第19話 陽動・救出部隊の戦場・2

 収監施設の中は、外の警備に比べると驚く程手薄だった。外の守りに集中しすぎて、中の守りはどうでもよかったのかとギャリーは首をひねる。てっきり兵士たちで通路がびっしり詰まっていると想像していたが、僅かに兵士が点在しているだけだった。


「なあ、魔法のトラップとかあるんじゃねえか?」


 ギャリーの問いかけに、シビルは意識をこらして魔力探索を開始する。マリオンも超能力サイで探りを入れたが、とくに反応はない。

 シビルも同じようだった。3個中隊の防御陣を突破して、侵入できる輩がいるとは思わなかったらしい。いささか拍子抜けするが、その分手間が省ける。


「研究者たちはどこだ? ペルラ」

「こっち」


 ペルラの案内で、建物の2階へと向かった。




 開け放たれた小窓から、そよ風とともに騒音と血なまぐささが漂ってくる。シ・アティウスは何事かと顔を窓の方へと向けた。


「なにやら外が騒がしいな」

「質問にだけ答えろ!!」


 中年の詰問官は手が腫れるんじゃないかと思うほど、何度も何度もテーブルを叩いた。

 学者や研究者といったインテリ系の人種は、軽い脅しですぐビクビクと口を割る。だが皇国の研究者たちは全員、詰問官の思惑を外れ見事に口を割らなかった。大した覚悟だが、それがよりいっそう詰問官の神経を苛立たせる。まさか自国の副宰相のほうが、何万倍も怖ろしいなど詰問官は知らないことだ。

 とくにこの目の前の男はゾッとするほど無表情で、顔の筋肉を僅かも動かさない。色のついた眼鏡の奥で、時折眼球だけがチラチラと動くのみだった。更に口を開けば無関係なことを言いたいだけ言って、すぐ黙り込む。

 もう一度脅しのつもりで拳を振り上げた瞬間、詰問官の口から「ヒュッ」と息が漏れた。

 詰問官は何事かと喉に手をあてようとしたが、そう思っただけで手は動かなかった。勢いよくどす黒い血を喉から噴き出し絶命したからだ。


「血の色からして、あまり健康とは言えないな」


 倒れゆく詰問官を見ながら、シ・アティウスは顔色ひとつ変えずに淡々と呟く。返り血が大量に降りかかってきたが、軽く眉をひそめただけだった。

 室内にいた他の兵士たちも、同じように喉を切り裂かれて倒れていった。


「助けにきたぜ」


 短剣の露を払いながら、ギャリーは詰問官の身体を乱暴に蹴飛ばす。そして立ち上がったシ・アティウスに顔を向けた。


「ベルトルド……様の命令で救出にきた。オレはライオン傭兵団のギャリーだ」

「シ・アティウスという。私の前では遠慮せず呼び捨てで構わない。私も本人のいないところでは呼び捨てている」


 シ・アティウスの素っ気ない言いようにギャリーはニヤリと口の端を上げると、通路へ手招きした。

 他の研究者たち4名は一箇所に監禁されていたようで、ペルラたちに引率されてギャリーと合流した。血まみれのシ・アティウスを見たシビルが、ぎょっとしたように目を見張る。


