13 ︎︎片鱗

 無数に存在する世界において



 全くの偶然か若しくは人為的な力によって人が世界を渡るケースは少なからず存在する。


 人為的な転移は『召喚』と称され

 自然的な転移は『神隠し』と称される。



 『召喚』の具体的な例としては

 勇者が分かりやすい。


 彼らは【空間転移】の能力と莫大なエネルギーを持って異世界から転移させられた者達だ。


 強制的に世界間の移動を強いられる為、体は強くその能力に抵抗しようとする。その為莫大な力と【能力】の発現が見込めるのだ。



『神隠し』は空間の歪みに飲み込まれる例が殆どだ。こちらも半ば強制的に世界間の移動を強いられるので同様の影響が見込める。



 つまり転移者が人外に強いのは


 生存本能を煽られて

 身体の限界を超えているから


 ということになる。




 まぁ者達にとっては最高なのかもしれない。



 異世界への転移が無謀と言われる理由はそれ以外の転移者の行末に隠されている。




 まだ翔太はその事を知らない。







「ここか」



 とある森にて男は地を睨んでいた。


 艶消しされたメタリックなスーツに身を包んだ大男で、長い白髪を後ろに纏めて縛っている。


 また右目には眼帯を付けており、顔中に痛々しい傷跡が刻まれていた。




「莫大な魔素の噴出反応。過去の例から考えても恐らく転移者かと思われます」



「追えるか?アンドリュー」

「特定は完了してます。ここから西南西に20km程進んだ箇所。そこに居るかと」



 地図を確認し指で追う。

 伝った先にあるのは街だ。



「エーテルか、面倒だな」

「何か問題でも?」


「いや......知り合いが居てな。まぁ人獣戦役の時だ、アイツももう覚えてないだろう」

「ご友人ですか」



 白髪の男は軽く頷いた後、後ろで待機している他の隊員達にハンドシグナルを送る。


 一挙に整列し、指示待ちの体制を取った。



「座標の伝達を頼む、それと今回は俺が先に様子見する」

「はっ」


「援護はいらん。俺は陽動にでも使えあくまで目的が最優先だ。忘れるな」

「はっ......【交信コンタクト】」



 能力の発動を確認した後

 白髪の男は飛び上がる。



「【空渡りの野心家カルーメン】」



 生成された洋灯を手に持っている限り

 際限なく飛び続ける事が可能。


 世界でも数少ない飛行能力だ。



「さて、いくか」



 風になびく髪を尻目に男はどんどん加速していき、わずか5分足らずでエーテルの外壁まで移動した。



「探知結界1層、防御結界2層の三層構造か」



 身に付けた鎧(魔道具)を使えば探知結界を素通り出来る。流石に防御結界は破壊するしか無い。



「生憎だな」



 しかし彼は防御結界の無効化が出来てしまった。

 男は外壁を飛び越え、その地に足を着けた。



「何者だ!?どこから来た!!」



 しかし姿までは消せない。

 降り立ったところで衛兵に見つかった。



「少し痛いぞ」



 突かれた槍を避けて、首筋に電気ショックを与える。衛兵は意識を失った。


 衛兵の体を近くの民家に隠し

 周囲を事細かに確認する。



 誰もいないようだ。



「.......さて」

「よう」



 耳元に刺さる声。



「そりゃいるよな」

「不法侵入は許さねぇよ」



 振り向く前に強烈なアッパーを左脇腹辺りに叩き込まれた、その反動で一瞬宙へ浮く。



「ぬう」

「まだまだッッ」



 両膝をがっちりと掴み、高く跳躍。

 エーテルの外壁を乗り越える。



「パワーーーボムッ!」



 その勢いのまま男は地面に叩きつけられた。

 爆発音のような音が響き渡り土煙が舞う。


 ぐったりと倒れ付す白髪の男。

 それを見下ろすのは初老の男。



「はっはは......効いてないだろ?」



「......相変わらずのバカ力だな、少しは酒次ぐの上手くなったのか?リガン」



「どうだかな。ま、テメェに飲ませる酒はねぇよ」



 小酒場のオーナー兼、エーテル支部長。

 元A級冒険者『剛腕のリガン』


 彼は本部から指示により

 ショータの護衛を頼まれていた。



「お前がお守りとは骨が折れる」



 ゆっくりと起き上がりながら、身体に付いた土を落とす。その動作は隙だらけだったが、リガン攻めない。



「テメェみてぇに現役じゃねぇよ」



 近くの岩を軽く砕き、出来た軽石を無造作に投げつける。幼稚な行為だが一つ一つが人の体程度なら貫通出来る威力を持っていた。



 散弾銃のように白髪の男を狙う。




「『盾変形メタモルフォーゼ』」



 スーツの一部が盾のように変形し

 軽石を完全に防ぎ切った。


 その行動にリガンは眉を顰める。



「昔はそんな道具便りじゃなかったろ?」



「時代は進んでるんだリガン、お前にも転職を進めるぞ?......『拳変形メタモルフォーゼ』」



 両腕の拳が殺傷能力の高いモノへの変化する。

 腕を切り裂き、穿つ事など容易いだろう。



「お前が匿ってる転移者さえ渡してくれれば、面倒な話にはならないんだが」



「無理な話だ」



 接近戦を仕掛けてくる男に対し、リガンは冷静に距離を取りながら受けに徹している。


 攻め立てれば勝機しかないが

 魔道具の奇襲性をリガンは舐めていない。



「どうしたリガン?【能力】を使え」



「テメェも使ってねえだろ」



 徒手空拳では互角。ただ殺傷能力の差でダメージは僅かにリガン方が上だった。



狂青銅クルセイド



 多段攻撃が可能な実体系の雷攻撃魔法。確実に消耗させる為に1発ずつ適所にて放出する。


 更に射撃系の水魔法を連発して距離を取る行為にリスクを課し、無駄打ちも地面に滑りを加えリガンが不利な状況に落とし込む。


 そして自分だけ【空渡りの野心家カルーメン】でそのリスクを無視する。



 徹底したリスク管理。

 決めては無いが打つ手もない。


 ただ削れていくはリガンの方だ。

 それでも尚防御の姿勢を崩さない。



「やる気はあるのか?」



「......」



 冒険者でA級に上がれる者は基本何かしらバグってる。それが分かっている男はますます癌のとる行動に不信感を抱く。



「ジリ貧だぞ?」



「......どうだろうなぁ?」



 あくまで攻めず受けに回り続ける。

 頑なに攻める意志を見せない。


 流石に怪しむ、そして気づいた。




「お前......誰かを待ってるな?」



「......」



(しくじったか)



 順当なら戦闘を開始して10分たった時点でほかの隊員達は到着しているハズ。


 防御結界の破壊に手こずっているのか

 標的の奪取に手間取っているのか

 それとももう故人になっているのか


 予定していた合図が一向に鳴らないこの状況がもはや答えといって差し支えない。



【空渡りの野心家】の能力で上昇を始める。




「またなリガン、次俺の前で腑抜けた戦いは見せるなよ」



「......」



「おいおい無視か?酷いなお前」



「元同僚のよしみで今回だけ教えといてやる」



「あ?」



「姐さんの射程......昔より長いぞ」




「は?......はっ゛?」




その言葉の意味を理解したのと同時に

男の右半身が跡形もなく消し飛んだ。

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