07 ︎︎教訓

「本物......だ」


 形も色も同じ、質感も同じだ。

 まさか本物のスライムに会えるなんて



 一気にファンタジー感が増してきて

 ぞくぞくと体の内が湧き立つのを感じる。


 本当に物語の世界に入ったみたいだ。



「なるほど.......そうやって食べるんだ」



 スライム達は今食事中のようで

 昆虫や小さい生き物、死骸を体に取り込み

 消化しているように見える。



 意外と消化するスピードは遅めのようだ。



「へぇ〜.........ってうわっ!?」


「「「「「ぽちゃん!」」」」」



 ちょっと音がしたので後方を振り返ると、そこに一面のゼリーじゃなくて......一面のスライムの大群が待ち構えていた。



 どうやら僕は

 食事中の姿に気を取られすぎていたようだ。



「「「「「ぽちゃん、ぽちゃん」」」」」



「や、やばいのかな!?」



 確かアテナ様の助言だと



『あなたは今生態系ピラミッドの最底辺の存在です!できるだけ其の世界の生物との戦闘は避けてください!例え明らかに弱そうに見えても!!』



 って言われたけど、思い返してみれば疑わしい部分がある



「「「「ぽちゃん!ぽちゃん!」」」」」



「こんな小さいのに?」



 スライム達の大きさは、だいたい小さめのカボチャくらいだから全然怖く見えない。むしろ愛らしい。

 

 寒天とかゼリーみたいで美味しそうだ。



 まぁ食べないけどね、食べ方知らないし食べれるかどうかも分からないからね。



「僕が最底辺だとしてもさすがにスライムくらい..........ってあれ?」







 ――事実、スライムは弱い



 魔物としての格付けでは最底辺に数えられる程度には弱い。ただそれは簡単な撃退方法が確立されている上、尚且つ女子供問わず使誰でも出来るという点で評価が落ちるだけであって


 対魔物において、対処法を知らない人間を相手する事においてはランク不相応の強さを見せる。



 その理由は主に三つ。



 1つは肉体を持たない魔素生物という点


 欠損という弱点が無い為、核さえ無事であれば威力度外視で何度でも体を再生することが可能。



 2つ目は単為生殖という点


 スライムは種を増やすのに異性を必要とせず体内にて核を分裂させることで、理論上ではあるが無限に増殖する事が可能。



 そして3つ目



 体内の核を出来るという点だ。






「「「「「.............」」」」」



 

 スライム達は突然動きを止めた。

 不気味な程に全員の行動が一致している。



 嫌な予感がした。



「「「「ぽちゃぽちゃぴちゃぴちゃ」」」」




 一体、また一体と次々にスライム達は集まってくる。


 スライムは少しずつ巨大化し始めたのだ。ほんの少しずつであるが確かに大きくなっている。



 そして



 全長が僕の身長の3倍くらいになった時この超巨大スライムは動き出した。



「あぁあああぁあああ!!!!!」




 僕はその場から背を向けて走り出した。


 普通に考えて勝てるわけがない!どう考えてもコイツは僕より高い位置にいる!(生態系ピラミッド)



 スライムはその超巨体をまるで感じさせないが如く。ガゼルやカンガルーより遥かに高い跳躍を見せながら、木々をなぎ倒しこちらに向かってくる。




「やばい!やばい!やばい!!」



 僕は攻撃能力を一つたりとも持ち合わせていないんだぞ!?これじゃただ飲み込まれて溶かされるだけだ!



「ぼっっちゃん!ぼっっちゃん!」



 下手に刺激しないようゆっくり後退していたので、現状スライムとの距離は十数メートルはある。



 が、このままではジリ貧だ。



「誰か助けてくれぇぇぇ!!誰かぁぁぁ!!」



 僕はスライムから逃げるため全力で足を動かした。だが道は平坦でもなければ坂一辺でも無い。


 速度を維持するためにルートを選ばなければいけない分、体力を多く削られる。



「誰かぁぁぁぁ居ませんかぁぁぁ!!!!」



 ああ、スライム舐めちゃだめだ。

 心からそう思った、本当にそう思った。


 いやそんな教訓に浸ってる場合じゃない。



「やばい!やばいっ!!!」



 異世界に来てすぐに溶かされて

 死んだりとかしたら


 アテナ様に見せる顔が無い。



 ならばどうすればいいのか?



 取れる選択肢は三つ


 1.誰かに助けてもらう。

 2.スライムを撒く。

 3.スライムを倒す。


 1は完全に博打だ


 こんな森に入っている人物がいるのかも分からないし、まずその人が助けてくれるのかも分からない。そしてその人が勝てるかも分からない。



 そして2も可能性が低い


 後ろの超巨大スライムデカブツは木々をなぎ倒すほどの質量を持ち、様々な物を消化するせいで障害が障害にならない。



 3を選んだ場合、その人はとち狂っていることになる。やめよう絶対に。




 だから僕が今できることは



「西へ向かうしかない.......」



 だが僕の体力ではこのスピード

 を維持するので精一杯だ。



 女神様の身体強化”弱”がなければとっくの昔に死んでいるだろう。



 だがそれだけやっても時間稼ぎにしかならない。


 僕自身、元の身体能力が高くないせいでもう息が上がってきているし、走るスピードも圧倒的に早いというわけではない。必ず追いつかれる時が来る。


 それでも僕は走り続けるしかないんだ.......





 ――あれから結構な時間走っただろうか?



 途方も無い時間ではないけれど、もう1時間くらいは走っているんじゃないだろうか?



 未だにあのスライムは僕を追ってくる。

 何故なんだろうか?意味がわからない。



「ハァハァ......しつこいなあのスライム」



『ぼっちゃん!!ぼっちゃん!!』



 一応、生命保険という能力があるから恐らく死んだとしても一回までなら生き返ることはできるだろう(多分ね)だが、こんな所で1回限りの大事な能力を使いたくない。



「どこかに.......何か.......!!」



 人ってツイてる時は結構ツイてるらしい。

 だがこれはどうだ?



 目線の先には人がギリ通れるかどうかの洞穴



 今の大きさでスライムが入る事は不可能だ。中に入るには分裂する必要がある、あの巨体で来られるよりこっちのほうがずっと生き残れる確率が高いだろう。



 僕はその洞穴に体を滑り込ませることにした。



 ズザッッ



「っ!.......痛っ............」



 とっさに慣れないことをするもんじゃないな.......砂利とか石でかなり痛い。



「っと.......早くふさがないと入ってくる」



 そばにあった大きめの岩を動かして入口をふさぐ。置いてみると丁度ぴったりだったので運が良かったと心底思う。



 危機を乗り越えて安心したのか一際大きい息を吐いてへたり込んだ。



「中は広いんだな.........」



 洞穴の中は思っていたよりも広く、人が何人か入れるスペースがあった。

 外から光が漏れているので思っていたよりかは暗くない。



 そして







「人が.......いる」

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