「返り血をかぶっているだけだ」


 大したことじゃない、といったようにシ・アティウスに言われ、シビルは固く頷いた。


「連れ出しは成功。だがよ、問題は外だな」

「ヴァルトさんが近づいてきてる気配がします」


 シビルが杖の先端を額に当てて目を閉じる。魔法で仲間の気配を特定した。


「じゃあマリオンの音波攻撃を広範囲でばら撒くのは無理か。いくらヴァルトでも超能力サイの音波は防げねえだろうし。範囲絞るにしても、距離が判りづらいな」

「無理だねえ~。前に実験したことあるしぃ」

「カーティスたちはおいてけぼりしても大丈夫だから、オレたちはこいつらを安全に連れ出すことにだけ集中しよう」

「ですね」

「屋上に出よう。そっから飛んでいけるだろ。周辺はザカリーに任せときゃいいし、ある程度の時間は、シビルの防御魔法で凌ぐ」


 ギャリーがその後の予定を立てていると、ふいに肩の小鳥が嘴を開いた。


<ギャリー聞こえる?>

「おうよ」


 キュッリッキだった。


<こっちはいつでも準備オッケーだから、逃げる時は合図してね>

「判った。まだ少しかかる」

<ほいさ>


 ギャリーの肩に乗る黄色いルリビタキのような小鳥に目をやり、シ・アティウスは興味深げに口を開いた。


「その鳥は?」

「仲間の召喚士のものだ」


 ほほう、と研究者たちが小さく声をあげた。


「召喚士のものなのか」

「ああ」

「ふむ……。召喚士はそんなこともできるのか」


 感心したように呟く。他の研究者たちもそれぞれに、感嘆の声をあげていた。


「あんたら王宮の召喚士見たことあるんじゃないのか? 皇国お抱えの研究機関なんだろケレヴィルって?」

「何度もあるが、そんな素晴らしい芸当は見たことがないのでな」

「ふーん。やっぱ、召喚士にも〈才能〉スキルランクの差があるんかね」

「かもしれんな。これだけ見事なランク値なら、幼い頃に〈才能〉スキル探査機関で見つかっていそうなものだが」


 それはギャリーたちもずっと思っていたことだった。

 召喚〈才能〉スキルを持っていることが判れば、即刻国が召し上げるだろう。なのにキュッリッキはフリーで傭兵などをしているのだ。何故なのか気にはなっているが、そういう野暮を聞かないのが傭兵だ。

 顎に手をあてたまま、シ・アティウスはなんの感情もこもらぬ声で呟いた。


「機関を通ってないのなら、孤児だったのだろうな」



* * *



 キュッリッキは首都アルイールのある方角を、身じろぎせずジッと見ていた。

 すでに闇色に塗り変わろうとする空は、わずかに朱色と紫色の雲を残し、白い星がその存在を照らし出している。

 カーティスから連絡が入ってすぐキュッリッキは遺跡の外へ出ると、首都アルイールの方角を向いて地面にぺたりと座り込んだ。そしてフェンリルは大きな狼の姿に戻ると、前脚でキュッリッキを挟み込むようにして座った。

 それからずっと、座ったまま目を凝らし続けている。

 ガエルとメルヴィンはキュッリッキの両側に立ち、辺りへ警戒を向けていた。哨戒に出ている綿毛からは、異変の報せは何もない。

 麓には何もなく濃い闇に包まれようとしていたが、キュッリッキは瞬きもしない。黄緑色の瞳には虹色の光彩が満ち、灯りもないのに淡い光を放っている。

 キュッリッキはフェンリルの力を借りて、カーティスとギャリーの肩にとまる小鳥と視覚をリンクさせていた。この場からは見ることのできない光景を、しっかりと見ていた。

 アルケラから喚びだした住人たちは、離ればなれになっていても、アンテナの役割を果たすものがいれば、簡単に遠隔操作が可能だ。この場合のアンテナの役割は、フェンリルが担っている。


「あっちの敵も、すご~くいっぱい」


 独りごちるキュッリッキに、メルヴィンが状況を尋ねた。


「こっちにいた倍の兵士たちだよ。3個中隊くらいかなあ」

「あらまあ…」


 メルヴィンが苦笑気味に肩をすくめると、ガエルが小さく笑った。


「ヴァルトとタルコットが、さぞ張り切って喜んでいるだろうな」



* * *



 救出部隊のギャリーたちは研究者らを救出し終えると、脱出のために屋上を目指して走っていた。そして屋上へと登る階段前の広場で、待ち構えていたソレル王国兵たちとぶつかった。

