10 ︎︎エーテル
「はっ!!!」
どれくらい意識を失っていたんだろう。
岩から零れる光がまだ明るいのでそこまで長く眠っていないはず。
硬い地面で寝ていたからか、少し節々が痛い。
「体も重いな.......」
まだ意識が戻ったばかりだからか倦怠感を感じる。頭もあまり働いていない気がする。
(空腹のせいもあると思うけど.......)
僕は目線を上げて周囲を見回した。
「居ない.......って外か」
洞穴の中にキャニィの姿が見当たらなかったから恐らく外にいるんだろう。
僕は外へ出てみることにした。
「っと........あれ!もう終わってる!」
洞穴の外にもう超巨大スライムはいなかった。
その代わりにキャニィが佇んでいる。
キャニイの周りにはゼリー状の物体が散乱していてスライムの原型はもう残っていなかった。
そして彼女は倒したであろうスライムの何かを片手に、泣いている様に見えた。
「キャニィ!大丈夫!??」
「ッッ!!君!!生き返ったの!!??」
声に気づいたキャニィは振り返って僕の方を見た。そして一目散に飛びついてきた。
「えっ!?ちょっと何!?」
「良かった!!!良がっだにゃぁあ”あ”!!!」
キャニィは僕に抱きついたまま泣き出し始めた。腕が胸が僕を絶対に離さないとばかりに締め付けてくる。擁護がこんなに心地よいと思えたことは久しぶりだ。
「えっと.......泣かないで......キャニィ」
「えふぅ........うんっ!.........うんっ!」
愛らしい、愛おしい、愛くるしい。
この感情を表す術を僕は知らなかった。
とりあえずゆっくりと抱き締め返して、感謝と 安堵の思いを伝える。
「ありがとうキャニィ.......依頼達成だね」
「うんっ!.......君の望みだったから!」
「あはは、心配かけちゃったみたいだけどね」
「当たり前!魔素喪失は死んだのと同じにゃ!」
「魔素......喪失?」
「体内から魔素が無くなって死ぬこと!限界まで体を酷使するとこの症状が起こるのっ!」
「へぇ〜.........ってまさか!?」
「?」
僕は急いで能力開示を行なった。多分僕の予想が合っていれば
<
アテナの加護と寵愛を受けた証
一致度 5%
・超再生 ※使用不可
・生命保険 ※使用不可
・言語理解
・#gn34qDenlfsd#
超再生は自分の意思で発動したが生命保険は自動的に発動したようだ。表記が使用不可へ変わっている。
と、同時に身の毛もよだつような感覚がじわじわと湧き上がってくるのを感じる。
今僕は死んだ。
確かに今、死んだのだ
異世界への恐怖心がより一層煽られる。
「.......確かに一回死んじゃったみたいだね」
「え、女神!?.....神の眷属!?」
隣から顔を出したキャニイは、目の前の表記を見ながら目をまん丸にしていた。口がポカーンと空いている、可愛い。
っとそうじゃなくて
(これ自分以外にも見られるのか)
下手に能力開示をしてると僕が神の使徒って事だけじゃなくて異世界から来た人間って事もバレるみたいだ。
「あ、えーーと......部分的にはそう」
「ガッツリ女神の使徒って書いてあるけど」
「あー......そうです」
「むぅ、嘘はいけない」
ぷくっと膨れた彼女の頬をツンツンとつつくと空気が漏れる、その後叩かれた。
「教えて欲しいって言ったら教えてくれる?」
上目遣いに聞いてくる彼女の尻尾はゆらゆらと揺れている。これは期待しているな。
(キャニィになら教えても良いかな)
この秘密を1人で抱えるのが辛かっただけなのかもしれない。それでも僕は彼女に自分を知ってほしかった。
「じゃ、歩きながら話すよ」
「うん、そうしよっか」
西の街に向かう最中にキャニィはこの世界のことを色々と教えてくれた。
まず僕が転移したこの世界は
戦神アレスという神様が守護者として祀られていて名前は『トラルキア』というらしい。
この世界には
僕の体から出た薄水色のエネルギーとか途中で見た光る果実のやつとかは全部それなんだと。
一応、流れで光る果実食べちゃったけど大丈夫なのか聞いてみた。
『光る果実?......それ食べたら死ぬ』
何でも光で獲物をおびきよせて食った相手の魔素を吸収して新たな芽を生やす寄生植物らしい。
人間が食べると3,4日くらいで腹の中で芽を吹きだすらしい。
『ショータは魔素量が半端ないからリキュラは多分死滅するね』
とも言っていた。
想像するだけでけ悍ましい生存能力だけど、一応僕には害が無いみたいだからスルーしておく。そうしないと心象に悪い。
また
『多分スライムに追いかけられたのはいつもより数段弱い
こんなことも言っていたが正直嬉しくない。
僕......美味しくないよ?みんな食べ物としか思ってないの?立ち位置低すぎなんじゃないの?
