20 軌跡 2

 三日程同じような事を繰り返した。


 ある程度魔素を扱えるようになったし、昔では考えられない程筋肉も付いた。

 出来るようになる事が増えるとやはりテンションが上がる。


 キャニィからこの訓練の終わりを告げられた時思わず天に向かって吠えた、そして頭をぽこぽこと叩かれた、ちょっと......痛かった。



「探し物見つかりましたよ」


「お嬢ちゃん達ありがとうね。これ依頼とは関係ないんだけれどね、うちの庭で取れたんだけどお二ついかが?」


「「ありがとうございます!」」



 今はエーテルで受けられるE級の依頼をこなしている所だ。

 ゴミ拾いから、掃除、探し物とか......まぁ雑用が殆ど。


 でもお金は少しだけど貰えるし、こうやって依頼主からほどこしを貰う事もある。面倒な依頼は多いけどその分達成感が大きい。



「E級の依頼を何個か掛け持ちしてお小遣いを貰ってる子も多いんだよ」



「へー......え、年齢制限解かないの?冒険者って」



「8歳以下は無理。でも申請書があれば6歳まで緩和出来るよ」



 6歳か。その年で冒険者になる子もいるんだろうなぁ。


 実際にはE級の今僕らがやっていたような依頼ばかりなんだろうけど、確かにお小遣い稼ぎと考えたらアリなのかもしれない。



「D級からは魔物の素材を獲りに行く依頼が増えてくるよ、まぁ基本初等教育習ってれば倒せる魔物ばかりだからさ」



 そう言って彼女は左耳に掛かったブラウンの髪を一束掻き上げる。すると、彼女の眼と同じ色をした結晶の耳飾りが見えた。



開示オープン



 すると目の前に半透明のウインドウが現れる。



 <現在受注中の依頼  1件>

 ・ゴブリン退治  D


 <報告待ちの依頼   3件> 

 ・——————— E

 ・——————— E

 ・杖の探し物   E




「これで今日の依頼の内三件は終わったね、あとはD級のゴブリン退治だけ」



 ゴブリン退治は厳密にはゴブリンの角の採取をしてほしいという依頼だった。大きさ問わずゴブリンの角×30、依頼としては楽な方だとキャニィは言っていた。


 エーテルから少々南下した所にゴブリンが湧きやすい魔素溜りがあるらしい。

 早速、僕達はそのポイントまで移動する事にした。



「道中油断しちゃダメだよ、今は私がいるからいいけどホントに勝てない相手と遭遇する時もあるから。出来る限り戦闘は避けてね」


「わかった」



 昨日呼んだ本の一部に書いてあった。


 魔物は強い生存本能を有しており逃走能力が高い個体が多い。

 弱い魔物程逃げる術を持ち合わせている。例:スライム


 他の魔物を呼びつけて、対処する隙に逃げるという手段を持っている魔物もいるらしい。むやみやたらに戦闘を仕掛けてはいけない理由が良く分かる。



「ここからはショータ、頑張ってね」



「うん、分かった」



 ゴブリンが湧きやすいというポイントに着く。


 森?と呼ぶには木が点々と生えている。それに高低差が激しい。

 一度入り込んだらしっかり痕を残しておかないと。



「やばそうだったら、これ鳴らして」



「これは、笛?」



「跳んでくから、ね。安心して行って来て」



 ほら、と言って背中を押したキャニィ。

 清々しい笑顔だった、心配無用という顔だ。



「さて、どうやって行こうか」



 足を踏み入れる、一歩一歩確実に進んでいく。

 枝葉がパキパキと折れる音と木々のざわめきだけが響く。



(静かだ)



 とても魔物が現れるとは思えない。

 印を木々に括りつけながら、また奥に進む。



 油断はしていない、周囲は事細かに見ている。


 因みに武器は、ブロードソード。

 両刃の刃渡り70㎝くらいの剣だ。

 今は鞘付きで背中に差している。



 緊張感を保ちながら、また奥に進んでいく。



「あれ、人?」



 進んでいくと人影のようなものが見えた。

 木陰と見間違えたか?と思い、近づいてみる。



(こんな辺鄙な場所に人なんているわけ)



 突然意識外からの情報が視界に混入したので

 故意ではないがつい、気が緩んでしまった



 気が緩んでしまった。



「がはっ!!???」



 突然、脇腹に鈍い痛みを感じた。

 振り向くより前に剣を抜いて周囲を薙ぐ。



(ゴブリン??なんで突然!??)



 緑色の肌に狂気的な身体の造形、右手には木造の棍棒がある。

 身長的に僕の頭までは届かなかったらしい、脇腹で良かった。


(折れて......はないな、装備に感謝だ)


 剣を構えてみた、形だけだけど様にはなるか。



「「「「ギシャッッァヶガッ」」」」



「ん」



 あれ?喋れるって訳じゃないのか、いや魔物の中には独自の言語を確立している種族がいるって書いてあった。ならこれは......ゴブリン語?



