第三十話 恒星クジラはSAを知る
セーーーーーーフッッッッ!!!
セイに何かをされるよりも先に、車は
呼び出しを受けたらすぐに取りに行き、それをセイに献上。だがしかし、すぐさま料理は、器の中にあった物になった。
くそっ、全然足りていない!
再度券売機へと対峙し、次なる料理を選択する。同じ物ばかりを食わせると不機嫌になるからな、セイは。…………俺の事を殴るんだよ、機嫌を損ねると。
次の料理も
消費、注文、器返却、消費、注文、器返却。連続で実行しているにもかかわらず、店員さんも他のお客も誰も疑問に思っていない。
おのれ、自分の欲望を満たすために周りの人の認識をどうにかしてやがるな?宇宙を泳ぐクジラの超能力、めちゃくちゃである。超常存在の
結論を言うと、サービスエリアのフードコートに二人で入って、五千円も使ったのは初めてだ。エンゲル係数の爆上りがやっぱり辛い、今日この頃。
食事を終えたクジラちゃんを引き連れて、折角なのでSAの中を見て回る事にした。
ここは超巨大SAではないし、そこまで新しくも無い。だが施設は一通りの物を持っている。フードコート、売店、露店、勿論トイレも。旅行や仕事の際にちょっと寄るには十二分な実力である。
既に色々と食らい尽くしたフードコート。そこで提供されている料理は当たり障りのないポピュラーなものから、この地域特有の名物まで様々だ。
売店には一般的な商品と共に、この地域の名産品が並んでいる。旅行者からすると、高速を降りずにその地の物が買えるというのは大きな利点だ。
いったん外に出て露店を見ると、その前には数人の列が出来ていた。ソフトクリームの店、これは近くに有名な牧場があるからこその特産品と言える。
SAは急ぐ旅の途中にありながら、目的地以外のものに触れる事が出来る場所だ。こうした所で知った物を深堀すると、また違った発見があって面白い。今度はその発見を旅の目的地として訪問する事も出来るのだ。
高速道路を通ってその地を抜ける者と特色溢れる地域を繋ぐ、そんな接点にもなるのがSAの役割であるとも言えないだろうか。
…………なんて事はセイには関係無いようで、露店に並ぶ人の列の後ろに立っている。デザートをお望みですか、そーですか。
ジッとこちらを見続ける彼女の下に、頭を掻きながら俺は向かった。
左右確認し、ゆっくりと車を発進させる。SAの中は何処から人が歩いてくるか分からない、注意しなければ。問題なく本線へと戻り、今回の旅の目的地へと向かって走って行く。
そんな車の助手席には、買い与えたソフトクリームを手にしたクジラが居る。コーン部分を両手で握り、腿の上あたりに自然に下ろした状態で持っていた。
普通であれば気温と体温で溶けてしまい、スカートがべとべとになるのが当然。しかしセイにその心配は無用である。
口に近付けてすらいないソフトクリーム。その頂上がパスンと消え、続いて山腹がネロリと舐められる。目には見えない口と舌が、確実に白の峰を食している。
舐めている舌が見えない状態で変形するソフトクリームは、なんともまあ不思議だ。柔らかいがゆえに、そこに触れる物がどういった質感で有るかを示してくれる。
その痕跡をちらりと見た。
痛そう、というかベロリとされたら確実に出血するだろうな。そんな物に削り取られるソフトクリーム……なんだか可哀想である。
クジラとしての舌なのか、それともソフトクリームを手にしている少女のそれなのか。どちらにせよ、少なくとも人間のもつ舌ではない。
普段から滅茶苦茶やるし、息を吐くように超常現象を起こすセイ。だがこうして肉体的な相違点を見ると、隣に在る少女が人間ではない事を強く認識させられる。そんなのを助手席に乗せてハンドルを握っている訳なのだから、なんともまあ滑稽な話だ。
先の道を示す看板が見えてきた。今日の目的地まではあと少し、次の
俺は意識を集中させて、ウインカーを出してハンドルをゆっくりと左へ回した。
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