第5話 美しき風景

それは、春の心地よい風を感じるところから。

緑色のじゅうたんが、一面に敷き詰められていて、

タンポポの黄色い花が、そよ風に揺れ、

モンシロチョウが優雅に飛び回って、花々を巡っている。

まだ薄青いそらは、淡くて優しい。

足に感じる、大地の草も、気持ちがいい。


次に夏、どこまでも青い空、そして広い海。

白い砂浜に、波が穏やかに打ち寄せる。

お日様が得意そう!

さっきはありがとう!そう言って手を振ると、

どういたしましてとばかりに、一瞬だけ輝きを増した。


そして秋、緑一色だった山が、赤や黄色に変わっていく。

葉っぱが空に歌うんだ!秋の歌をね!

そして僕の楽しみは、枯葉と踊ることだよ!

お日様が沈むと、お月様が顔を出す。

そして虫の歌が心地よい。

今夜は三日月。

お月様!満月になったら一緒にお団子食べようね!

楽しみにしてるよ、と答えるように、月の周りに青い虹がかかった。


とうとう冬。そう僕は…

空から白い白い雪が、しんしんと降り積もる。

雪の結晶はね、一つとして同じものが無いんだよ。

まさに神業だよね!

雪は冷たい印象だけど、実はとても暖かい。

僕は冬も大好きなんだ。


自然は実に美しい。

本当に、きれいだ!


僕はさ、冬に生まれたんだ。

僕が生まれた季節。僕が生まれた理由…

気が付くと僕はまた暗闇の中に居た。

なんだか寒くて、膝を抱えて震えていた。

考えても考えてもわからない。

答えは見つからない。

どうして僕は生まれてきたんだろう。


僕は少しの間、眠ってしまっていたようだ。


暗闇の中、遠くの方に光が見える。

それはどんどん近づいてくる。

僕はいつの間にか、立ち上がっていた。

「なんだろう」

近づいてきたので、色がわかった。紫色だ。


紫色の光は、軽やかに僕の目の前に飛んできて止まった。

光はみるみる大きくなって、僕と同じ姿になった。

そしてにっこりと笑った。

僕たちが、どちらからともなく、手と手を合わせたとき、

体中を突き抜ける電撃のようなエネルギーに包まれていた。

僕はその時、心と身体全部で、生きている意味を感じていたんだ。


僕はまた一人ぼっちになっていた。

でも、もう寂しくはなかった。

だって、僕はみんな、思い出したんだから!


数えきれない星々、月、太陽を包含する天と語らい。

花や木、土や石、海や河、小さな動物から大きな動物、

全てを包含し育む大地と語らい。

風に乗り、雲に乗り、空と語らい。

大いなる存在を感じ通す。

時を超えて…


万物には心があり、意識がある。

本当はみんな一つなんだ!


僕は長い長い間、大いなる存在と共にあったよ。

とても幸せで、望めばずっとそこに居ることもできた。

でも、僕はずっと幸せでいられる場所を知っているから、

冒険の旅に出たくなったんだ。

そして、今こうして君の側にいるよ!


僕は、全てを受け入れられる。

僕は、全てを出現させることができる。

僕は、全てを愛している。

僕は、全てからとても愛されている。


最初から、何をする必要もなかったのさ。

世界の美しさを、すばらしさを感じ、感謝して、

自分の居たい場所で、自分のやりたいことをやればよかったんだ。










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