいだろう。
何はともあれ、これで漸く設定は終わりだ。いよいよゲームスタート、と思ったけど時計を見ると午後七時。
一旦ログアウトして晩ご飯食べるか。
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