第20話 不協和音

 遺跡の前で待機していたハドリーとファニーは、依頼主のケレヴィルの研究者達を見て慌てて立ち上がる。


「良かった、無事だったんですね」


 安堵の息を吐きながら、ハドリーはシ・アティウスの前に駆け寄った。


「こちらは皆、大事無い。君たちこそ無事でなによりだ」


 薄暗さのある山の洞穴の中では、色のついたレンズの奥の目は判らない。しかし、淡々とした口調から察するに、特別怒っている風ではなかった。


「その血は…」


 ファニーが表情を曇らせると、ああ、と小さく呟いてシ・アティウスは頷いた。


「返り血を浴びただけで、怪我はしていない」

「ふぅ、びっくりした~」


 胸に手を当てて、ファニーは嘆息する。


「君たちを助けたのも、ライオンの連中かな?」

「はい。縄でぐるぐる巻きにされて、あそこのあなぐらに放り込まれていたところをリッキーが」


 そう言って、ハドリーは仲間たちと話しているキュッリッキを指差す。


「お恥ずかしい限りです。護衛についたあたしたちまで捕まるなんて」

「いや、あれはさすがに無理だったろう。多勢に無勢だ、気にすることはない」

「すみません…」


 しゅんっと肩を落とすファニーに、シ・アティウスは頷いてみせた。


「我々の護衛任務は、ライオン傭兵団に移ったようだ。依頼主は上司の副宰相だ」

「では、オレたちの仕事はここまでですね」

「うん。契約した依頼料はきちんと支払うから、安心してくれたまえ」

「なんかスイマセン」

「気にすることはない。どうせ支払うのはケレヴィルという組織だからな」


 すましたように言うシ・アティウスに、ハドリーは苦笑ってみせた。


「では、我らは遺跡の状態が気になるので中を見てくる。ご苦労だった」

「はい、ありがとうございます」

「ありがとう~」


 ハドリーとファニーは、ぞろぞろ遺跡に入っていくケレヴィルの研究者たちの背中を見送り、ホッとしたように肩の力を抜いた。


「良かったねハドリー、依頼料ちゃんと貰えるわ」

「ああ、なんか申し訳ないけど助かる」


 今回のシ・アティウスらケレヴィルの研究者たちの護衛依頼は、かなり報酬額が良かった。普段受ける護衛報酬の約2倍もある。このテの依頼はもっと実力の高い傭兵に声がかかる。しかし日頃から人付き合いを大事にするハドリーの人徳もあり、ギルドの受付担当から声がかかった。

 最初はシ・アティウス個人のみの護衛だったから、ハドリーとファニーの2人でも手に余ることはなかった。そこから護衛サイドの人数が増えて、更に襲ってきた相手がソレル王国軍だったこともあり、仕事をしくじってしまったのだ。


「今日はこのまま遺跡に泊まって、明日帰ろうよ」


 フェニーの提案に、ハドリーは頷いた。


「オレらの顔を覚えてるソレル王国兵なんて、いないよなあ?」

「自分で言うと萎えるけど、あたしらみたいな小物相手に、いちいち覚えてる連中なんていないわよ…」

「だよなあ」


「はあ…」と情けないため息が2人そろって漏れた。

 印象を刻み付けるほどの活躍は全くしていなかった2人である。刻み付ける以前に、大勢で取り押さえられて、殺されなかっただけマシなほうだった。




 ライオン傭兵団は全員が顔を揃えると、遺跡の前で大きな輪を作って、各部隊の武勇伝を披露し合っていた。しかしいざ戦闘の話になると、バトル3馬鹿はキュッリッキのチート支援の話題に集中した。


