第十一話 恒星クジラは総菜を作る

 さてさて冷蔵庫にケーキを保管したが、そこは各種総菜が入っているはずだった場所だ。どこぞの盗み食い常習犯による犯行で、どれもこれも食われて残弾は殆ど無い。となれば補充しなければならない。


 晩御飯の前に、お惣菜づくりを開始する!


 今朝の買い出しで色々と戦力を拡充している。流石に何十品も作る事は出来ない、ガスコンロの口も二つしかないからな。


 まずはニンジンを二本。

 鮮やかなオレンジ色の皮を剥く。ささっと水洗いして、頭頂部のヘタをズドンと切落とし。そうしたら真ん中で上下二分割にして、更に縦に分割。上側は乱切りにして、下側は縦の千切りだ。


 乱切りにした方はバットに入れて一旦横へ。


 ツナ缶を棚から取り出して、プルタブぺきり。油が飛び散らないように、くあー、とゆっくり開封する。蓋を押さえに使ってフライパンに油を敷いて、過熱を開始する。


 フライパンが温まったら、千切りにしたニンジンを投入。じゅわじゅわと音を立たせながら炒めていき、油を馴染ませる。


 続いてツナを入れて、醤油、味醂、顆粒かりゅう出汁を混ぜたものを加えていく。じゅーじゅーと強火で加熱していき、汁気が無くなったら調理終了だ。


 簡単に作れる総菜『ニンジンしりしり』完成!

 これ便利なんだよなぁ。弁当の彩りにもなるし、なにより簡単に作れる。


 さて、次に移るとしよう。


 ゴボウの方はくしゃくしゃっとさせたアルミホイルで擦って皮を除去。これも乱切りにしておく。レンコンの皮をシャリサリと剥く、こっちはいちょう切りだ。


 シイタケの笠と茎を分割し、笠の方は縦にスパンと真っ二つ。茎を捨てるのは忍びない、こっちも使うとしよう。鶏もも肉はひと口大にして、醤油と酒で下味を付けておく。


 深い片手鍋に油を敷いて熱し、鶏肉をポイ。顆粒出汁もサラサラリ。ザザッと炒めて色が変わったら、野菜たちを投入である。


 全部まとめて少し炒めたら、水をじゃばぁ。ぐつぐつ煮て灰汁あくを取り、酒と砂糖を入れて落し蓋してしばらくコトコト。野菜に火が通ったら蓋を取って、醤油と味醂みりんを加えて更に煮ていく。


 汁気が無くなるまで煮たら、出来上がり。


 とっても日本を感じる『筑前煮』である。


 それ以外の料理も色々と作って保存保存。突然の同居人に食い尽くされた冷蔵庫の中身が充実していく。途中で各種料理が少しずつ減っている気がしたが、まあ完全に消滅しないだけマシだ。


 綺麗に並んだ保存容器たちとそれに入れられた各種の総菜。これだけあれば大丈夫、そう思える冷蔵庫の中。弁当にも朝飯夜飯にもイケる。


 ……ところで、ケーキを増やす事が出来るなら、食った分を増やしておいてくれれば良いものを。俺の事をおもんぱかってくれるほどの親切心は無いようである。


 さっきまでソファに掛けていたセイは、いつの間にか背後に立っている。何をする気だ?もうハンモック大回転は御免だぞ。


 そんな事を思いながら、ゆっくりと振り返る。


「…………」


 何もしてこない。拍子抜け……なんて思ってないからな!平和ならそれが一番良いのだ!


ガンッ

「痛っ」


 背中を殴られた。

 いや、冷蔵庫の扉が開いて俺にぶつかったのだ。勝手に開くようなものではない、間違いなく目の前の少女による仕業である。


 なんだ?つまみ食いでは満足しないで、食い尽くす気か!?食費がキツイ事になるから止めてほしいんだが……。


 と思っていたら、ふわりと何かが浮いて外に出てきた。


 今回は使わなかった豚ロースのブロック肉だ。安めだったので今日か明日の晩飯にでも使うか、と思っていた。そんな物を取り出して、まさかそのまま食う気か?


 …………多分セイは食あたりはしないだろうが、あんまり美味しい物でもあるまい。味覚が人間と同じであれば、の話だが。


 ペリリとビニールの包みが取り払われ、白いトレイが流しに置かれる。空中には肉だけが残された。ジッとそれを見つめるセイと俺。何だコレ、どういう時間だ?


 なんて事を考えていると、それが音もなく一瞬でサイコロ状に切り刻まれた。

 頭の中に某映画の一シーンが思い浮かぶ。あっちは人間だったが。


 調味料が幾つか棚から取り出される。全て空中を移動し、蓋がパカリと開いた。


 ニンニク、塩、オレガノ、パプリカパウダーに一味唐辛子、オリーブ油。それらが豚肉に振りかけられる。空中で行われているので普通ならば床に落ちるが、セイの力によって全てが豚肉にくっついていく。


 ぎゅぬぎゅぬと揉み込まれて、味が豚肉に押し込まれる。十分に味が染み込んだら、豚肉は空中で静止した。


 またもや空中にある豚肉を凝視する時間になる。いや、だからこの時間は一体なんなんだ。


 …………ん?肉の色が、じわーっと少しずつ変わっていってる?え、まさか時間を早めているのか?本当に何もかもやりたい放題だな、時間も操れるのかよ。


 おそらくはしっかりと味が染み込んだ状態になった。その瞬間。


ボッ!

「うおうっ!?」


 俺の至近距離で炎が生じた、クッソ危ねぇ!


 その炎は豚肉を包み込み、凄い勢いで焼いていく。じゅうう~と空中で音が鳴り、何とも良い香ばしいかおりが鼻に届いてきた。しばらくしたら炎は消え去り、こんがりと焼けた茶色いサイコロが大量に出現する。


 なんだったか、たしかスペインか何処かにこんな料理があったような……。うーん、ちょっと思い出せないな。あとで調べてみるか。


 と思っていたら、メモ用紙。


『スペイン、ガリシアのソルサ』


 ああなるほど、ソルサ、が料理名なのか。日本以外についても良くご存じな事で。


 だがまあ、凄い旨そう。スペイン料理だけどこれはコメに合う、断言しても良い。そろそろ晩飯時だし、今日のおかずはこれで決定だな。


 あ、ご飯炊かないと。


 そう思った時には既に、器の中に炊き立てのご飯が出現していた。炊飯器も何も使わずにセイが作ったのだろう、もう深く考えるのは止めておこう。


 セイの手料理?はとっても旨かった。

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