第20話 NOZOKI♡


「ルールは簡単よ。湯に浮かべたこの板の上に乗って、おっぱいのみを使って相手を落とした方の勝ちよ」


「信じられない位低俗な遊びね」


 ネリアが呆れたように言った。

 ぶっちゃけ葉月も同感である。


「ネリアさんも参加するんですか?」


「参加してあげるの。勘違いしないでっ、勝負で五階堂シトリンを負かしたいだけ! 別に一緒に遊びたいとかじゃないんだからねっ!」


「そ、そうですか……あはは」


 温泉の湯に、足場となる二枚の竹板が浮いている。

 一回戦はシトリン対ネリア。次に葉月対イヴ。ヌー子は身体的な諸事情(貧)により不参加となった。


「ふふ、完膚なきまでに叩き潰して、二度とその不敬なおっぱいを私に向けられないようにしてあげるわ」


「こっちのセリフよ。大事なのはバランス。総合力なの。でかけりゃいいって訳じゃ無いの。今日はネズミ星代表として、地球人のバカおっぱいに天誅を下すわ。覚悟しなさい!」

 

 どちらもやる気満々である。

 だが、思ったより勝負はあっさりとついてしまう。


「あっ……いやんっ」


 ファーストコンタクトで互いのおっぱいがぶつかり合うと同時に、ネリアは身体をビクッと震わせ、その拍子にそのままバランスを崩して、お湯に落下していった。


「ネリア様の感じやすやが裏目に出てしまったでチュね」


「わっ、眼鏡幼女ちゃん! いつの間に!?」


 気がつくと、葉月の隣に眼鏡幼女が立っていた。


「わたちが勝負事を見逃すはずないでチュ。勝負ある所に小鼠ありでチュ」


 既に周りには、沢山の小鼠達が集まっていた。当然みんなすっぽんぽんで温泉を楽しんでいる。


「ていうか、ネリアさんは運動神経的に初めから勝ち目無かったんじゃ……」


「それは言わない約束でチュ」


 悔しそうにシトリンを睨むネリア。

 葉月はその姿に何故か憧憬を覚えた。

 なんど負けても、才能が無いと分かっていても挑み続ける勇姿こそ、大勢の部下を魅力するネリアのカリスマ性そのものなのかもしれない。恋も勝負事も、気持ちで負けてはいけないのだ。

 葉月は一つ、大事な事をネリアから学ぶのだった。

 ということで次は葉月とイヴの番だ。

 二人が板の上に立って向かい合う。


 (わぁ、形綺麗、腰細っ、足長っ……羨ましっ)


 葉月はがイヴの身体に見とれていると、シトリンにより開始の合図が告げられる。


「そこっ!」


「えっ、何!?」


 開幕早々、イヴは手で大きくお湯救うと、斜め上の方向へ向かって鋭く振り抜いた。


「痛っ」


 男湯の方から智の声が聞こえた気がしたが、板の上でバランスを取るのに必死で振り向けなかった。


「それでは、仕切り直しといきましょうか」


「今の何だったの!?」


「お気になさらず。ただの野生の猿です」


「は、はぁ……」


 葉月は渋々納得しながらも、イヴとのおっぱい相撲に挑むのだった。

 

…………

……


「だからいっただろ。危ねぇって」


 よじ登っていた壁から落下した俺は、そのまま湯船に墜落し、アルゴに呆れられていた。

 

「いやだって気になってさ、湯気でよく見えなかったけど、あいつら湯船の上に立って何かしてたぜ。意味わかんねーよ」


「お前、当然のように覗き行為しておいてなんでそんな堂々としてんだよ……」


 女湯から微かに聞こえる声に集中しているうちに、もっとよく聞きたくなってしまい、気づいたら壁をよじ登っていた。

 しかし突然水飛沫が飛んできて、驚いて落ちてしまったのだ。


「猫ってやつは気配を察知する能力が高いからな。覗きなんて百ぱーバレるぜ」


「それ先に言ってくれよ……」


「とにかく、大人しくしてるこった」


 別に、覗きたい訳では無い。女子の裸が気にならないかと言われれば嘘になるが、そこまでしたいとは思わない。

 が、困難であればあるほど、燃えてきちゃうのが男の子の性!

