第28話 凸


 あっという間に当日。


「やってきました決戦のの日ィ!!」


 俺たちはヴァイスとの約束通り、ネズミ星人のアジトへとやってきた。

会長のテンションはマックスだ。

 夜に視察に来た時よりは、厳かな雰囲気はなりを潜めているように見える。

 

「嫌に静かだね」


 喜一が言った通り、俺たちが来ると分かっている筈なのに、迎え打つような空気はない。むしろ迎え入れられているようにすら感じる。


「はいみんな肩組んでーーっ!」


 会長が円陣をうながし、全員で肩を組む。


「必ずヌー子ちゃん取り戻すわよ! ファイッ!」


「「オーッ!」」


 という掛け声を十回程繰り返し、最後に大きな「オェーイッ」と体育会系のノリでコールをかまし、正門からアジトへと入っていく。

 開口一番、俺たちの前に現れたのは、白衣を着た小鼠だった。


「来たでチュね」


「なんだお前」


「ヴァイス様からお前たちを叩き潰せとのお達しでチュ。ここを通して欲しければわたちを倒して行くでチュ」

 

 とは言っても幼女を殴り倒すのも気が引ける。

 どうしたものか……と思っていると、ゴゴゴゴゴと音を立てながら部屋の奥から二足歩行型ロボットが現れた。

 

「なんかすごい物騒なのが出てきたな」


「対猫用に作った戦闘用ロボでチュ。さぁ、どうするでチュ?」


 ドヤ顔で腕を組む発明家幼女。

 しかし、こちらにはもう一人、その仕草が誰よりも似合う女がいる。


「あえて言おう! カスであると!」


 会長は懐から小さな銃を取り出すと、銃口をロボットに向けた。


「そんな鉄砲効くわけないでチュ! マシンガンでも弾き返す特殊合金製でチュからね」


 会長はフッと笑うと、ロボットに向けて引き金を引いた。

 銃効から勢いよく紐が飛び出し、ロボットへ伸びていく。

 ロボットに当たった瞬間、青い閃光がほど走り、バチバチと火花が散った。

 感電したロボットがその身から煙をあげて倒れ込む。


「五階堂特製、超高圧テーザー銃よ。電流対策もして無いなんて大甘ねっ」


「……っ」


 発明家幼女は唖然として黙り込んだ。

 かすかに、鼻を啜る音が聞こえてくる。

 

「ねぇ智、あれ泣いてるんじゃ無い?」


「ああ、なんか悪いことした気分になるな」


 お優しい葉月が歩み寄って慰めてあげようとしたところ、発明家幼女はその手を振り払って「うわああああん!!」と鳴き声を上げながら走り去ってしまった。


「行っちゃった」


 葉月の寂しそうな顔には、きっと同情の他に幼女を抱きしめる機会を失ったことに対する慚愧ざんきの念が混じっているに違いない。


「さ、行きましょ」


 会長は軽い口調と共に、俺たちは部屋の奥にある階段を登って行った。


「やっぱりシトリン会長は頼りになるね」


「まぁな」


 喜一の言葉に苦笑いで返す。

 さっきのテーザー銃の威力といい、本当に恐ろしいお嬢様である。

 もうこのお嬢様一人でいいんじゃ無いかな。

 なんて事を考えているうちに二階へ到着。

 そこには、いかにもガリ勉と言った感じの丸眼鏡をかけた小鼠が立っていた。

 眼鏡幼女、と言うとあいつと被ってしまうので、丸眼鏡幼女と呼ぶ事にする。


「今度はなんだ?」


「ふん。あのエセ発明家を倒したくらいでいい気にならない方が良いでチュ。奴は四天王の中でも最弱……」


 お決まりのセリフを言った丸眼鏡幼女は、実にインテリらしい丸眼鏡クイッを指先で上げながらほくそ笑んだ。


「で、お前は何をしてくるつもりだ? またロボットか?」


「これだから野蛮人は嫌なんでチュ。暴力反対! でチュ」


 丸眼鏡幼女はやれやれと両手を上げて呆れて見せた。なんか腹立つなこいつ。

 

