~写し身~
まずは写し身同士の取り組みを見てみようということになり、桜仙様と紫峰さんが土俵に上がります。
紫峰さんは桜仙様より10センチくらい高くて、4人の中では一番身長差のある組み合わせですが、体重はそんなに変わらないでしょう。因みに、胸のサイズでも最も差が出る組み合わせなのですが、決して紫峰さんが小さいわけではありません。
東に桜仙様、西に紫峰さんが立ち、礼をしてから土俵中央へ進み腰を落とします。
相撲大会で好成績を残していた紫峰さんはもちろん、桜仙様も非常に様になった姿勢です。蹲踞の姿勢でむっちりとはみ出る肉付きの良い太ももや、大きめのお尻のおかげで安定感があり、背の高い紫峰さんと比べても弱弱しさは感じません。
行事はいません。わたしと伽羅は並んでふたりの取り組みを観戦します。
写し身は感情を持たないのでふたり共無表情ですが、仕切りの姿勢で手をついた瞬間にはまるで戦神がとり憑いたかのような、身の切れるような緊張感が伝わってきました。
はっけよい!
ぱしっ!
ふたりの身体がぶつかり合って鋭い音が走ります。思った以上に激しい当たりに驚きました。
「流石。写し身同士だと躊躇いがないわ」
わたしも同意して頷きます。
立ち合いの勢いは互角。でも優劣はすぐに現れました。低く当たった桜仙様が押し上げるように紫峰さんを押していきます。
桜仙様も魅力的ですが、やはりずっとライバルとして見ていた紫峰さんに負けて欲しくありません。
土俵際。紫峰さんの足が俵にかかり、堪えようとすらりとした身体がしなるように曲がります。
頑張れ紫峰さん!
心の中で紫峰さんに声援を送りながら、勝負を見守ります。
しかし、応援の甲斐もなく無く、押し出される紫峰さん。勢いあまって真っ逆さまに土俵から落ちて、逆大の字でひっくりかえった彼女を見下ろす桜仙様の姿は、神と人の差を見せつけるかのようです。
「そんな……紫峰さんがあんなに簡単に負けてしまうなんて」
「写し身の頭は寝ぼけているような状態だから、決して本来の実力が出せるわけではないの。背の低い桜仙が、偶然上手く懐に入れた結果ね。本人同士だったらあんな力押しだけで桜仙があの子に勝てたとは思えないわ」
「そうなんだ。伽羅も紫峰さんの実力は認めているのね」
「それはそうよ。瑠璃が認めている相手だもの」
取り組みを終えて桜仙様と紫峰さんが土俵から下りてきました。
無表情に立つ写し身はまるで人形のようですが、艶やかな肌は上気し、うっすらとかいた汗で艶やかな光沢を放っています。
激しく土俵から落ちた紫峰さんは全身砂まみれでした。写し身とはいえ、勝手に呼び出した手前、汚れたまま置いておくのは申し訳なく思って、わたしは紫峰さんの髪や身体についた砂を払い落とします。
もしこれが彼女本人だったら絶対にわたしに触らせなかったでしょう。紫峰さんは負けても人に涙を見せないくらい気高い人だったから。
「写し身が怪我をすることはないけれど、次その子は休ませてあげましょうか。それじゃあ瑠璃。桜仙とやってみる?」
「うん。やりたい」
「いい勝負が見れることを期待しているわ」
わたしは頷くと、久しぶりに相撲がとれることに胸を躍らせながら土俵へと上がりました。
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