第22話 【悲報】親介入
イヴ&ヌー子vsヴァイスの戦いはほとんど拮抗、いや、ヴァイスがイヴさんの対処に手一杯な分多少優勢にみえる。
「ヴァイス様が苦戦してる所なんて初めて見たでチュ。特にあの黒いの。一人でヴァイス様と互角に張り合えてるでチュ」
おいおいうちのヌー子も褒めてやってくれよ眼鏡幼女さん。実際互角なのもヌー子がいるおかげでもあるんだから。タイマンと二対一じゃ単純な戦力差以上の違いがあるってもんだろ。そこんとこもっと解説してやって!
「それにしても、やはりあの強さは体から出てるオーラと関係あるんでチュかね」
それは俺も気になっていた所ではある。
気になる事は本人に聞いてみるのが早いだろう。
「会長。イヴさんのあの力って……」
「これもニャクラメントの力。《増幅》って呼んでるわ」
「増幅?」
強化とは違うのだろうか。
「このエネルギー……オーラと言った方が少年にはイメージしやすいかしら?」
「いやなんでもいいですけど」
くっ、人をすぐバトルに心躍るワンパク少年みたいにいいやがって! 否定はしないがなぁ!
「私の持つオーラを使って、イヴのオーラを増幅させてるの。元々は私、つまりはニャクラメントのオーラだからね」
「て事はオーラが大きい程戦闘力が高って事ですかっ!?」
「目ぇキラッキラじゃない。戦闘力……まぁそうともいえるかもね」
「……待てよ、ただオーラを多くするのではなくコントロールの仕方によっても強さが変わるとしたら……ヌー子もオーラの形を操ってパンチしてたし……まぁオーラもチャクラも多いに越した事はないだろうが……無限の可能性がありそうだ……」
うおー。捗ってきたー!
「何ブツブツ言ってるのよ……」
少年誌バトルマンガ的妄想にワクワクしていた俺に、葉月が呆れたように言った。
まっ、女にはわかんねーか(笑)
などと、心の中で地球人の半数を見くだしてみる。
どうでもいいけど世界の人口ってかなりの割合で女が増えてきているらしい。このままいけば何十何百年後には、女が男を取り合う世の中になっているかも知れない。まさにハーレム。そんな時代に生まれたかった。
「ふんっ……思ったよりやるな。このままでは分が悪そうだ」
おっ?
ついにヴァイスに弱音を吐かせたぞ。
「ふふ、勝ったな」
こんな事を言うとフラグだと思われるが、そんなもんは迷信だ。現実は因果によってのみ支配されているのだ! いくらでも言ってやる! 勝ったな勝ったな勝ったな勝ったな勝ったな──
「勝ったな」
「なんで二回言うのよ」
おっと、最後は思わず口にでちゃった。
俺が心の中で無数に唱えていたのを知らない葉月に突っ込まれてしまう。
そんな事より葉月さん。他の人より引っ掛かりが少ないからかわかりませんが、胸から下に巻いているタオルがずれて落ちそうです。
これは言った方がいいヤツだろうか……。
「けど、長くは持たないわ。早くケリをつけないとっ!」
時間制限付きだったか。
シトリン会長の表情から余裕の色が消えている。
こんな時何も出来ない自分の無力さを改めて痛感する。
「くっ……ヌー子さん!」
ヴァイスはイヴさんと一度距離を開けると、ヌー子の方へ飛び出した。イヴさんは間に合いそうにない。
くそっ、油断していた。
「ヌー子ッ……!」
「にゃ!? かはっ!!」
ヌー子の腹にヴァイスの拳がめり込む。
そのまま力が抜けるようにぐったりと気絶するヌー子を肩に担ぎ、大きく飛び跳ねた。
その先は宇宙船。着地すると同時に、船内の小鼠たちにヌー子を預けると、ヴァイスは片膝を突き、息を荒げた。
ヴァイスにも相当のダメージがあるようだ。
「おい! ヌー子をどうするつもりだ!」