「カーティス、今度戦闘のある仕事が入ったら、ボクにはキューリを支援につけてくれ」


 おかっぱに切りそろえた黒髪を揺らしながら、タルコットはカーティスを軽く睨む。


「それはダメだろう。俺と組むんだ」


 隣に立つキュッリッキに、ガエルは凄みのある笑顔を向ける。


「キューリは俺様に支援をすればいい!」


 向かい側に立つヴァルトは、ぎゃーすか喧しく喚きたてた。


「モテ期ですね、キューリさん」


 キュッリッキの足元で、シビルが肩をすくめた。


「だいたいガエルがボクたちより数を稼げたのは、全部キューリの支援のおかげだろう。ボクたちと同等の支援じゃない限り、今回の数は無効だ」

「そーだそーだ! そのトーリ!!」

「確かに支援はこちらが優秀すぎたが、それを巧みに活かしての戦闘だ。間違いなく俺の勝ちだ」

「カーティスのしょぼい強化じゃなきゃ、俺様が負けるはずねえ!」

「ヴァルトと違ってボクは、防御もしっかりしながらの戦闘だった。それでこれだけの数を稼いだんだから、当然ボクの勝ちじゃないと納得できない。それに、ヴァルトは跳ね返した弾で倒した数も足してるぞ」

「入れてねーよ! テメーも見てただろ」

「知らないな。ズルはよくない」

「ナンダト~~!」


 盛り上がる3人を冷ややかに見やって、カーティスはゲッソリと溜息をついた。


「毎回苦労して強化魔法を施し、回復や弱体支援をしている私に向かって、なんて言い草でしょうかね全く…。まあ、3馬鹿はほっといて、今後の通達事項ですよ」

「カーティス、たいへんなんだね…」


 キュッリッキも呆れ顔で薄く笑った。


「まあ、いつものことだ」


 タバコをふかしながら、ギャリーも薄く笑う。輪のあちこちから、同意する頷きや苦笑が飛び交っていた。


「ケレヴィルの方々は、もう少し調査を続けたいそうです。恐らくソレル王国軍は、再びナルバ山に攻め込んでくるでしょう。遺跡は死守して欲しいとのことなので、麓で迎撃することになります」

「夜間攻めて来ることはなさそー?」


 手を挙げてルーファスが言うと、


「多分、今夜は無いと思います」


 かわってブルニタルが答えた。


「そーだよね。散々暴れてきたから、すぐ立て直し出来ても夜間中に奇襲は無理かあ」

「ただ、探りを入れに来ることはあるかもしれません。夜通し警戒を続けるのは必須だと思いますが」

「そうですね。全員疲れていると思いますが、グループ分けをして警戒に当たりましょうか」


 ブルニタルの発言を受けて、カーティスが決定する。


「それなら、みんなにもこれ渡しておくね」


 キュッリッキは掌に乗せていた綿毛を、軽く宙に放る。


「なんでえ、それ?」


 不思議がるギャリーたちに、ブルニタルが素早く説明した。


「本当に召喚士というのは、すごいものなんですねえ」


 カーティスは満足そうに頷き、小さな綿毛を頭に置いた。




「なんだか急に、賑やかになったわね…」


 ファニーは傍らのハドリーにそっと囁く。無言で相槌を打つと、ハドリーは洞窟の中を見渡した。

 突如ソレル王国兵に捕らえられ連行されてしまったハワドウレ皇国のケレヴィル研究者たちを救出するため、副宰相の命令で送り込まれてきたというライオン傭兵団。たった一日で作戦を成功させ、今こうして団員全てが集結している。戦闘員は一人で一個大隊・一個師団級の戦闘力をほこると噂されていた。

 装備、武器など、パッと見ただけでも相当の品だと判る。その上チート〈才能〉スキル者だらけときた。魔法や超能力サイを持つ者たちが、しかも高ランクが一つところに集まるなど非常に稀だ。

 ライオン傭兵団は全ての傭兵たちにとって憧れであり、嫉妬の対象でもあるのだ。

 そんな連中の所に、親友のキュッリッキが入った。

 元々フリーでチマチマ稼ぐには勿体無い〈才能〉スキルの持ち主なのだ。本来なら国に召し上げられるほどの、貴重な〈才能〉スキルである。

 しかし当人はそれについては全く意識しておらず、仕事は選ばず依頼があれば受け、小さい傭兵団でも期間限定雇用でもなんでも入っていった。それは友人であるファニーの影響が強いせいもあったし、キュッリッキは自分が特別な〈才能〉スキルを持つ存在だという意識がまるでないからだ。

