~瑠璃~
あれから6年が過ぎました。
今日は待ちに待った節分。伽羅に会える日です。
わたしはシャーペンを置いてノートを閉じます。
中学3年生の冬。高校受験を控えた大切な時期ですが、この日ばかりは心が浮ついて勉強にも身が入りません。
早く伽羅に会いたい……
彼女のことを想いながら年月を重ねていくうちに、いつしか彼女はわたしの中でかけがえのない特別な存在になっていました。
時刻は夜の8時。
伽羅の前で恥ずかしくないように、お風呂に入って丁寧に身体を洗います。それから部屋に戻ると、一度着た部屋着をすべて脱ぎ捨てて裸になりました。
わたしの胸、伽羅は気に入ってくれるかな?
姿見の前で胸を押上げながら伽羅のことを思います。
わたしの身体が成長しているように、伽羅も年々成長しています。
いつもわたしよりちょっとだけ背が高くて、会うたびに綺麗になっていく伽羅。
伽羅はとてもスタイルが良くて、胸の大きさでは早いうちから大きな差がついていました。
わたしは最近Cカップになって友人達からは羨ましがられていますが、今の伽羅はそれ以上に育っているはずです。
本当は最高におしゃれして伽羅と会いたいところですが、伽羅と会ったら相撲をとらなければなりません。
小学校のうちは動きやすい格好。上はTシャツに下はスパッツ。その上からまわしを締めて伽羅と会いました。
小学校高学年になるとわたしは相撲クラブに入りましました。
普段おとなしいわたしがお相撲やりたい! と言い出したことで両親は驚いていましたが、うちは 古風な家柄で両親共に武道に理解があったことからクラブへ入るのを許してくれました。
相撲は相当意外だったみたいですけど。
わたしは決して運動は苦手ではありません。相撲クラブに入ったわたしは、すぐに男の子相手でも負けないくらいに力をつけていきました。
奉納相撲大会では5年生のときに準優勝。6年生ではついに優勝を果たしました。
中学に入ると相撲クラブは引退することになり、わたしは陸上を始めました。
専門は短距離と高跳び。毎日真っ黒になるまで練習して、2年生にはでは県の選抜メンバーにも選ばれました。
本当は受験勉強をしなくても推薦で入学する話もありました。しかし、志望する高校が受験でも十分狙えたことと、高校に入ったら新しいことを始める選択の幅を広げるために、あえて一般入試を希望しました。
わたしは小学校で相撲をはじめ、中学ではスポーツ推薦を受けれるくらい身体を鍛えています。
友達と腕相撲や相撲をしたりしても滅多に負けることはありません。
それでも、この5年間、伽羅と相撲してわたしは一度も勝てたことがありません。
最初よりはずっと良い勝負ができるようになりました。しかし力も技も、常に伽羅はわたしの一歩上を行きます。
そして、わたしを負かした伽羅は『ご褒美』といってわたしの顔にキスをして去っていくのです。
わたしは昨年、土俵際で寄り倒されて、重なり合ったまま左の頬にキスされたことを思い出していました。
彼女を全身で受け止めて屈服した瞬間、悔しさよりも満たされた感情が確かにわたしの中に湧いていました。
そして頬にキスされて、物足りなく感じたことを……
……いけない。早く着替えないと!
気が付いたら10分が経過していました。
わたしは慌てて競泳水着を着ます。
昨日のうちに洗ってハンガーに吊ってあったのを手に取って、足を通します。
ところが……
「きつい……です……」
なんということでしょう。部活を引退し、受験勉強に明け暮れているうちに身体に随分お肉がついてしまったようです。
胸はぱつぱつで苦しいし、お尻の部分はむちっと肉が食い込んでいます。
夏に水泳部の助っ人に入った時は普通に着れたのですが……油断しました。
どうしましょう? 伽羅に見苦しいものを見せたくありません。
「仕方……ないよね?」
わたしは意を決して水着を脱ぐと、肌に直接まわしを締めることにしました。
いつもは箪笥の奥に大切に閉まってあるまわしは、中学に上がってから新しく家族に内緒で買ったものです。
節分に伽羅と相撲するために買ったので、このまわしを締めたのはたったの2回。
僅かに土で汚れているのはわたしが彼女に出会った証。
まわしひとつで伽羅と相撲をとる。想像するだけでいつも以上にどきどきします。
どうでしょう? 変ではないでしょうか?
ひとりでしっかりまわしを締め終わると姿見の前で回ってみます。
陸上をやってた頃にできた日焼けの跡はもうほとんど消えています。気になっていた太ももやお尻のお肉も、まわしによって良い感じに引き締められていました。
「よしっ!」
わたしは大きく四股を踏みます。
自分の身長より高く上がった足を、勢いよく畳に下ろします。両足で一度ずつ、それから腰を落として、蹲踞から立ち合いまでの姿勢を試し、まわしが緩まないかを確認します。
素肌に直接締められたまわしは、驚くほどに馴染んでいました。
まわしを締めたわたしは水垢離の際に着る長襦袢を羽織ると、ぎゅっとお腹のところで帯を締めます。
その時丁度、居間の壁掛け時計が9時の鐘を鳴らすのが聞こえてきました。
しかしその時刻町内放送で聞こえてくるメロディは聞こえません。
そう、うちの神社が鬼の世界に繋がったのです。
「待ってて伽羅。今行くから」
わたしは襖を開けると、暗い廊下を進んでいきました。
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