04 ︎︎旅立ち
「ほ、別の世界ですか?」
目の前に浮かぶ半透明のウインドウ。その末尾に掛かれた【異世界転移】という文字列。
女神様のいう別の世界というのが紛れもなく僕の憧れる異世界なのだと再認識した。
「ええ、貴方達の言う異世界は無数に存在し、それぞれ独自の生態系と文化形態を築いています」
「世界って沢山あるんだ......」
「ええ、それぞれ統治する神も違うので、神の思想がそのまま形になって表れている世界も多数存在します」
となると女神様は地球?を担当している神様ってコトでいいのかな。まぁ地球以外に知的生命体が住む星が無いとは全然思わないけどね。
「そして今贈与した【異世界転移】は世界間の移動を可能にする能力なのよ」
にっこりと笑って言う女神様
「この能力が無いと世界間の移動って言うのは出来ないんですか?」
「殆ど無謀に近い......ですね。できるとしたら私のような各世界の神か......古代神の一部でしょう」
顎に手を当てて考える女神様。
世界間の移動が神にしか出来ない(ほぼ確定)となると、王族が勇者を召喚するとか、異世界に偶然転移するとかは所詮ファンタジーの領域を出ないのかもしれない
ちょっとだけ悲しいな。
「神であっても世界間の移動は満足には出来ません。片道で人間が転移するだけでも果てしないエネルギーを消費しますからね」
「そ、そんな能力を......貰ったのか僕は」
「ふふっ、私も人に贈与するのは初めて」
むっふーという擬音が聞こえてくる程
ニンマリとした笑顔をしている女神様。
威厳がすっかり消えている。
意外に可愛らしい人だ。
「貴方なら本当の出会いがあると思いますよ」
「本当の出会い?」
「自分を本当に愛してくれる、そんな方を見つけ て。貴方の受けた心の傷はその人と過ごしていく内に癒やされていくわ」
「愛......か」
「心配しなくても、きっと貴方なら巡り会える」
まだ僕には他人への愛がどういうものなのか理解出来ないけれど......
幼馴染から受けたトラウマを上書きしてくれる程に心から大切な人が出来たなら、僕は幸せになれるのかな。
「とりあえず最初の世界は私の力で指定しておいたから安心して旅立てるわ、その世界の神は私の......兄弟神だから」
「あ、ありがとうございます!女神様!」
「良いのよ、まずは夢を叶えてから......ね」
「???」
「次に使徒契約の儀式よ」
そう言った女神様は僕にゆっくりと近づき、右手を差し出した。
その顔に先程の団欒の和やかさは無く、自分の全てを賭けたかの如く鬼気迫った顔をしていた。
「汝に問う、我アテナの為にその力奮う覚悟はあるか」
右手が輝きだし、とてつもないエネルギーの波動が見えた。
「誓うのならば口づけを、忠誠を誓いなさい」
今までの僕はただアイツに囚われたまま従っていただけだった。
でももう違う。僕は変わる。
そしてアイツの居ない異世界を
全力で謳歌してやるんだ!
「はい!誓います!永遠の忠誠をアテナ様に」
僕はそっと跪いてその陶磁器のような
右手の甲へ口づけを落とした。
「っ!!!!!」
アテナ様のエネルギーが僕に体内に流れ込んでくるのが分かる。そして腕から心臓を通り、末端へと駆け巡りながら一体化していく。
「こ、これが.........アテナ様の」
「どうでしょうか?少しは使徒となった自覚が出ましたか?」
「はい!ありがとうございます!」
「ふふふ。それでいいわ」
「僕からも一つだけ聞きたいことがあるのですがよろしいでしょうか?」
「構わないわ、何でも聞いてちょうだい」
「何故僕が選ばれたのですか?」
そう言うとアテナ様は少し微笑んだ。
「似ているから.......かもしれないわね」
「???」
「さぁお行きなさい!新しい世界へ!」
「は、はい!行ってきます!」
(【異世界転移】.......発動)
僕は心の中で異世界転移の発動を宣言した。すると虹色の光が漏れ出ている両開きの扉が眼前に召喚された。
僕は勢い良く扉を開け、その虹色の光の中へ足を踏み入れた。
「頑張ってね、貴方ならきっと出来るわ」
そう呟いて、彼女は瞬く間に姿を消した。
無限広がる真っ白な空間と
微かな死臭を残して。
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