 施設に侵入者ありとさすがにバレたらしく、外の兵士たちが大挙として乗り込んできていたのだ。


「ケッ、勤勉な奴らだな」


 ギャリーは忌々しげにぼやくと、背負っていた両手剣シラーを抜く。


「シビル、防御結界で研究者たちだけは必死に守れ。矢弾がくるとマズイからな。俺らはテキトーでいい」

「あいあい」


 言われなくともといったふうに、シビルは研究者たちを背後に庇い杖を前方に掲げる。


「ペルラとマリオンは、抜けてきた敵に集中しろ」

「判った」

「おっけ~」

「俺の魔剣シラーで、お前ら根こそぎ吹っ飛ばしてやる」


 通常の大剣とサイズは変わらなかったが、柄から鍔にかけて、翼を広げた龍を模した意匠が見事である。そして刀身は灯りを弾いて光沢を放つ純金だった。

 いかにも重そうな魔剣シラーを、ギャリーは両手で柄を握り、肩に担ぐようにして構えた。


「いくぜ」


 低く呟き敵に走り寄りながら、勢い付けて黄金の大剣を振り下ろそうとした、まさにそのとき。


「おめーら全員ぶっ殺すって言っただろーが!!」


 突如ヴァルトが階下から現れて、翼を全開に羽ばたかせて広場に飛び込んできたのだ。


「うそっ」


 ギャリーは慌てて自分にブレーキをかけて踏みとどまる。そのまま振り下ろしていたら、間違いなく目の前に飛び込んできたヴァルトを真っ二つにしているところだった。

 両足で踏ん張り姿勢を立て直すと、ギャリーは憤然とヴァルトに怒鳴った。


「てめー!! 俺の見せ場を邪魔しやがってあぶねーだろが!」

「あん?」


 ヴァルトは肩ごしに振り向くと、噛み付きそうな形相のギャリーの、その奥を見て目を輝かせた。


「俺様のペルラ!!!」


 両手を広げ、今にも飛び込んできそうなヴァルトに、ペルラは鬱陶しそうにため息をついた。

 アイオン族のヴァルトは、ネコのトゥーリ族であるペルラにベタ惚れしている。シャム猫のようにシャープな美しさのあるペルラが、大好きで大好きでたまらないヴァルトは、邪険にされようがスルーされようが、それらは全てペルラの愛ゆえだと信じて疑っていない。

 ペルラは素っ気ない態度をとりつつ、スッとソレル王国兵たちを指差す。


「そこの雑魚どもを、全部片付けてくれ…」

「判った!!」


 ヴァルトの顔がパッと花開いたように笑顔になった。

 ペルラから”お願い”されたヴァルトは――周りから見たら体よくあしらわれただけ――元気よく叫ぶと、その場で思いっきり翼を羽ばたかせる。気合が注入された。

 広場に所狭しとすし詰めになっていたソレル王国兵たちが、片手剣を構えながら目を細める。


「あの世まで飛んで行けっ!」


 拳を固く握り締め、ヴァルトは床を蹴って飛び出した。

 手前の兵士の顔面に拳がめり込むと、後ろに居た数十人の兵士も巻き込み豪快に吹っ飛んだ。広場は一気に騒然となる。

 見せ場を奪われたギャリーは、ヴァルトを忌々しげに睨んだ。


「あのクソッタレめ……。あのバカはほっといて、俺たちは屋上へいくぞ!」


 ギャリーは舌打ちしながら魔剣シラーを背負い直し、屋上への階段を登った。




 屋上にいる敵を今度こそ魔剣シラーの剣風で吹き飛ばすと、ギャリーは肩の小鳥に話しかけた。


「キューリ、いつでもいいぜ!!」

<小鳥を軽く宙へ放って>


 すぐさまキュッリッキから応答が返ってくる。

 ギャリーは言われたとおり小鳥を宙に放る。すると、小鳥は淡い銀色の光に包まれ、その小さな身体を巨体に変じて屋上に舞い降りた。


「うっほ……でけえな」


 仰け反るようにして小鳥ならぬ巨鳥を見上げ、ギャリーは口笛を吹いた。

 巨鳥に変じた小鳥は、身をかがめて皆を背中に誘う。


「よし、シビルは防御を張り巡らせながら乗れ。さすがに目立つ。下の奴らが発砲してくるだろうから」


 そう言っている矢先に砲撃が開始された。しかしすぐに1人、2人と砲撃者の数が減っていく。器用に間引いているが、さすがのザカリーでも数が多すぎる。全て倒しきるのは無理がありそうだった。

 マリオンはシビルを抱えると、すぐさま巨鳥に飛び乗った。

 シビルはそのまま杖に意識を集中して、巨鳥の周りに防御結界を張り巡らせる。下から飛んでくる砲弾は、全て見えない結界の壁に弾かれた。


「みんなぁ、早く乗ってぇ~」


 マリオンがのほほんと声をかけると、呆気にとられていた研究者たちが我に返って、いそいそと巨鳥の背に乗り始めた。

 全員が乗ったことを確認して、ギャリーも飛び乗る。


「いいぜ!」


 それを合図にして、巨鳥は翼を広げ跳ね上がった。




「カーティスあれ」


 背中合わせに立っていたマーゴットが、すっかり濃紺色に染まった空を指差す。カーティスは顔を上げると、夜空を有り得ないほどの巨大な鳥が飛んでいく様が見えた。


「ギャリーたちですか。無事に飛び立てたようですね」


 カーティスは小さく頷くと、銀の杖を構え直した。


「ルーファス、タルコットとハーマンとヴァルトに、戦線を離脱するように念話を送ってください。合流地点で落ち合って、我々も逃げますよ」

「了解だ」


 ルーファスは目の前の兵士を切り捨てると、身体は戦いを続け、意識のみをこらす。


(タルコット、ハーマン、ギャリーたちが脱出した)

(うん、でっかな鳥が見えたよ!)


