21 館にお邪魔 1

 冒険者組合



 今より1000年以上前

 一人の人間と一人のエルフによって確立された組織。


 冒険者自体はその当時より存在していたが『冒険者』という職業が確立したのはこの時からだ。


 そもそも、冒険者はフリーランスの傭兵のイメージが強く、日雇いで仕事を探し町に定住しないので、婚期に恵まれず収入も安定もしない自由業という認識が殆どだった。現にその当時は当たり前の生活からはかけ離れた内容に蔑まされ石を投げられるような者達が殆どであったという。


 ただ、それは1000年以上昔の話。

 今と昔には、雲泥の差がある。

 

 主な要素としては以下の5つ


 ・依頼の斡旋

 ・レベルに応じた依頼の振り分け

 ・『扉』による移動の簡略化

 ・トラブル対応、罰点ペナルティ

 ・指導者ガイド



『扉』によって町に留まる事が出来るようになり、S級からE級まで組合が各個人に身の丈に合う依頼を勧めるので収入が安定しやすい。受注者とのトラブルも組合で対応し、場合に応じて罰点ペナルティを課されるので冒険者の横暴な行動の抑制にも繋がる。



 極めつけは『指導者ガイド』の存在。



 冒険者のいろはにほへとを叩き込み、依頼の達成率を底上げする。時には戦闘技能、魔物対策、パーティ連携の指導等を行い、心を授け、技術を授け、体を授ける。



『冒険者の母』とも称されるその女性の元に

 今日もまた一人、尋ね人が訪れていた。




「ルリアーネさん!」



「あら、何か急ぎの用事かしら?」



 綺麗に整えられた金髪をボブカットにした眼鏡美人。今日も彼女はけだるげに本部大広間のカウンターで仕事をしていた。


 目元には若干の隈があるようにも見える。

 相当お疲れだ、と翔太は思った。



「キャニィが起きたらどこにもいなくって、ここ来てませんか?」



「ん...あー......来たわよ」



「ホントですか!??」



 確かに早朝、ルリアーネはキャニィを見ている。

 ただ徹夜中なのもあって、半信半疑だった。



「行き先までは知らないわよ?でも依頼中でしょうね」



「そっかぁ......」



 途端にしょんぼりする翔太を見て、彼女はにっこりと笑った。



「じゃ、こういう依頼受けてみない?」



 そう言って彼女は一枚の依頼書をひらひらと見せた。

 依頼名は『話し相手になれる方を探しています』


 D級の依頼、依頼内訳は白紙。

 報酬は銀貨十枚、E級依頼50個、D級換算で10個分。



「なんですかこの胡散臭い依頼」



「そう言わないで、話すだけよ、楽じゃないかしら」



「銀貨10枚は流石に阿呆が過ぎませんか?」



「それも、理由があるのよ」



「理由?それ......聞いても」

「だめよ」



 にっこりしたまま、即答。

 翔太もこれには顔をしかめる。



「断っていいですか?」



 組合は依頼の斡旋をするだけであって強制はしていない、属するだけの依頼をこなしていればの話だが翔太はその条件を十分に満たしている。



 が例外が一つ



「貴方の研鑽の為に指導者としての特権を使います」



 ガイドのみ冒険者に対しての依頼の強制が可能である。

 これを断った冒険者は、今のところ存在しない。



「それズルくないですか?」



「ズルくないわよ~」



 ポンポンと肩を叩き、そのまま背を向けさせる。

 おまけに依頼を受注させる手続きも済ませた。



「さ、お行きなさい」



「はいぃ......」



 立ち去っていく翔太を見届けた後

 欠伸と共に彼女は仕事を再開した。




 ~~~~~




「あとで文句言おう、これは特権の乱用だって」



 多分その前に怖気づくけどね。

 だって怖いもん、ほんとに。



「この家か、立派だなぁ」



 アルベント王国、エーテルから北に行った所にある街。

 今回は『扉』によって簡単に来れた、扶養が効くっていいね。


 住所通りならここだ、見た所貴族の家のようだ。

 庭も広いし遠目に見ても手入れされているのが分かる。



「っとと、まずは入らないとね」



 門に近づくと、独りでに門が開いた。

