第2話 美しき世界

隆はかすかに聞こえてくる歌声で目が覚めた。


目の前に聳え立つ一本の桜の木。その木は闇の中で

キラキラ光っていた。

風が気持ちよさそうに花びらを散らせている。


どこから聞こえてくるんだろう?


木は大きく、その梢は見上げてもよく見えない。


「やあ!」

声と同時に隆の身体が浮き上がった。

「うわっ!」

風が木の上へと運んでいく。

見晴らしのいい、太い枝に優しく降ろされた。

動物かな…

隣には動物らしき生物が居た。

その生物は、とても大きく、少年の二倍くらいはありそうだ。



「ねえ、ぼくはずっと長い間、君が来てくれるのを待っていたんだよ」

「どうして?」

「大切なことを伝えるためさ!」


桜の花びらが、雪のように舞っている。

大切なことって何だろう…

隆はとても怖くなってきた。

「今じゃなくちゃダメなの?」

「そうさ!君の準備ができたのは、今、だろ!」

生物の少年のような声が、意地悪な声音に変わった。


隆は下を向いてしまった。

そうなのかな…


「僕わね、一面が雪の銀世界で生まれたんだ。

父や母が居るのかどうかもわからない。ただ、優しい声だけは

いつも聞こえていたから、ちっとも怖くなかったよ」


生物の声は、優しい少年の声に戻っている。

空には満天の星が広がっていた。

「僕はね、どうしても知りたいことがあってさ、星に聞いてみたんだ!」

生物は上を向いて大きな声を上げた。

「ぼくはどうして生まれてきたの?」

隆の身体がピクンと動いた。

「そしたらね、星が僕の目の前にズシンと落ちてきて、

ぐんぐん大きくなったんだよ。キラキラ光って鏡になってくれたんだ!

その時僕は初めて僕を見たのさ」


隆の目の前にも、鏡になった星がある。

なんだよ。

心細そうに、不安げに肩が落ちている自分がそこに見えた。


そよそよと流れていた風が止んだ。






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