 まだ暴れ足りなそうなハーマンの、元気な声が脳裏に響く。


(ボクも確認した。周辺の雑魚を掃討しながら、合流地点へ向かうよ)


 タルコットの声も、素直に応じた。


(2人とも気をつけてな。後で会おう)


 ハーマンとタルコットは、無事に合流地点で会えるだろう。そして、若干心配なのが一人。

 陽動すればいいだけなのに収監施設へ乗り込んでいってしまい、カーティスたちとすっかり離ればなれになってしまった。さすがに施設までは追いかけていけず、ヴァルトは絶賛大放置状態だ。

 ルーファスは念話を送りやすいように、仲間たちにはマーキングをしている。どんなに遠く離れていても、それを頼りに念を送ればいい。しかしこれだけ人が大勢いると、マーキングも探しづらく、ようやくヴァルトを探し当てた。


(ヴァルト、引き上げて合流地点へ向かってくれ!)

(ん? 俺様もう、ごーりゅーチテンにいるぞ)

「……ナンデスッテエエエ!?」


 思わずルーファスは声に出して絶叫する。


(建物ン中のれんちゅー、全部倒したし、ギャリーたちも屋上へ向かったしな。俺様も飛んで脱出した)


 鼻ほじしている姿が目に浮かぶ。

 ルーファスは無言になると、斬り捨てた兵士の死体に片足を乗せ、片手剣の切っ先を死体の腹に突き立てる。そして、八つ当たりする勢いで何度も突きまくった。


(死ね、うぜえ、ごるぁあ!)


 念話ではなく、心の声である。


「な、何をしているんですルーファス…」


 いきなり荒ぶるルーファスに、カーティスが引き気味にツッコむ。


「ン、何でもないヨー」


 ニッコリと笑顔を浮かべ、カーティスを振り向く。しかし目は少しも笑っていなかった。

 死体に怒りの限りをぶつけてすっきりしたルーファスは、普段の穏やかな顔に戻る。


「おっし、連絡はおっけーだよ」

「…判りました。さあ、少々派手にいきますよ」


 軽く頭を振り、カーティスは銀の杖に片手を翳すと、朗々と呪文を唱えだした。


「天もみたことがない稲妻と

 地も聴いたことがない雷鳴を

 遍く全ての想像を絶したる大音響を作り出さん」


 カーティスは杖を高く掲げる。


「イラアルータ・トニトルス!!」


 杖から伸びた巨大な雷光が、宙で幾つもの枝のように広がり、アーチ状となって周囲に降り注いだ。

 雷光は轟音と共にうねりだし、地面を激しくえぐり取りながら、鞭のようにしなやかに兵士たちに踊りかかる。幾重にも稲妻を発し、触れたものは感電して死に至った。雷光に飲み込まれたものは強烈な熱で全身を焼かれて消し炭になる。

 ソレル王国兵たちは騒然となって散り散りになって逃げ惑う。巻き込まれたくない一心で、恐慌状態に陥っていた。

 生き物のようにソレル王国兵たちに襲いかかる雷を、カーティスは汗をにじませ操作する。あまりにも威力が強すぎて、気を抜けば自らも滅ぼしかねない。ハイレベルの魔法使いが扱う高位攻撃魔法だった。


「周辺の敵は、だいぶ散らしたね。みんな逃げ回ってる」


 ルーファスは剣を鞘におさめながら振り向いた。


「判りました。我々もずらかりましょう」


 銀の杖をひと振りすると、カーティスは全身で息を吐き出した。雷光もゆっくりと収束していく。

 周囲に兵士たちがいないのを確認し、カーティスたちは合流地点へ向かって走り出した。

 走りながら、カーティスは顔の汗を手で拭う。


「攻撃魔法は、魔力の消耗が酷すぎますね…」

「いきなり【イラアルータ・トニトルス】ぶちかましてくるとは思わなかったぜ」


 にやりとルーファスは笑む。カーティスはちらりとルーファスを見て苦笑した。カーティスの得意な魔法分野は、強化と弱体系である。攻撃魔法も扱えるが、あまり自身で使うことはなかった。