と思ったけど僕今最底辺なんだよね。
身の程は弁えて行動しろと言われた気がした。
次にこの世界の国について
当然この世界でも国という概念はあり
大中小様々な国がある。
民主から独裁まで色々と存在するが、一旦は三つの国だけ覚えておいてと言われた。
まず一つ目の国『アルベント王国』
この森一帯と東に広がる平坦な大地を保有する大国
周囲には迷宮が多いので、多くの冒険者の拠り所になっている。
貴重な武器や防具、魔道具などが発見されるため国家を挙げて研究所が多いらしい。
今向かっている町もこの国の直轄地だ。
次に二つ目の国『獣人国家ティターニア』
アルベント王国から南下したところにある『ジガの樹海』という大樹海の中にある国。
女王がかなり外交的な性格なので国交が盛んに行われている。また色々な種族がいる為、多種族国家としても有名らしい。
最後に三つ目の国『エクシア帝国』
この森の西にある超巨大な山脈『アルティジア山脈』の向こう側にある辺鄙で閉鎖的な国。
だが完全実力至上主義の国であり三国のうち最も歴史が古く、最も兵力が強い。
次に
迷宮とは
大量の魔素が幾年も凝縮される事で誕生する『
特に魔素の密度が濃い場所に自然発生しやすく、人口密度が多い場所の近くや魔素の流れが停滞している場所(魔素溜り)でよく発生するらしく、アルベント王国の周りに迷宮が多いのはそのせいなのだと。
ついでに僕が迷宮行くなら
どこがいいのか聞いてみた。
『ショータが迷宮?一階層でも無理』
即答だった。
少し泣いた。
でもその後
『魔素量は人の何十倍にもあるみたいだから多分鍛えれば結構強くなると思う』
と言ってくれたので結構救われた気がする。
そしてしばらく歩き続けて
ついにこの瞬間がやってきた。
「あれが町の入口、名前は『エーテル』」
「や、やっと着いた......」
森を抜けた瞬間、目に入ってきたのは一面の壁。町全体を覆うように巨大な石壁がそびえ立っていた。
「ほんとに運が良かった、道中全く魔物いなかったし、守りながら戦うのは不安だったから」
「それについては、ほんとごめん」
「いいよ、気にしないで」
「うん......さっきから気になってたんだけど、あの壁って」
「魔物達から身を守るための外壁。防御魔法で強化してあるからそこら辺の魔物じゃ傷1つさえ付けることもできないと思う」
確かにあの壁には大量の魔素が含まれているみたいだ、肉眼で認識できるくらい滲み出ている。
「とりあえず話は中に入ってから」
「う、うん」
僕は街の入口に歩き始めたキャニィ
を小走りで追いかけた。
<あとがき>
『能力は魔素によって発現する』と記載がありますが、アテナが主人公へ能力を贈与しているので間違いです。主人公が忘れてます。
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