 性欲を原動力とした不可能への挑戦こそ血沸き肉踊る男のロマン。

 俺は再度覗きを決意した。

 一人より二人。そのためにはまずアルゴの協力が不可欠だろう。本音はただバレた時の罪を分け合いたいだけだ。


「そういえばさっき、ネリアさんの声が聞こえたな」


 アルゴの肩がぴくっと震えた。


「あー、多分今あっちいるな。うん。絶対いる。べつに俺は興味ないけど、ついでに色々見えちゃっても仕方ないなコレ」


 アルゴはは何かを噛み締めるように口をつぐんでいる。


「俺さ、昔親が死んだ時思ったんだ。常に後悔しない選択をして生きて行こうって。時間は戻らない。だからこそ、覗ける時に覗いて置かないと一生後悔するかもしれない。あの時覗いておけばってさ。こんな機会は二度と訪れないかもしれないから」


「…………っ」


「アルゴさん。大丈夫っす。俺があなたの分までネリアさんの裸覗いとくんで、精々そこで指咥えて見てて下さいよ(笑)」


 次の瞬間、アルゴが俺の肩をグッと掴んだ。

 痛い痛いっ! ちょっと握力どうなってんの!?

 アルゴは腹を決めたように坐った目で俺を見据えた。


「ったく、仕方ねぇなぁ。お前一人に行かせられっかよ。なぁ、相棒っ!」


 いきなり距離近っ! しかもネリアに釣られた癖して、あくまで自分は乗り気じゃないですみたいな程は保とうとしてやがる! この卑怯者め!

 まぁいい……。目的さえ達成できればいいのだ。


「何か策はあるのか? さっきみたいに塀をよじ登るだけじゃまた気付かれちまうぜ?」


 アルゴはの言う通り、芸が無い方法では成功する望みは少ない。そこで一工夫だ。



「何か別の物で注意を引きつけ、その隙に」


「別の物って?」


「この温泉には硫黄が含まれています。硫黄に酸化マグネシウムと味噌で爆弾が作れます」


「マジでっ!?」


「すいません。嘘です」


「無駄に脅かすなや!」


 その時、女湯の方から大きな衝撃音と共に地響きが鳴り響いた。


「うおっ、何だ!?」


「もしかしたらチャンスかも知れない! 行こう! 今なら、何かあったのか!? って言い訳もできる!」


「なんつー狡猾さだよお前……」


 俺は一足先に塀に手をかけ、うまいこと側面の壁を足場にし、できるだけ音を立てないように登っていく。

 頭が塀の上に出ると、そこにはさっきまでは無かったであろう巨大な宇宙船のような物が女湯の真上に浮いていた。

 ネリア達が乗っていたの程大きくは無いが、何かとてつもなく不気味な感じがした。

 よく見ると、アルゴ以上の巨躯の大男がいて、女性陣達がそいつに対して身構えていた。


「おーい、どうだ? 大丈夫そうか?」


 下からアルゴが小声で声をかけてくる。


「いや、変態がいる」


「それはお前だろ?」


「違う。女湯に、見たことの無い半裸の大男がいるんだ。筋肉モリモリの奴」


「なんだそれ。つってもあいつらなら余裕で撃退出来るだろ」


「いや、そうでもなさそうだぞ。やばいかもしれん」


「ちょっとまて。俺も今いく」


 そう言ってアルゴも塀を登り、俺の隣から顔を出した。


「なっ……!」


 アルゴは目を見開きながら絶句した。

 

「こりゃ……ちとやべぇぜ……なんであの人がここに……」


 何だ? 知り合いか? とりあえず成り行きを観察しようと思ったその時、ミシミシと塀が軋む音が聞こえた。

 嫌な予感がして全身に力が入る。

 

「「うわあああっ!!」」


 俺とアルゴの体重に耐えられ無かったのか、木製の塀は音を立ててへし折れると、俺たちは二人揃って女湯に落下した。


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