 ようやくその〈才能〉スキルに相応しい場所に入れたのかと安堵して、ハドリーはつい親のような気持ちになってしまい苦笑する。

 盛り上がっていた彼らは、今は幾つかの輪を作って談笑している。所在無げにファニーと隅に座って眺めていたハドリーのところへ、ルーファスが笑顔で歩いてきた。


「やあ、キミたち、キューリちゃんの友達なんだってね」

「ああ」

「それにしてもさっ」


 ルーファスは素早くファニーの隣に座ると、すかさず擦り寄り強引に手を取って握る。そのあまりにも唐突な行動に、ファニーはビックリした顔を向けた。


「ファニーちゃんって言ったっけ、こんな可愛い子を縛ってあなぐらに放り込んでおくとか、ソレル王国兵も酷いことするよねー」

「そ、そうね」

「ねね、どこに住んでるの? 仕事終わったら飲みに行かない? オレ凄くイイ店知ってるんだよね~」

「えっと…」


 顔を近づけてきて囁くように言うルーファスを、ファニーは顔を引きつらせながら少しずつ避ける。ハドリーは素知らぬ顔で明後日の方向を向いていた。

 キュッリッキほどの美人ではないが、大きい目と愛らしい顔立ちに、ボンッと大きな胸でファニーもかなりモテるのだ。

 ルーファスは申し分のないハンサム顔なのだが、ハドリーだけは知っている。


(コイツの好みじゃねーんだよな…)


 それをはっきり言うわけにもいかず、ハドリーはヤレヤレと内心で溜息をついた。

 一方キュッリッキはその様子を遠巻きに見ながら、少しふくれっ面になった。


(ファニーがちょっとくらい胸おっきいからって……)


 ルーファスは巨乳専と豪語するだけあって目敏い。ファニーに目を留めると、すぐにちょっかいを出し始めている。ファニーにちょっかいを出すのは全然良いけれど、キュッリッキには顔を見るなり、頭をクシャクシャと撫で回して褒めるだけ。殆ど子供扱いに等しい。

 ファニーはキュッリッキより3つ年上だが、その扱われ方の差に、なんだか酷く不公平感があるのだった。




「召喚士というのは君かね?」

「ふにゅ?」


 突然話しかけられふくれっ面のまま顔を向けると、衣服が血まみれの無表情な男がキュッリッキを見おろしていた。顔や頭の血は拭われていたが、白衣にはべっとりと黒々とした血が染み付いていてその姿にギョッとする。


「私はアルケラ研究機関ケレヴィルの研究員をしている、シ・アティウスという」


 差し出されたシ・アティウスの手を握り返し、キュッリッキは僅かに首をかしげた。


(アルケラ研究機関?って、なんだろう…)


 不思議そうに見上げてくるキュッリッキを見下ろしながら、シ・アティウスはベルトルドから中継された、ソープワート王国軍を消し去った、凄まじい召喚の光景を思い出していた。


「太古には、この世界に実在していたという神の国アルケラ。突如国ごと姿を消し、今となっては召喚〈才能〉スキルを持つ者だけが、アルケラの実在を確認できるだけにとどまっている。もはや空想世界のことだと思われ伝説化されてるが、アルケラが存在していた形跡がこれら遺跡には遺っていてね。そうしたものを調べることを仕事にしている研究機関のことだ」