「じゃあどうするん──」


「──第一問ッ!」


「おっなんだなんだっ!?」


 俺たちの前にテーブルと椅子が用意され、みんなそこに座らされた。

 テーブルにはボタンがついており、押すとランプが光るようになっているようだ。

 まるでクイズ番組のセットのようだ。てか多分そうだ。


「地球の中心には何があるでしょうか? でチュ」


 ピンポーン。

 俺はボタンを押して答えてみる。


「マントル?」


「ブッブーでチュ」


 あ、それは口で言うんだ。


「やべー全然わかんねぇ」


「バカめっ! 地球人のくせに地球の事分からないとか恥を知った方がいいでチュ」


 ぐぬぬ……。

 なんとも言い返せない屈辱感に苛まれながら隣をみると、会長が余裕そうな笑を浮かべていた。

 

「分かったんですか」


「分からないわよ?」


「あはは……そっすか」


 するともう片方の隣からピンポーンと回答音がした。

 葉月だ。


「鉄。内核の構成物質はニッケルを中心とした鉄でできていると言われているわ」


「せ、正解でチュ……」


 さすがは普段は真面目な委員長。博識だぜ。

 丸眼鏡幼女が露骨に悔しそうな顔をしている。


「第二問!」


「ちょっと待て何問やんだよ!」


「10問全てに答えられたら通してやるでチュ」


 10問って……。

 ぶっちゃけ無理やり通ってやろうとも思ったがらなんとなく可哀想なので付き合ってあげることにした。


「世界一高い山は──」


 ピンポーン!

 これはわかるぜ。

 俺は勢いよくボタンを押して答えた。


「エベレスト!」


「──でぇすぅがぁあ! 二番めに高い山は──」


 出た! 腹立つパターン! 

 再び葉月の解答ボタンがなった。


「ゴドウィンオースチン」


「……でぇすぅがぁ!」


 あ、答えられたからって問題変えたなこいつ。

 

「葉月、一回最後まで聞こう」


 早押しクイズではないのだ。問題が確定してから答えるべきだろう。


「世界で3番目に広い湖は、なーんだ! でチュ」


 せけぇ。山に詳しそうなのを悟って問題かえやがった。

 流石の葉月もどうやら分からないらしい。

 すると喜一のところから解答ボタンがなった。


「ビクトリア湖……かな?」


「……正解でチュ」


「おおっ、やるじゃん喜一! 流石隠れ優等生!」


「はは、たまたまだよ」


 と言いながら笑顔でピースサインをする喜一。男だと知らなければ落ちてしまう可愛さである。

 なんて危険な生き物なんだ、宮原喜一……。

 それからも丸眼鏡幼女から次々と繰り出される問題を、葉月と喜一だけで連続正解していく。


「う〜っ、第十問でチュ」

 

 これでラストだ。

 とうに丸眼鏡幼女の顔に余裕の色は消えている。


「ヴァイス様の最近ハマってる趣味はなんだ? でチュ」


「ちょっと! そんなの分かるわけ無いじゃない! ずるいわ!」


 理不尽すぎる出題に全面講義する葉月と、参ったと言った様子で苦笑いを浮かべる喜一。

 たしかに、こんなんお前達しか知らない事だろうがと言ってやりたいが、俺はあえて受け入れた。なぜならば問題の答えに心当たりがあったからだ。

 ヴァイスのトゥイッターの投稿を思い出す。

 そうだ、あいつは確か……。


 ピンポーン!

 

 俺は確信を持ってボタンを押した。

 全員が驚いたような顔で俺を見る。

 

「ギター」


「なっ……!」


 丸眼鏡幼女は口を大きく上げて驚愕していた。それもそのはず、ヴァイスがSNSで呟いているなんて想像できまい。

 君らの知らないところでFコードのコツを教えたのは俺なんだぜ。


「ば、馬鹿なでチュ」


 膝から崩れ落ちる丸眼鏡幼女。

 それを見た葉月が「今度こそ……」と呟いて近づいていく。


「元気だして? お姉さんが抱きしめてあげ──」


「触るなでチュ! 覚えてろでチューーーー!!」


 そうして葉月の手を振り払い走り去って行った。

 俺はショックを受け固まっている葉月の肩に手を置いて言う。


「先、進むぞ」


 …………

 ……


 3階へと到達した俺たちだったが、そこには誰もいなかった。

 よく見ると地面にメモのような紙切れが落ちていたので拾って読んでみる。


『お腹が痛いので少し外すでチュ。そこで待ってて欲しいでチュ。絶対わたちが戻るまで先に進んだらダメでチュよ!』


…………。


「なんて書いてあるの?」


「うん、まぁ……とりあえずこの階は大丈夫そうだから先を急ごう」


 すまんな、まだ見ぬ四天王の一柱よ。

 という事で俺たちは四階へ向かった。

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