 辺りを警戒しながら、カーティスの脳裏に一人の男の顔が浮かぶ。

 神を引っ張り出さないと、倒すことができないと言われる大魔法使い。魔法〈才能〉スキルを持つ者たちの頂点に立ち、憧れと羨望を一身に受ける。


「あの方のようには、うまくいかないものです」


 疲労を滲ませた顔で、小さく安堵の息をついた。



* * *



「ギャリー組みとカーティス組み、無事鳥に乗って空に出たよ」


 身じろぎせず、キュッリッキがホッとしたように言った。


「それはよかった」


 メルヴィンは胸をなでおろす。

 本拠地を攻めていた陽動部隊と救出部隊、どちらも戦闘など大変だっただろう。とくにギャリー達救出部隊は、非戦闘員を抱えての脱出だ。それを思うと、早く労ってやりたい。そうメルヴィンは思っていた。


「ライオン傭兵団、噂通りすごいんだね…」


 静かな暗闇の中のぽつりとした呟きに、2人の無言の視線が投げかけられた。


「フリーの傭兵たちの間では、凄い凄いって言われてても、何がどう凄いか知ってるヤツってあんまいなくって」


 クスっとキュッリッキは笑う。


「戦場でかち合うと、生存者が殆どいないせいなんだよね。だからそういう意味では、凄いんだろうなって」


 数ある傭兵団の中でも、上位に君臨する代表的な傭兵団。しかしその実態を、正確に把握している者は殆どいない。こうした傭兵団が、自らの功績を周りに吹聴することはないからだ。風の噂のように彼らの強さが伝えられ、それは広がりとともに過大評価となっていく。だからキュッリッキは何がどう凄いのか、まず彼らの働きを見てみたいと思っていた。

 本来傭兵たちは戦場でこそ、その力量を発揮する。しかしこのご時世、そう多く戦争が存在するわけじゃない。食い詰めない為に便利屋稼業として、何でも依頼をこなすのがフリーの傭兵たちの辛いところだ。しかし今回のような一国の軍隊を相手に、これだけのことをやってのける傭兵がどれだけいるだろう。

 小鳥たちの目を通して、彼らの戦いぶりを色々と見ることができた。持ち前の〈才能〉スキル、戦い方、戦闘力、これまで見てきた傭兵たちとは格が違っていた。個々の戦闘能力が高いからこそ、あれだけの無茶がきく。

 昼間のメルヴィンやガエルの戦いを見て、ゾクゾクとした高揚感があった。そして今もまた、アルイールで暴れる仲間たちの戦いを見て、同じ高揚感に包まれていた。


「あんなに沢山敵がいるのに、ヴァルトもタルコットも楽しそうに倒してるんだもん。いわゆるバトル馬鹿、ってやつなのかなあ」


 メルヴィンはちらりとガエルを見やる。当のガエルは腕を組み、太い笑みを浮かべているだけだ。


「あ、ザカリーとランドンも回収したから、あと30分ほどで合流するよ」


 キュッリッキは僅かに肩の力をそっと抜いて、フェンリルの前脚にもたれかかった。




 昼間とはうってかわり肌寒くなってきたので、キュッリッキに遺跡に入るようすすめたメルヴィンだが、


「みんなのお出迎えするの」


 そう言われて、ガエルもそのまま残り、3人は皆の到着を待った。

 最初にギャリー達救出部隊を乗せた鳥がやってきて、10分ほど遅れてカーティス達陽動部隊を乗せた鳥が合流した。


「お疲れ様~」

「ご苦労でした」


 キュッリッキたちに出迎えられ、ギャリーたちはワイワイ笑顔で無事を喜び合った。


「ガエル、随分とチートな戦闘を楽しんだそうじゃないか」


 鳥の背をするりと滑り降りながら、タルコットはガエルに掴みかかる勢いで詰め寄った。


「フッ、キューリの支援は最高だった」


 腕を組んだまま、ガエルはニヤリと口の端を歪める。

 そしてヴァルトも鳥の背から飛び降りるなり、


「ずりーぞクマ野郎!!」


 そう叫びながら、ガエルの胸ぐらを掴んだ。

 そうして3人は、何人倒しただの数を競い合い、どっちが強いか最強かなどと言い合いを始めるのだった。


(やっぱり、バトル馬鹿なの)


 少し離れて見ていたキュッリッキは、呆れたように心でボソリと呟いた。

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