 恐る恐る玄関まで近付き、ノックをする。



「D級冒険者のショータです!依頼を受けてここに来ました!どなたかいらっしゃいますか?」



 いつまで待っても反応が無かった。

 痺れを切らした僕は、扉を少し押した。



「は?」



 目の前に矢が飛んできていた。

 反応出来た自分をほめてあげたい。



「銀貨10枚の理由なんて知りたくないよ」



 扉の奥は長い廊下だった。

 蝋燭の火が点々とあるだけで、奥までは見えない。


 矢が飛んできた理由は、分からない。

 出来れば、このまま何も起こらないでほしい。


 念のため、剣は抜いておく。



「ゴーレム?いやただの人形か」



 歩いていくと、奥が少しずつ見えてくる。立っていたのは無骨な身体を骨組みだけの人形。手には包丁のようなモノを持っていて、見るからに危ない。


 そして大きい。

 僕の1.5倍はありそうな体躯だ。



「襲いかかるまでは分かってるけど」



 千鳥足でこちらに駆け寄る人形に対し

 素早く足元に滑り込み、その足を断つ。


 素早く立ち上がり、上半身を十字に切り裂いた。



「ふぅ......よし」



 動く気配も無い、弱点を斬ったのだろうか?

 人形を端に寄せて置いて先に進む。



(この家どうなってるんだ?家のサイズと廊下の長さが全く合わない。四次元空間か?)



 数分程進めば違和感も確信に変わる。


 考えられるとしたら、『扉』のような【空間転移】で全く違う空間に移動させられた。もしくは【空間拡張】丁度キャニィが持っていた手提げ籠と同じ能力で空間を四次元的に広げているかどちらかだと思う。



「立ち去るべきか......いや進もう」



 これはルリアーネさんが僕に寄越した依頼。


 わざわざ依頼を掲示板じゃなくて、個人で持っているなんて不自然だ。何らかの意図があって僕に向かわせているに違いない。むしろそうじゃないなら、絶対後で文句言ってやる為に無理にでも行くしかない。





 ――どれくらい歩いたんだろう



 あれから人形が幾回か襲ってきた。


 変化の無い廊下で見られる唯一の変化だったから逆に人形が襲ってくるのを待っている自分がいる、それくらい景色に差違が無い。でもなんか会うたびに強くなっている気がするし、武器も増えるし、体躯もデカくなっている気がするし......意図的にやっているとしか思えない。



「もう絶対文句言ってやる」



 労働組合という組織が作れるって本で読んだ、同じような思いをした人何人か集めて行動を起こそう。表立って文句が言える空間を作るんだ。


 一人だと怖いからね、皆で言えば怖くないってね。



「そのまえにまずこの廊下を抜けないとな」



 今更だが改めて廊下をよく見てみよう。


 横幅が十分に取られた長い廊下、明かりは壁に等間隔で供えられた蝋燭の淡い火だけ、紫と赤と緑の三色を中心に彩られている、どういう配色なんだろうか。

 人形も最初は骨組みだけだったけど徐々に衣服を着せ替えるようになり、ウザい。誰かが意図的にやっているとしか思えない。



「このセンス無い廊下しかり、人形しかり......変わり者って感じ」



『は?ガキお前今なんつった?』



 突然、廊下の奥から聞こえた声。

 口調は軽いし、声も若い感じがする。


 依頼者だろうか?



「あの~依頼者様ですか~?」



『センス無いとか言ったなガキ、その言葉後悔させてやる』



 話が通じる気配が無い。

 大分怒っているらしい、謝って済めばいいけど。


 ってなんだ......嫌な感覚が前から




『死にたくなきゃさっさと失せろ、ガキ』




 カツン、カツンと音が響く。

 暗闇の奥から徐々にその身体が姿を



「さっきまでの人形は何だったんだよッ」



 不格好な四足歩行に加えて、殺傷能力の高い爪と牙、廊下が堅苦しいと感じる程の体躯。犬の様な三つの首ととそれら全てが骨だけのスケルトンになっている事。



 コイツが、この家の門番......番犬か





『死なない程度に追い返せ』

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