第14話 チキチキ雪合戦大会、開幕!


 雪合戦のルールは至って単純。お互い4対4で雪玉を投げ合い、頭と胴体に命中させればヒットとなり退場。先に相手チームを全滅させた方の勝ちとなる。雪玉以外での直接的な攻撃は反則となり、犯してしまった場合は注意、警告、失格の3段階で審判の判断に委ねられる。

 ちなみに割と広いこの公園に俺たち以外に人がいないのは、五階堂家が裏で手を回し、今日に限り公園を貸し切って誰も近づけないようにしているらしい。

 炎上しても知らないぞ……。

 ルール説明の後は、お互い準備時間が与えられ、雪玉のストックを作ったり、公園内の至る所に土手をやバリケードをつくり上げた。


「みんなー! 準備体操始めるわよー!」


 シトリン会長の元へあつまると、そこに置かれたモニターから軽快な音楽が流れ始めた。


『シトリン体操第一! まずは両腕を上げて背伸びの運動〜。シットリン♪ シットリン♪』


 画面の中では会長が音に合わせて体操している。


「なにこれキモいっ!」


「あえて誰もやってないことに挑戦し、成し遂げてこそ真の傑物と言えるわ。いつかこの体操が日本の新たなベーシックとなるのよ!」


「嫌すぎる……」


 お札になりたいと思った人はいても、ラジオ体操になろうとした人なんて偉人でも聞いた事ないぞ。一体何を目指しているんだこのパツキンお嬢様は。

 周囲の反応を横目で見てみると、案の定みんな苦笑を浮かべていた。

 ほらー。ネズミ星人まで引いてるじゃないか。


「五階堂シトリン……やはり化け物ね」


 ネリアさんそれどう言う意味で言ってます? 失礼ですよ。

 あとイヴさん、澄ました顔してますがプルプル震えて必死に笑いを堪えてるのが分かります。だって下唇噛みすぎて吐血してますもん。てかご主人様の暴走止めてあげて。


「智……本当にこの人がシトリン会長なの? 私もっと女帝みたいな感じだと思ってた」


「僕もだよ。まさか天下の第一生徒会会長が

こんな……その、奇想天外な人だったとはね」


 葉月と喜一が一様に戸惑っていた。

 絶対的な富と権力を誇り、学園のトップに君臨する孤高の女王。会長を知らない人であれば、そんなおごそかな先入観を抱いてもおかしくはない。俺だって実際に会うまでは多少なりとも畏怖の念を持っていた。


「悪い人じゃないんだけどね」


 申し訳程度にフォローを入れておく。


「おや、智はああいうのが好みなのかい?」


「え嘘!? そうなの!? いや、確かに美人だし、胸も大きいけど……っ」


「やめてくれ。そんなんじゃないって」


「でも僕の見立てでは、智は金髪で明るい天然の女の子が好きなのかと思ってたよ」


「何そのピンポイントな分析!?」


「否定はしないんだね」


「誘導すんな。嫌いじゃないってだけだよ」


「はは、ごめんよ。僕の智が知らないところで女の子と仲良くなってたから嫉妬しちゃってね」


 なんでお前が嫉妬するんだよ、と思ったが、喜一は飄々ひょうひょうと笑いながら俺に分かるように葉月に視線を向けた。


「……私も金髪にしようかな」


 葉月が一人でブツブツと呟いていた。


「お前は茶髪が似合ってると思うけどな」


「嘘!? 私、口に出てっ……てほんとに? 私かわいい!?」


「あ、ああ」


 別に可愛いとまでは言ってないのだが……。


「ちょっと! ちゃんと体操しないと怪我するわよ!」


「「サーセン」」


 会長に注意されてしまった。

 確かに準備体操は大切だ。

 そしてなんだかんだで全員で真面目にシトリン体操をこなした俺達は、いよいよゲーム開始の時を迎えた。


「それでは、はじめっ!」

 イヴさんの合図と同時に、俺たちはお互いの陣地に広がり身を隠した。

 そっとバリケードから顔を出して相手位置を確認してみる。

 その瞬間、もの凄い速さで何かが頬を掠めた。


 ──え?


 それが雪玉だと分かったのは、背後の木に当たり砕け散った音が聞こえてからだった。


「ち、外したか」


 アルゴが野球のピッチャーのような構えでこちらを見ていた。

 あんなん当たったら死ぬ! 負ける前に死ぬ!