「よし、切り替えろ」



 距離を取ってくるのは、有り難い。

 集中できる時間が増えるからね。



(魔素を腕に集中させて)



 薄水色の魔素が腕全体を覆っていく、だがあからさまなパワーアップは良くない。すぐさまゴブリン達は放射状に展開し徒党を組んで飛び掛かってくる。


「喰らえっ!」


 横薙ぎは空を斬る、機動力では完敗みたいだ。

 斬った勢いで前に倒れ込むようにして回避する。



「これならどうだ!?」



 剣を構えたまま、ゴブリン達に突進する。

 そして思いっきり横に薙ぎ払う。



「っと!」


「「「シャッァァァ!!」」」



 思いっきり隙をさらした僕に飛び掛かるゴブリン。

 でもさっきのは陽動でこっちが本命。


 勢いのまま振り向き様に斬る。



「「「シャハハッ」」」


「避けられた!?」



 まずい、やられる



「なんてね」



 僕は勢いのまま剣を投擲した、それは右端のゴブリンの首に突き刺さる。

 そのまま距離を詰めて剣を引き抜けば元通り、なんとか上手くいったようだ。



「棍棒もらっちゃおう」



 貰った棍棒を別のゴブリンに投げつけて距離を詰める。

 そしてリーチの差を活かして首を断つ。


 ドサッと首が地面に転がった。



「よし。これで二匹だ......あと一匹」



 周囲を見回してもう一匹を探したけど、いない。

 逃げたっぽい、面倒な事にならなければいいけど。



「面倒な事になった」



「「「「「「シャッァ!」」」」」」



 十数匹引き連れてきた、ふざけるなと言いたい。

 ちょっとデカいのも引き連れている僕よりは小さいけど。


 こっちは満身創痍でようやく2匹だ。

 さっき切り取った角は合わせてまだ3本、あと27本。



「これは吹くしかないか」



 口元に咥えて、空に向かって一息。

 高細い音が、こだまする。



「おまたせ、待った?」



 ストン、と空から着地したキャニィは

 既に炎の衣を纏っており、臨戦態勢だった。


 揺れる炎はローブのようにゆったりとした印象を持たせつつも、動きの出るアシンメトリーな裾を用いることで上品で優雅な一面も見る事が出来る。



「いや、今来たとこ」

「なにそれっ......まぁいいや、伏せてて」



 言われた通り、伏せる。

 でも視線は上のまま。


(うん、圧倒的だ)


 瞬きする間にどんどん数が減っていく、凄いスピードだ。猫のようにしなやかに跳び回りつつも獲物を仕留める時はまるで猛獣、野生の力強さを感じさせる。



 でも



「あ.........やばい、角ごとやっちゃった」



 少しお茶目な所が、愛おしく思えるのは

 今はまだ心の内に秘めておこっと。



「——よし、やっとの思いで30本だ」


「おつかれー」



 あれから、湧きが良くなくて大分時間をかけちゃったけど無事30本のゴブリンの角を手に入れることが出来た。質も全部問題なさそうなので組合までもっていけば本日の依頼は完了だ。


 日没まで後僅かという所、丁度終われてほっとする。



「初めて魔物を殺した気分はどう?」



「気分は良くないけど、仕方ないコトだから」



「へぇー、私の知り合いには、飛び出た臓物を見て思わず吐いたって人もいたけど、ショータは大丈夫そうだね」



「うん、平気」



 これは嘘だ。


 ゴブリンの首を斬った感触は今も手の中に残っている。思い出さない様にしているだけで今も吐き気を頑張って抑えている、それだけ、だ。



「そういえば、ここって他の冒険者とかも来るのかな?」



「あー、どうだろう。目ぼしい魔物は殆ど湧かない地域だから、あんまり旨みは少ないかもね」



「ふーん、じゃあ気のせいか」



 色々考えるのはよそう

 今はただ、帰路につけばよかろうなのだ。







「あれが、転移者か」



 男は、ただそこで待っていた。


 生き延びた代わりに得た情報を頼りに、低級で且つ最も取っつきやすい討伐依頼が受けられる場所に彼はずっと待っていた。



(一緒にいたのは、キャニィで間違いないだろう。大きくなった......思わず見間違えてしまうほどに)



 男の脳裏には一人の少年が根強く残っていた。



(あれは側だ、間違いなくそう断言出来る。ただまだ自覚もしていなければ、兆しも見えない)



 早めに摘み取っておくのが幸

 それは、男も理解している。



「まぁ、俺も自分の命と交換する気はない」



 あの時、すぐにでも殺しに行かなかったのは正解だった。

 そうしなければ失っていたのは自分だった。


 背筋にゾクりとしたモノが這う感覚に

 男は思わず口角を上げた。



「もう......日没か」



 辺りはもうすっかり暗くなっている。

 外灯も無ければ月明かりも無い。


 だが


 その白髪は暗闇に良く映える。

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