14 ︎︎認知してあげない
「なッ!?」
先に声を上げたのはリガンの方だった。
彼は心底驚き、同時に困惑した。
(今の一撃は心の臓を貫いていたハズ)
リガンは男が右半身を消し飛ばされた事よりも即死しなかった事に驚いていた。
あの一撃を受けて命を保つことが出来る人間は数える程度しかいない。
だからこそ恐怖が勝った。
しかし、即死しなかっただけで
その命はあと数秒で潰える。
「ごふッッ......ッ゛いて゛ぇ゛なぁ゛」
おびただしい量の吐血、欠損部からの滝のような出血。生命の維持に関わる重要な臓器が尽く抉り取られており、もはや延命は不可能。
嵐の前の蝋燭の火。
誰が何をしても死ぬのは目に見えている。
死にゆく男にリガンは目を背けた。
その視界から男を拒んでしまった。
つまり一瞬だけ隙を見せた。
「油断だな゛ぁ゛」
――男は何かを持っていた
そしてそれを自らの身体にぶつけた。
パシャリと音が鳴り、中の液体が吹き出る。
――見る見るうちに身体が再生していく
それに気づいたリガン。
だが遅い、それでは届かない。
「次は直接お邪魔させてもらうぞ゛」
そう言って男は再生した
右腕を口へもっていく。
そして
「【
跡形も無く、その姿を消した。
一瞬の内に辺りは静寂に包まれ、まるで何事も無かったかのように張り詰めた空気は散布する。
「クソッッッ!」
地面を叩くリガン。
嘲笑うかのようにざわめく木々達も
真夜中の暗闇に染まった空気も
何も言葉を返さない。
そして彼は思い出す。
『逃がしたら?うーーん、減給か書類仕事かどっちが良い?両方でもいいわよ?』
この後が大変だと白い靄を吐くのだった。
〜〜〜〜〜
「うわ、何があったんですかこれ」
昼時に起きて昼食を済ませた後、エーテル支部の小酒場への道に着いていた最中それを見た。
「なんでも魔物との戦闘があったらしくてね、外壁が一部崩れちゃったみたいなんだ」
「ご親切にどうも」
「いいってことよー」
外壁の一部が崩れていた。
いや、抉られていた?のかな。
なんか引っかかる気がする。
流石に崩れるにしては随分と綺麗な断面だなぁと最初は思った。
先に瓦礫とか撤去したり、変な部分を削いだりしないと復旧作業出来ないかと自己問答をした後何事も無くその場をスルーした。
「あれ、どうしたんですか?」
「お?おぉ、おにーさんじゃねぇか!元気か?」
「僕は元気ですけど、その傷と顔の腫れは?」
小酒場の初老の男性(支部長さん)は体中傷だらけで包帯を巻かれていた。
あと顔がパンパンに腫れている。
何があったんだろう?キャニィの方へチラッと顔を向けてみたが手を青空に向けて首を振っている、心当たりは無いらしい。
「昨晩魔物との戦闘があったって聞いたんですが、それ関連ですか?」
「魔物......もはや魔人、いや天災......」
「おじさーん?」
ブツブツ言いながら黙りこくってしまった。何か気に触る言葉を言ってしまったらしい、少々反省しないとね。
そして『扉』を開けてもらって
組合前の巨大な通路の前に出る。
「おぉ?これまた人が多い」
通路には昨日の3倍くらいの人で溢れていた。
キャニィもこんな事滅多に無いと隣で騒いでいたのが印象的に写った。
その後、2人してキョロキョロしながら本部のエントランスを目指して歩く。
「ルリアーネさんいますか?」
受付の女性の人にキャニィがそう尋ねる。すると少しお待ちくださいの声とほぼ同時のタイミングで扉の1つが開いた。
「いるわよー」
「なぜに扉から!?」
「ん、なんとなく」
欠伸を隠す素振りも見せずトコトコと歩いてくる。変わった人だなぁと改めて思った。
「彼......ショータの冒険者登録がしたいんですけど内密な案件で」
「なら場所を移しましょ、ついてきなさい」
カウンター内に手巻きされ恐る恐る中に入る。一枚の扉の前に案内されその奥へと進んだ。
通されたのはただの個室。
窓も無く質素で地味な部屋だった。
「本来は尋問とかに使う部屋だよ」
とキャニィが耳打ちをしてくる。
すごく納得した、うん。
