第一章 ︎︎異世界に来ました

06 ︎︎おはよう

「ん.............あ.......」



 聞こえてくるのは鳥の囀りと風で揺れる木々のざわめき



「ん........んっ?...........」



 僕は入ってくる視界暖かい光を受け入れながら意識を鮮明にしていく



「ここが......異世界?」



そして視界に飛び込むのは雄大な大自然の一部。



「何だこの動物!?見たことない!それに光ってる!?」



 茂る木々には光る実が育っており、図鑑でも見たことのない生き物がその実を食べていた。明らかに前の世界では見れないだろう異質な景色だ。


恐る恐る近づいて食事の様子を観察する。



「よく見るとリスっぽいような......」



 表すならばリスに肉食獣の牙とコウモリの羽付けたような動物?



「でも.......なんか愛らしさが........」



 その動物は光る木の実をガリガリと削り

 実の中身を口の中に放り込んでいる。


 見た目はリスなのにやっていることは肉食獣が獲物の皮を剥ぐあれである。



 そして光る実



 これは表面の皮のみが光っているようで中身は光ってはいなかった。そして光の強さが実によって違うようで、恐らく光が強いものほど何かエネルギーが強いんだろう、その何かが分からないが。



 この生物といい光る実といいこれは間違いなく



「異世界..........来れたってことか......」



 ほっぺたを指でつまんでも景色が変わらず、

 今更ながら言葉にできない嬉しさが湧いてくる。



 とりあえず体は動く......前よりも

 アテナ様と話した記憶もしっかりとあるので別の世界にきて記憶が飛ぶとかはなさそうだ。

 服装に関しても別におかしいことは無い。学校の制服のままだ。


 というわけで僕の体は大丈夫だとして......

 能力のほうはどうなっているんだろう。



「えっと......能力開示ステータスオープン!!」




 三上翔太:人間

 職業  :学生

 <能力アビリティ

 ・女神アテナの使徒 

 ・異世界転移 ※使用不可

 ・身体強化”弱”



 やはり女神の使徒が表示に増えている、現状僕の能力は3つらしい。異世界転移が使用不可と書かれている、それはそうか。



 まだ良く分からなくて良い。

これはいつか分かるようになるだろう。



「能力って詳しく見れないのかな?」



 女神の使徒だけでは何がなんだかさっぱりだ。一応、確認の為に内容が見たい



「んー!開け!んー!!!」



 〜5分後〜



「やっと開いた」



 <女神アテナの使徒>

 アテナの加護と寵愛を受けた証

 一致度 5%


 ・超再生 ×1

 ・生命保険 ×1

 ・言語理解

 ・#gn34qDenlfsd#




 内容は何かとても便利そうな名前の能力が一つと、一回限定の回復系能力?が二つと読めない能力が一つ、あと一致度というものがあるがよく分からない、能力との一致度ってことなのだろうか?



 今の所、理解出来た内容が少なすぎる気がするが




 何分初めての異世界なのだ。

 これから少しずつ理解して行こう。




「ここに居ても何も始まらないし歩こう」



 僕は茂る木々達を横目に前へ進んでいく。


 地面は土みたいだけどかなり柔らかい、踏み込んでも少し跳ね返るような感覚がある。


 そして時折見かける動物?はどれも

 独自の進化を遂げていてそれぞれの個性が見られる。



 例えば、地面を歩いていた蟻のような生物



 この生物はとてつもなく素早い、まるで◯キブリの様な加速力を誇っていた。

 そして自分の1000倍くらいありそうな物を軽く持ち上げていたことから、尋常じゃない腕力があるのが分かる。



 更に、クワガタのような生物



 この生物は異常なほどハサミの威力が強い、固そうな岩をそのハサミで一刀両断していたのは大変驚いた。よく見たら羽が左右に三つずつ付いている。かっこいい。



 また、ミミズのような生物



 この生物は特別凄い能力があるわけじゃなく


 単純にめちゃくちゃ大きかった。

 全長5メートルはありそう。

 見つかったらやばそうなので全力で隠れた。


 そしてこんな動物(昆虫)がいる中で僕が普通に歩けるはずもなく



 カサカサ



「(ヒィィィィィ!!!)」



 ピキピキ



「(ヒャァァ!!!!!)」



 僕は周りを注意するあまり大変なビビリになっていた。声を押し殺しながら物陰に隠れるのを繰り返し、過ぎ去るのを待つ。



「これじゃあ......僕の命が危ないよぉ」



 思わず泣き言がそのまま漏れてしまうほどに精神力の浪費が激しい。



「でも早く進まないと日が暮れちゃうな......」



 今僕がどこに向かっているかというとこの森の西に方角にあるという町だ。


 自分の所持品を調べていた際、ズボンの中に入っていた一通の手紙


『初めての異世界で、分からない事があると思いますが頑張ってください。日の向かう方向に街があります。そこまで行けば何か分かるかもしれませんね、頑張ってください。アテナより』



 アテナ様からの助言により向かうべき方向が分かったのはいいが

 ここまで魔境だとは聞いていない。森スタートはあんまりじゃないですか??