「あれの相手は任せるにゃ!」


 ヌー子が飛び出し、アルゴに無数の雪玉をマシンガンのように投げつけた。腕でガードしながら横っ飛びで逃げ回るアルゴを、ヌー子は執拗に追い回していく。


「上等だぜ。この前の借りを返させてもらう」


 アルゴとヌー子は離れた所で雪玉を投げ合い、1on1状態になっていた。

 うん、あっちは放って置こう。

 次元が違いすぎて加勢する気にもならない。


「何ぼーっとしてるのかしら」


「しまっ……!」


 あの二人に意識を取られていた隙に、ネリアが俺の潜んでいたバリケードの横まで回り込んで来ていた。

 まずい、完全に虚をつかれた! 避けられないっ!

 

「終わりよ!」


 そう言って俺に雪玉を投げつけるネリア。しかしそれは、あらぬ方向へと飛んでいった。


「おかしいわね」


 ネリアもう一つ雪玉を投げるが、今度は目の前の地面ではじけた。

 想像以上の運動神経の悪さである。


「よくそれで参加しようと思ったな」


「〜〜っ!」


 なんか勝つ前から可愛そうになってきたぞ。

 俺は逆にネリアな雪玉を投げつけようとするが、別の方向から雪玉が飛んで来たで、思わずその場を離れ退避する。

 飛んで来た方向をみると、喜一が雪玉を持ってこちらに向かっていた。


「ふふ。そうはさせないよ、智」


 喜一め、邪魔しやがって。もう少しで討てたと言うのに!


「ネリア様、これを使うでチュ!」


 眼鏡幼女からネリアに、カラフルに塗装されたライフルのような銃が投げ渡された。


「雪鉄砲でチュ。これなら運動音痴のネリア様でも相手に向けて引き金を引くだけで雪玉を発射する事ができるでチュ! ぎゃ!」


「あっ、やった!」


 眼鏡幼女は解説をしている隙に、葉月の投げた雪玉を食らって脱落した。ナイス葉月!

 やっぱりネリアの運動音痴は小鼠達にも共通認識なんだな。


「あなたの死は無駄にしないわ……」


 ぽんぽんぽんぽんっ!


 連続で発射された雪玉が葉月を襲う。


「いやーー!!」


 無数の雪玉を食らった葉月が、その場に倒れ込んだ。

 あの銃、かなり厄介そうだ。

 続いてネリアは雪鉄砲を俺に向けて構える。

 ずるくねそれ? と思いイヴさんをみるが、特に指摘する素振りはない。容認という事だろう。

 喜一とネリアがタッグを組み、俺を追いかけてくる。


「こっちよ!」


 遠くから会長が呼びかけてきた。

 そこには、砲台のついた小型戦車のような乗り物が鎮座している。

 なんだあれっ!


「ふふ、相手に道具を使う権利を与えてしまった事を後悔するといいわ!」

 

 次の瞬間、砲台からバスケットボール並に巨大な雪玉が物凄い速さで打ち出され、追いかけて来ていたネリアと喜一の前に着弾。その衝撃で巻き起こった雪飛沫と共に、二人は後方へ吹き飛んだ。


「ちょ、何よあれっ!」


「はは、参ったね……」


 流石に驚を隠せない様子のネリアと喜一。

 戦車のあまりの威力に思わず頬が引き攣った。


「会長! こんな兵器いつのまに用意してたんですか!?」


 この雪合戦は昨日急遽決まったものだった。あまりに準備が良すぎる。


「五階堂家に不可能は無いわ」


「このスノーマチルダは、お嬢様がいつか御友人と雪合戦する事になった時の為に昔から用意していた遊び道具なのです」


「友達殺す気かな?」


「ようやく活躍の機に恵まれてこの子も喜んでいるわ! さぁ、行くわよ? パンツァー! フォー!」


『──御意』


「うわっ、喋った!」


「スノーマチルダには最新のAIによる自動運転オペレーションシステムが内蔵されています」


『目標確認。攻撃を開始シマス』


 戦車から次々と雪玉が放たれる。バリケードすら破壊する威力に、とにかく逃げ回るネリア達。

 これは……勝てるぞ!

 そうだ。勝てばいいのだ。俺にとっては命をかけた戦いなのだから!もはやスポーツマンシップもクソもないが、これで良い! 行けぇ! スノーマチルダっ!


 もちろん俺と会長も援護に周り、とうとうネリア達を追い詰めた。

 勝利を確信しかけたその時。


「うおおおおおああああ!!」


 ヌー子と戦っていた筈のアルゴが吹っ飛んで来て、砲台に激突した。その衝撃で、バキって音と共にスノーマチルダの砲台は根本から折れてしまった。


「「ノオオオオオオオッ!!」」


 俺と会長の悲鳴がこだました。


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