「ただでは引かん。こいつは貰っていくぞ。返して欲しくば3日後、我がアジトへ来い」
人質って奴か。
「ネリア、お前もすぐ帰れ。話がある」
「……分かりました」
そうしてヴァイスを乗せた宇宙船は空の彼方に飛んでいった。
「こんの卑怯者がああ! ファ◯キュー!」
俺は遠ざかって行く宇宙船に怒りの中指を突き立てるが、その声は恐らく届いてはいないだろう。
「こんな時に言うのも何だけど、やっぱヌー子ちゃんはあんたに似たのね」
妙な納得をする葉月。乳首見えそうなくせに余計なお世話だ。
「いて!! なんだよ!?」
「いや、なんか無性に殴った方がいい気がして」
俺が理不尽な暴力に見舞われていると、露天風呂の扉が開いた。焦った様子で入ってきたのは、アッシュブロンドの美少じ……美少年、宮原喜一だった。
女湯の惨状を見て、ただごとでは無いと察した様子。
「なんか騒がしいと思って見に来たら……どうしたんだいこれは!」
「まぁ、色々あって……後で説明するよ。てか何お前当たり前の様に女湯来てんの?」
「まぁ、僕ならいいかなって」
てへっ☆みたいな表情で押し通そうとする喜一。
ところがどっこい! どんなに見た目が可愛くても男は女湯には入れません。残念でした。
「いいわけないだろ! 女性陣の顔見てみろ!!」
「まぁいいわ。まずは今後の対応を考えなくちゃね。みんな一旦部屋に戻って落ち着きましょ」
「え!」
会長は一切気にしていないご様子。
「賛成。ヌー子ちゃんが心配だわ……」
「お嬢様の仰る通りです」
贔屓だ! 俺が同じ事したら絶対血祭りに上げられるのに!
「あと智? あんたが女湯覗いてた事については、後日じっくり話を聞くから」
暗黒微笑を浮かべる葉月からは、ヴァイスとは違うタイプのドス黒いオーラが出ていた。
なぜかイヴさんの目も厳しい気がする。
違うんです! 決してやましい気持ちがあったんじゃなくて使命感に駆られただけなんです。
そうだ! アルゴ! お前からもなんか言ってやってくれ!
「アルゴ! 話は後でじっくり聞かせて貰うわよ!」
「うっ、いやっ、あ、スゥー……」
アルゴはアルゴでネリアに詰められていた。
しかしネリアのタオル巻き姿を前に、目のやり場に困っているようだった。
アイツ……むしろなんか嬉しそうだな……。
「それじゃ、私たちはお先に失礼するわ。早く帰らないとパパに怒られちゃうし。それと……」
ネリアは言い淀みつつも、俺たちを
「あのヌー子って猫の事だけど……私からも手荒にしないようパパに頼んでみるわ」
「ネリア……」
「あ、あんまり期待しないでよね! パパが私の言う事聞くとは思えないしっ!」
「ああ、ありがとう」
素直に、お礼を言っておく。こいつなりに、部外者を呼び込んでしまい温泉をめちゃくちゃにした事に悪気を感じているのだろう。
「あとイヴ。さっきはありがとう」
イヴさんは返事の代わりに優しく微笑んだ。
ヴァイスに叩かれそうになった時の事を言っているのだろう。
あれ? こいつ結構いい奴じゃね? 俺を殺そうとさえしなければだけど。
「私たちも戻りましょうか」
ネズミ星人達が去った後、会長の呼びかけで俺達もその場を後にする。
ヌー子を奪われてしまった。その悔しさと葛藤を抱えながら歩く俺の背中を、誰かに勢いよく後ろから叩かれた。
「しゃきっとしなさい。ヌー子ちゃんは大丈夫よ。信じましょう」
葉月の言葉に目が覚める。その通りだ。今できる事をするしか無い。必ずヌー子を取り戻す。
俺は心の中で、そう固く誓うのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます