第26話 お泊まりネリアちゃん
「──喧嘩?」
なんでも今回のことでヴァイスと口喧嘩をしたネリアは、そのままアジトを飛び出してウチに来たらしい。
「地球と猫の事は私に任せるって約束だったはずなのに無理やり介入してきたんだもん。少しは娘を信じろっての」
ネリアもだいぶ頭にきてるらしく、カレーのスプーンを振りながら怒りをあらわにしていた。
要は自分でやろうと思っていた事を親に介入された屈辱感に耐えられないという事だ。
「それでなんでウチに来るんだよ」
「あ、キムタク」
「おい」
ネリアはテレビに映る国民的大御所男性アイドルの登場に気付くと、リモコンを使っていくばか音量を上げた。
「む、どうやらあなたにキムタクの偉大さが理解できていないようね」
「いや凄いとは思うけど」
「キムタクは、三十年以上もの間キムタクであり続けているのよ。あなたに分かる? この凄さが。常にカッコよくあり続けなければいけないキャラクターのカルマが。他のアイドルみたいにバラエティやロケで何か失敗しても笑いに逃げられないのよ。滑る事が許されず、キメる事を求められ続けなけなければならない。一番辛いポジション、アンチも湧きやすいわ。そんな中『カッコイイキムタク』を演じ続けてきた生き様は賞賛に値するわ」
「独特の角度からのアイドル評論だな」
「なんだかんだ言っても、アイドル像として一番しっくり来るのはキムタクでしょ? 例えば宇宙人が日本に攻めてきたとして、互いの星のアイドルを選出してカリスマ勝負をする事になったとしたら、日本代表はキムタクになるでしょう。もしくはアイドルオリンピッ──」
「長い長い長いよネリアさん! キムタクの素晴らしさは分かったからアンタが俺ん家に来た理由を教えてくれ!」
ほっとくと止まらなさそうだったので、無理やり遮って話を戻す。
「鳴海智、頼みたい事があるの」
ネリアは改まって真剣な眼差しを向けてくる。
こいつが俺に頼みなんでどの面下げてと言いたい所だが、状況が状況だからな。
「ふむ、なんだね? ネリアくん」
「急に偉そうにならないで貰える?」
「サーセン」
「次やったら殺すわ」
やべ、思った以上にキレちゃった。プライド高ぇ〜めんどくせ〜。てかどうせそのうち殺す気だろーが。
「……パパを、倒して欲しいの」
「はあ?」
「アンタ達がパパを倒せば、私に偉そうな事言えなくなると思うのよ」
「まぁ、そりゃそうかも知れないけど、いいのか? 俺たちは敵だろ?」
「アンタ達とはいづれ私自身で決着をつけるわ。誰にも邪魔はさせない。たとえパパでもね」
なるほど。もちろん、俺たちもできる事ならヴァイスを倒して平穏を取り戻したい所だ。だが最優先事項はヌー子の奪還。最悪逃げ帰ってでも生きてさえいれば及第点だ。
俺はスマホでトゥイッターを開き、ムキムキ男爵のトゥイートを確認した。
『我が娘が反抗期過ぎてなける(涙)』
『やはり環境が悪いのだろうか。もういっそ全部壊して目を覚まさせるしか』
『決めた! 娘を
『って事で今日もトレーニング始めますか! うおー! モチベMAX!!』
…………。
「いきなり黙り込んでどうかした?」
…………。
「ねぇってば。聞いてるの?」
ネリアがスプーンの柄で俺をつっついた。
「お前のせいでェェェエエェェ!!!!」
「ちょ、何よ急に!? 食事中よ? 行儀悪いわね」
「だからいきなり良識ある事言うんじゃねぇ!」
テメェだってさっきスプーンでつっついたやろがいあぁん?
心の中でチンピラ風に凄んだ。
ネリアのせいでヴァイスが本気になってしまった。本当は引いてくれるつもりだったのに心変わりしちゃった。どうしてくれんだチクショー。
「ふぅ、ご馳走様。お風呂借りるわね」
ネリアはカバンからお泊まりセットを取り出すと、勝手にお風呂場へ向かって言った。
そして信じられない事を口にする。
「それと、今日は泊まらせて貰うから」
「……は?」
「ちょっと! エロい目で見ないで!」
「見てねーってか今こっち見てなかっただろ! 勘で決めつけんなやっ!」
ネリアはふんっと鼻を鳴らすとリビングを出てバスルームへ向かって行った。
「まったく。なんて奴だ」
「許してあげて欲しいでチュ」
「……眼鏡幼女か」
どこから現れたのか、気付いたらソファの上から眼鏡幼女がこちらを見ていた。
相変わらず神出鬼没である。
「あんまり驚かないんでチュね」
「まぁ、ネリアがいる以上、他の奴らがいてもおかしくないからな。お前だけか?」
「そうでチュ。アジトを飛び出したネリア様を追うようにヴァイス様に言われたんでチュ」
「え」
となるといさ
「安心するでチュ。ヴァイス様には適当に誤魔化して黙っておくでチュ。それが、ネリア様の為だとも思うでチュから」
……慕われてるんだな、あいつ。
「ネリアはどうしてそんなにヴァイスを嫌いなんだ? 親子なんだろ?」
「親子だから、でチュよ。ネリア様も本当はパピーが大好きなんでチュ。だからこそ実力を認めて欲しいのかも知れないでチュ」
「ふーん。そんなもんか」
「わたちはそろそろ戻るでチュ。ネリア様にはわたちが来たことは黙っておいて欲しいでチュ」
「分かったよ」
そうして眼鏡幼女は帰って行った。
……認めて欲しい、か。
母さんの映った写真立ての写真を眺める。
母さんが生きてたら、今の俺を見てどう思うだろうか。
自分を心配してくれる家族がいて、喧嘩して、でも大好きで……少しだけ、ネリアを羨ましく思った。
「ん……待てよ?」
俺はある事に気づいた。
今ネリアが風呂に入ってると言う事は、その次に俺が入る訳で。
そう思うとニヤニヤが止まらなくなった。
ぐへへへへ。
「ちょっと!! エロい顔しないで!!!」
浴室の方からネリアの声が聞こえた。
なんで分かったんだよ……。
恐るべき、ネズミの直感力…………。
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