『うふふっ、それもまたいい旅ってものですよ?』



 どこからかそんな声が聞こえた気がした。多分気の所為だけど。


 まぁ考えてても進むわけじゃないので

 周囲を最大限警戒しながらまた進んでいく。



 しばらく歩いていると景色の片隅に岩肌が見れるようになってきた。



 岩肌にはキラキラと輝く苔が毟っており、見た目はそこまで良くない。

 ヒカリゴケのようにも見えるが、多分違う。だって何か動いてるんだもん。


 そしてどこかしらから水滴が落ちる音が聞こえてくるようになった。



 『ぽちゃん、ぽちゃん、ぽちゃん』



「やっぱり!聞こえる!もしかして湧き水!?」



 僕は長時間歩き続けたせいで喉がカラカラだった。空腹と喉の渇きに耐えきれず途中にあった光る果実で腹を満たしていたが、あれは保存には向いておらず採って2.3分ですぐに黒く腐っていった。流石に腐った果実は食べれない。


 でもこれで湧き水が見つかれば一応喉は癒すことが出来る。人は水を飲むだけでもかなり長い期間生きることが出来るらしいので優先して確保したいところだ。



 そして僕は音の出る方へ歩みを早めた。



 すると、前方10mくらいにある岩肌の背面から水音が強く聞こえてくる。



 僕は音の出ている岩影に近づいていき

 そしてその裏側を覗くと.......



「はい?」



 水色のシルエットに

 ゼリーのような質感と粘液

 そして大群で群れる生き物。



 間違いない、これはあの本で読んだ。



「スライム!!!!」



「「「ぽちゃん?」」」



 僕は初めてスライムと出会ったのである。



「本物......だ」


 形も色も同じ、質感も同じだ。

 まさか本物のスライムに会えるなんて



 一気にファンタジー感が増してきて

 ぞくぞくと体の内が湧き立つのを感じる。


 本当に物語の世界に入ったみたいだ。



「なるほど.......そうやって食べるんだ」



 スライム達は今食事中のようで

 昆虫や小さい生き物、死骸を体に取り込み

 消化しているように見える。



 意外と消化するスピードは遅めのようだ。



「へぇ〜.........ってうわっ!?」


「「「「「ぽちゃん!」」」」」



 ちょっと音がしたので後方を振り返ると、そこに一面のゼリーじゃなくて......一面のスライムの大群が待ち構えていた。



 どうやら僕は

 食事中の姿に気を取られすぎていたようだ。



「「「「「ぽちゃん、ぽちゃん」」」」」



「や、やばいのかな!?」



 確かアテナ様の助言だと



『あなたは今生態系ピラミッドの最底辺の存在です!できるだけ其の世界の生物との戦闘は避けてください!例え明らかに可愛くても弱そうに見えても!!』



 って言われたけど、思い返してみれば疑わしい部分がある



「「「「ぽちゃん!ぽちゃん!」」」」」



「こんな小さいのに?」



 スライム達の大きさは、だいたい小さめのカボチャくらいだから全然怖く見えない。むしろ愛らしい。

 

 寒天とかゼリーみたいで美味しそうだ。



 まぁ食べないけどね、食べ方知らないし食べれるかどうかも分からないからね。



「僕が最底辺だとしてもさすがにスライムくらい..........ってあれ?」







 ――事実、スライムは弱い



 魔物としての格付けでは最底辺に数えられる程度には弱い。ただそれは簡単な撃退方法が確立されている上、尚且つ女子供問わず使誰でも出来るという点で評価が落ちるだけであって


 対魔物において、対処法を知らない人間を相手する事においてはランク不相応の強さを見せる。



 その理由は主に三つ。



 1つは肉体を持たない魔素生物という点


 欠損という弱点が無い為、核さえ無事であれば威力度外視で何度でも体を再生することが可能。



 2つ目は単為生殖という点


 スライムは種を増やすのに異性を必要とせず体内にて核を分裂させることで、理論上ではあるが無限に増殖する事が可能。



 そして3つ目



 体内の核を出来るという点だ。






「「「「「.............」」」」」



 