「さ、座って頂戴」
僕が椅子に腰掛けると隣の席をキャニィが、僕から正面の席にはルリア―ネさんが座った。
「さて、まず登録の手続きをパパっと済ませましょう。はいー手出して」
「うぇ」
突然手を捕まれる、動揺して少し変な声が出た。
「はい、これでOKー」
「これは......腕輪ですか?」
伸縮性のある青白い腕輪、手を振っても取れないくらいの自然なフィット感だった。
「それが冒険ライセンスね。形状は後で変更出来るから仮で付けさせてもらったわ」
「冒険者ライセンス......」
「身分証明書兼、実績みたいなモノよ。無くすと再発行ほんっとに面倒だから無くさないでね」
見た感じただの腕輪だけど、これも魔法か何かで【
「次は情報の登録ね」
そう言って幾ばくかの質問をされる。名前、年齢、性別等の基本情報が主な質問だったが【能力】についても聞かれた。
これは答えなくても良いとの事だったので、今回は見送りさせてもらった。
数分程経ち、ようやく情報の登録が終わる。
本来は【
「あとはこの情報を母機に同期させるだけで晴れて冒険者になれる」
「ありがとうございます!」
「だからここで保留にするわ」
「???」
何を.......言っているんだろうか。
僕は意図が分からず、黙り込む。
「キャニィ、すこしこの子借りてくけどいいわよね?」
「え」
「返事は?」
「は、はいっ」
キャニィの返事を聞いてにっこり笑った彼女は僕の方を向き直しハンドシグナルで扉へ向かうように指示をした。
歩き出した彼女の背中をあわてて追いかける。
「ここは......」
僕が連れてこられたのは、まるで中世の闘技場を縮小したような場所。床は荒めの砂が敷き詰められていて動きやすい。
壁までは周囲30mくらいで、壁に含まれている魔素が色濃くなってることから正真正銘戦うことを目的とした場所だと分かる。
「きみ、他の世界から来たでしょ?」
「え、なんで分かって」
「そう、それよ。その反応」
「反応?」
「身体の反応は時に口よりも雄弁に真実を語るわ。きみの場合はまさにそれね」
何にでも反応を示しすぎるあまり、逆に不自然に映ったということなのだろうか?
浮き足が立っていたのは事実だけど、自分なりに気をつけていたのも事実だ。
振り返れば思うことも多い。
「一応、1つアドバイスをしてあげる。この世界では異世界からの来訪者を歓迎する国とそうでない国キッパリと別れているのよ」
「異世界から人が渡ってくることって多いんですか!?」
「?......ええ、そうだけど」
僕の記憶が正しければアテナ様は
『世界間の移動は無謀に近い』
と言っていた様な気がする。この言葉が嘘だったとは思えないけど、ルリアーネさんの口ぶりから察するに案外ある事なんだろうか?
「何故か分からないって顔してるわね」
「......」
「んーまぁ簡単に言えば『邪魔』」
「邪魔?」
「来訪者にはこの世界には無い文化があり、そこから繋がる思考、発想。それら説得力を持たせる世界渡りの強さがある......邪魔でしかないでしょうね、国からしたらこんな異分子」
「なんで.......」
「国にとって利益を産むかも不利益を産むかも分からない。手綱を握る程の何かでも無い限り転移者の行動は縛れない、下手したら国ごと潰れる可能性もある......だから邪魔でしょって言ってるのよッ」
少し圧のある言い方で冷たく訴えかけてくるルリアーネさんの凄みに押される。
そして否応にも理解させられた。
「そしてこれから先、きみは幾度となく面倒事に巻き込まれるけど、それはキャニィも同じよ。いざとなった時にまた誰かが助けてくれるとは限らない」
「.......」
「だからきみだけ試験をしようと思うの」
「え?」
「私を認めさせなさい、でなければ冒険者になる事は許さない」
冒険になるためにはこの人と戦って認めてもらわないといけない。
僕はその事実に絶句するのだった。
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