 キュッリッキの疑問を見透かしたように、シ・アティウスは淡々と説明する。


「アルケラのこと、信じてくれているの?」


 ぽつりとした呟きに、シ・アティウスは大きく頷いた。


「もちろん信じているとも。そうでなければケレヴィルなどに勤めたりはしない」


 ちょっと考える素振りを見せたあと、キュッリッキは抱えていた小さなフェンリルを持ち上げて、どこか必死に訴える。


「あのね、あのね、アルケラは、ちゃんとあるんだよ。この子だってアルケラから来たし、小鳥たちもだよ。幻じゃないの、アルケラはあるの」


 その様子に、初めてシ・アティウスは相好を崩した。


「もちろん我々も信じて研究をしている。そうでなければ、危険な思いをしてまでこの遺跡を調べに来たりしない」

「うん、そうだよね」


 キュッリッキも破顔した。


「皇国には、召喚〈才能〉スキルを持つ者たちがそこそこ集められている。君は宮廷のどの召喚士たちよりも、強い力を秘めているようだね。正直召喚士がそんなに凄いことができるとは、知らなかったくらいだ」


 シ・アティウスの背後にひっそりと控えていた他の研究者たちも、そうだそうだと頷きあっていた。

 他の召喚士たちを知らないキュッリッキには、やはり違いがピンとこなかった。自分と同じようにアルケラを視て、住人たちと話ができて、通じ合い、こちらの世界に招き寄せられるものだと思っていたから。

 いずれは他の召喚士に、会ってみたくなっていた。


「帰ったらケレヴィルの研究施設で、色々調べさせてもらいたい」

「そしたら、他の召喚士とも会うことができる?」

「ああ、会わせてあげるよ」

「うわあ」


 キュッリッキの顔が喜びで輝いた。

 喜ぶキュッリッキを見つめながら、シ・アティウスはアルカネットから見せられた、彼女の報告書を思い出していた。


(正直驚くほど不遇な過去を持つこの少女が、フリーの傭兵に身を落とし類まれな力を振るっている。宮廷の召喚〈才能〉スキルを持つ無能者たちに、今すぐ見せつけてやりたいものだ。同じ〈才能〉スキルでありながら、雲泥の差があるのだということを…)


「こんな狼っ子調べてたら、噛み付かれちゃいますよ」


 キュッリッキの背後から、ザカリーがニヤニヤ顔で話に割って入ってきた。シ・アティウスは小さく首をかしげたが、キュッリッキは殆ど条件反射のように肩を怒らせると、噛み付くような顔でザカリーに振り向いた。


「なによっ!」

「ホラッ」


 ザカリーはからかうように、身体をヒョイッと避けてみせる。


(何で話に入ってくるのよ)


 キュッリッキは忌々しそうにザカリーを睨みつけた。その目を真っ向から受けて、ザカリーは内心苦笑する。

 あの日、キュッリッキの秘密を覗き見したことで、以来話しかけても応じてくれず、声をかければそっぽを向くか無視をされ続けていた。もちろんザカリーには秘密をバラす気など毛頭ない。だが、キュッリッキが自分を信用していないことだけは判っていた。

 秘密を見てしまったのだから、それはしょがないと思う気持ちと、そろそろお怒りを解いて欲しいと願う気持ちで板挟みになっている。

 可愛い子専を自負するザカリーは、10歳も年下のキュッリッキを、本気で好きになっていた。

 背も小さく華奢で、本人は全く自覚していないが美少女である。アジトの近所でもすぐ評判になった。手を出そうとする輩も多い界隈に、ザカリーとしては気が気じゃないのだ。最も、ライオン傭兵団の一員と知って、手を出す怖いもの知らずは居ないが。

 あの細っそりした身体をそっと抱きしめてみたい。柔らかな肌に触れながら、桜貝のような色の唇にキスをしてみたかった。そしていつかは全てを自分のモノにしたい。

 好きだという気持ちを自覚してからは、求める気持ちがどんどん強まっている。笑いかけて欲しくて必死にちょっかいを出すが、なかなか成功しない。こうしてからかったときくらいしか、顔を合わせてくれようともしないので、ザカリーとしてはキュッリッキを怒らせるしか手段がなかった。

 一方、キュッリッキはザカリーに話しかけられるたびに、心底ビクビクしていた。アイオン族であること、片翼のことをみんなにバラされるんじゃないかと。彼は秘密を話すんじゃないか、その不安が態度を頑なにさせている。