 スライム達は突然動きを止めた。

 不気味な程に全員の行動が一致している。



 嫌な予感がした。



「「「「ぽちゃぽちゃぴちゃぴちゃ」」」」




 一体、また一体と次々にスライム達は集まってくる。


 スライムは少しずつ巨大化し始めたのだ。ほんの少しずつであるが確かに大きくなっている。



 そして



 全長が僕の身長の3倍くらいになった時この超巨大スライムは動き出した。



「あぁあああぁあああ!!!!!」




 僕はその場から背を向けて走り出した。


 普通に考えて勝てるわけがない!どう考えてもコイツは僕より高い位置にいる!(生態系ピラミッド)



 スライムはその超巨体をまるで感じさせないが如く。ガゼルやカンガルーより遥かに高い跳躍を見せながら、木々をなぎ倒しこちらに向かってくる。




「やばい!やばい!やばい!!」



 僕は攻撃能力を一つたりとも持ち合わせていないんだぞ!?これじゃただ飲み込まれて溶かされるだけだ!



「ぼっっちゃん!ぼっっちゃん!」



 下手に刺激しないようゆっくり後退していたので、現状スライムとの距離は十数メートルはある。



 が、このままではジリ貧だ。



「誰か助けてくれぇぇぇ!!誰かぁぁぁ!!」



 僕はスライムから逃げるため全力で足を動かした。だが道は平坦でもなければ坂一辺でも無い。


 速度を維持するためにルートを選ばなければいけない分、体力を多く削られる。



「誰かぁぁぁぁ居ませんかぁぁぁ!!!!」



 ああ、スライム舐めちゃだめだ。

 心からそう思った、本当にそう思った。


 いやそんな教訓に浸ってる場合じゃない。



「やばい!やばいっ!!!」



 異世界に来てすぐに溶かされて

 死んだりとかしたら


 アテナ様に見せる顔が無い。



 ならばどうすればいいのか?



 取れる選択肢は三つ


 1.誰かに助けてもらう。

 2.スライムを撒く。

 3.スライムを倒す。


 1は完全に博打だ


 こんな森に入っている人物がいるのかも分からないし、まずその人が助けてくれるのかも分からない。そしてその人が勝てるかも分からない。



 そして2も可能性が低い


 後ろの超巨大スライムデカブツは木々をなぎ倒すほどの質量を持ち、様々な物を消化するせいで障害が障害にならない。



 3を選んだ場合、その人はとち狂っていることになる。やめよう絶対に。




 だから僕が今できることは



「西へ向かうしかない.......」



 だが僕の体力ではこのスピード

 を維持するので精一杯だ。



 女神様の身体強化”弱”がなければとっくの昔に死んでいるだろう。



 だがそれだけやっても時間稼ぎにしかならない。


 僕自身、元の身体能力が高くないせいでもう息が上がってきているし、走るスピードも圧倒的に早いというわけではない。必ず追いつかれる時が来る。


 それでも僕は走り続けるしかないんだ.......





 ――あれから結構な時間走っただろうか?



 途方も無い時間ではないけれど、もう1時間くらいは走っているんじゃないだろうか?



 未だにあのスライムは僕を追ってくる。

 何故なんだろうか?意味がわからない。



「ハァハァ......しつこいなあのスライム」



『ぼっちゃん!!ぼっちゃん!!』



 一応、生命保険という能力があるから恐らく死んだとしても一回までなら生き返ることはできるだろう(多分ね)だが、こんな所で1回限りの大事な能力を使いたくない。



「どこかに.......何か.......!!」



 人ってツイてる時は結構ツイてるらしい。

 だがこれはどうだ?



 目線の先には人がギリ通れるかどうかの洞穴



 今の大きさでスライムが入る事は不可能だ。中に入るには分裂する必要がある、あの巨体で来られるよりこっちのほうがずっと生き残れる確率が高いだろう。



 僕はその洞穴に体を滑り込ませることにした。



 ズザッッ



「っ!.......痛っ............」



 とっさに慣れないことをするもんじゃないな.......砂利とか石でかなり痛い。



「っと.......早くふさがないと入ってくる」



 そばにあった大きめの岩を動かして入口をふさぐ。置いてみると丁度ぴったりだったので運が良かったと心底思う。



 危機を乗り越えて安心したのか一際大きい息を吐いてへたり込んだ。



「中は広いんだな.........」



 洞穴の中は思っていたよりも広く、人が何人か入れるスペースがあった。

 外から光が漏れているので思っていたよりかは暗くない。



 そして







「人が.......いる」

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