第11話 雪と言ったらやっぱアレ


「──という事がありまして……」


 翌日、俺は早速昨日あった事を話しに、シトリン会長のいる第一生徒会室を訪れていた。

 会長は昨日の今日で俺が来た事に驚いた様子だったが、悪い気はして無さそうだ。イヴさんは俺を見た瞬間僅かに微笑むと、紅茶を淹れてもてなしてくれた。


「なるほどね。そうしてコンピューターは人間を滅ぼす事にしたと」


「話聞いてました? そんな暴走したAIが人類に反旗を翻すようなSFじゃないですよ」


「君がいない世界なんていらないッ!!」


「世界系恋愛ドラマでもないです」


「はい、今世界作り変えましたー。みんなの記憶も全部たった今できたものです。私に都合のいい世界、爆誕!」


「世界5秒前仮説を自力でやる人初めて見ましたよ。ちなみに、何を変えたんですか?」


「ともを、トムにしました」


「やめてッ!? 何その俺だけ可哀想な世界改変っ!? ……って、あれ、なんの話してましたっけ?」


「トム様が忘れてどうするのですか」


 イヴさんに呆れ気味にツッコまれた。

 てか今しれっとトム様って言ったな。気づいてるぞ。


「いやトム様ってなんだよ。クルーズか? 秘密裏に世界救っちゃう系イケメンじゃないぞ俺は」


 イヴさんは口元に手を当ててクスッと笑った。かわいー。こんなんイジられても許せちゃうだろ。俺もうトムでいいや。

 

「にしても、ネズミ星人達も意外と庶民的なのかもしれないわね。お正月に凧揚げしてるのを見た事があるし」


「マジすか……」


「春はお花見もしてるし、夏祭りでも見かけたわ」


「すげぇ文化的! だいぶ日本満喫してますよそれ」


「ま、大人しくしてれば一般人と変わらないわね」


 彼女らに対するイメージが書き換えられていく。昨日、眼鏡幼女が言っていた事は本当だったみたいだ。

 だとしても俺たちを狙う敵である事には変わりないが。


「そこで、私は考えました!」


 会長はスッと立ち上がると、力強く拳を掲げて言った。


「こそこそ狙われる位なら正々堂々勝負してみてはどうか、と!」


「と、いうと?」


「スポーツよ! 暴力の代わりにスポーツで決着をつけるの! ニャクラメントチームが勝ったら大人しく星に帰ってもらうわ!」


 なるほど、たしかにできるならそれが一番だろう。平和的な争いという、まさにスポーツの存在意義である。ただしネズミ星人達が承諾すればの話だ。


「でもそんな勝負どうやって受けて貰うんですか? 向こうにも相応のメリットがないと……」


「カップ麺一年分!」


「全然釣り合ってない!」


「あら、庶民はカップ麺をこよなく愛すると聞いたのだけど。私も一回食べてみたいわ。イヴ、後で買ってきて頂戴」


「承知しました」


 そういえばこの人とんでもないお嬢様だった。普通の価値観なんて、とうに札束に埋もれてしまっているのかも知れない。


「じゃあチーズ一年分は?」


「ネズミ星人舐めすぎじゃないですかね」


 でも、割といけそうな気がしなくもないかも。


「じゃあ何ならいいのよ」


 頬を膨らませて目鯨をたてる会長。

 正直俺に聞かれても困るんだが……。


「まぁ、フェアに行くなら、負けた方は勝った方に金輪際危害を加えてはならない、とかですかね」


「さすがトム! 発想がグローバルだわ!」


 どこにグローバル要素あったんだよ。俺のあだ名だけだろ。


「競技はどうするんですか? 自慢じゃないですけど、あんま運動には自信ないっスよ?」


「本当に自慢になりませんね」


「でも俺ケンカツエーからっ! 誰かタイマン張ろーぜ!」


「急に中学生みたいな事を言わないで下さい」


 イヴさんもだいぶツッコミがサマになってきたな。


「経験者が有利になる種目はフェアじゃないわね。となると……」


 会長は顎に手を添えジッと考えこむ仕草をした。そうして真面目な表情をしている姿は、一枚の絵画のように美しく見えた。端正な顔立ちと、抜群なスタイル。そんなSS級美少女と放課後を共にしているこの状況は、実はとても素晴らしいものなんじゃないだろうか? とか思ってみたり。

 その時、イブさんが窓の外を見つめているのに気付いた。

 彼女の視線のさきには、曇天の下、ヒラヒラと宙を舞う純白の粒子が煌めいていた。


「ん? 雪?」


 俺は窓際まで行き、それが確かに雪である事を確認すると、スマホで天気予報のサイトを開く。

 そこには今から明日の朝までの時間、雪だるまのマークが並んでいた。


「こりゃ結構積もりそうだな」


「そうですね。ツモ、ハネマンっ。と言った所でしょうか」


「……」


 そっちのツモじゃねーよ、と言ってツッコむべきだろうか。でも流石に……。

 ──くっだらねぇぇぇ!!


「スルーは傷つきます……」


 なら言わなきゃいいのに……。

 どうやらボケはまだまだのようだ。

 背後からドンっ、とテーブルを叩くような音が聞こえ、それと同時に響き渡る通りのいい声。


「トムッ!」


 振り向くと、会長が両手をテーブルにつけたまま立ち上がり、はっとした顔で外を見ていた。


「これよっ! これだわっ! これなのよ!!」


 三段活用で何かを確信する会長。いいアイデアでも閃いたのだろうか。

 そしてニヤリと笑い、高らかに言い放った。


「第一回! チキチキ! スーパー雪合戦大会!! 開催決定ッ!!!!」










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