 ザカリーのことは、好きとか嫌いとかじゃない。ただただ不安で不安で、その存在自体が怖くてたまらない。ヴァルトも秘密を知る者だが、同じ種族で事情も知っていることから、無闇にバラすことはないだろうと考えている。

 まさかザカリーが自分を本気で好きになっているなど知る由もないので、不安を隠すために、態度が強気になり険悪になる。

 ザカリーの乱入のせいで、キュッリッキとの話が中断されたシ・アティウスは、ヤレヤレといった気分で肩をすくませた。その様子を見ていたカーティスは、ザカリーとキュッリッキが揉めているのを見かね口を挟んだ。


「あんまりキューリさんをからかわないで下さいよザカリー」

「別にからかっちゃいないよ。だってよ、退屈なんだもん。なあ」


 ザカリーは強引にキュッリッキの肩を抱き寄せる。あまりにも素早い行動に、キュッリッキはビックリした顔でザカリーの腕の中に抱き寄せられ目を見張った。


(ヤダ…)


 足元から嫌悪感が這い上がってきて、吐き気を覚えて顔をしかめる。


「ザカリー、そのくらいにしておいて下さい、嫌がってますよ」


 理由は知らないまでも、ザカリーが話しかけるとキュッリッキの態度が意固地になるのはカーティスにも判っていた。目を合わせようともしないし、話しかけられても無視している。今も本気で嫌がっているのが、露骨に顔に出ているのだ。


「退屈だしさ、神殿の中で楽しいことしようぜ」


 神殿の中、と言われてキュッリッキの表情が咄嗟に強張る。その様子を怪訝そうに見て、ザカリーは首をかしげると、なにか思い当たったように頷いて頬を掻いた。


「あーなんか、神殿が怖いとか言ってるんだっけか」

「……」


 キュッリッキは身を固くしたまま、むっすりと更に黙り込んだ。


「だって、何もなかったんだろ? 例のエグザイル・システムらしきものだけがあったとかでさ」


 ザカリーがシ・アティウスに顔を向けると、無言の肯定が返ってきた。


「大丈夫だって。オレが一緒にいてやるからよ」


 にやけた笑顔を向けながら言うザカリーの顔を、キュッリッキは力いっぱい引っぱたく。そして腕の中から逃げ出した。


「ザカリーのバカ! 大っ嫌いなんだからっ!!」


 我慢の限界をありったけ声に乗せて、吐き出すように叫んだ。空洞の中に轟くような大声に、何事かと皆一斉に2人の方を向く。

 叩かれた頬に手をあてながら、さすがにザカリーもムッとしてキュッリッキを睨みつける。これまでの不満が、一気に感情を昂ぶらせた。


「ったく……何なんだよ、いっつもふくれっ面でよ! あのことは別に」


 そこまで言いさして、慌てて口を噤み内心で舌打ちする。


(やべっ…)


「おい!」


 ヴァルトが制止するように声をあげた。

 今まで怒っていたキュッリッキの表情が急に怯え出し、大きく見張った目からは大粒の涙が溢れだした。たよりなげな身体を震わせ、ポロポロと落ちた涙がフェンリルの頭で弾ける。

 フェンリルはキュッリッキの腕の中で、表情を険しくさせザカリーを睨みつけていた。


「いや…そんなつもりはないから、そのっ」


 慌てて取り繕うが、ザカリーは狼狽し、言い訳を必死に考えるが思いつかない。つい口走りそうになったことを激しく後悔した。まさかこんなに泣かれることになるとは、どうしていいか判らなくなった。

 2人のやり取りを、みな困惑を浮かべながら見ている。キュッリッキとザカリーがギクシャクしていることは知っていたが、泣かせているところは初めて見る。

 キュッリッキは一度しゃくり上げると、踵を返し神殿へと向かって走り出した。


「あ、おい」


 ザカリーの手は、キュッリッキの肩を掴み損ねて空ぶった。

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