第8話 知られた秘密

 ライオン傭兵団に引っ越してきて一週間ほど過ぎても、キュッリッキはまだ談話室に入ることができずにいた。

 今はアジトに全員顔を揃えているし、たいていみんな談話室に集まっている。

 食堂へは食事をする大義名分があるので、みんなが居ても問題なく行ける。でもどうしても、まだ談話室デビューができない。そんなキュッリッキの様子に、いつ自分から入ってくるだろうと、仲間たちで密かに賭け事が行われていることは知らない。そのせいで、誰かが引っ張っていってくれることもなかった。


「どうしよう…」


 部屋から出て、階段の踊り場でモジモジと降りる降りないをしながら、溜め息混じりに窓の外を眺めるのが日課になっている。


「もうそろそろ談話室行かないと、なんか感じ悪いとか思われそうだし…。でも行っても何していいのかも判んないし…。はあ…」


 今日も勇気が出なくて、葛藤しながら窓の外をただ眺めていると、


「なーに一人で暗く落ち込んでんだ??」

「きゃっ…」


 背後からいきなり声をかけられて、ぎょっと振り返る。

 そこには両腕を組んで、仁王立ちしながらキュッリッキを見下ろしているヴァルトがいた。


「ちょっとハナシあんだ。付き合えよ」

「……え?」


 ヴァルトは長い腕を伸ばし、窓を全開に開ける。


「あっちいこーぜ!」

「ちょっ」


 ヴァルトはキュッリッキの両脇に手を入れると、問答無用でそのまま抱えて窓の外に飛び出た。


「やっ」


 浮遊感に一瞬目を瞑ったが、急にガクンっと身体が弾み、すいーっと風が頬を凪いでいった。


「え?」


 目を開けて首を後ろに向けると、ヴァルトの背から真っ白で大きな翼が生えているのが見える。


(あれって…)


 アイオン族の翼だ。

 それが判った瞬間、キュッリッキの表情に苦いものが過ぎり、辛そうに俯いて唇を噛んだ。




「ん? ありゃ…」


 タバコを買いに出ていたザカリーは、ヴァルトとキュッリッキが飛んでいく姿を偶然見かけた。しかしその様子に呆れた溜め息が出る。


「せめてお姫様抱っこしてけよ、あのバカ」


 両脇を掴んでぶら下げた格好にして飛んでいるため、ミニスカート姿のキュッリッキのパンツが丸見えである。あれではスカートを押さえることができない。

 今日は可愛い水色のストライプだと判り、ザカリーはちょっと嬉しくなった。


「いやいやパンツの柄じゃなくってだなっつか、ドコ行くんだあいつら」


 急に興味が湧いて、ザカリーは2人を目で追いながら走り出した。遠隔武器〈才能〉スキルを持つザカリーなら見失うことはない。


「倉庫街のほうだな」


 だいたいの位置が判り、ザカリーは2人を追跡し始めた。




「そ~~~~~~~いっ!」


 ヴァルトは元気に掛け声をあげると、キュッリッキを藁束の上にぽいっと放り落とした。

 上空3メートルから放り落とされ顔面から藁束に突っ込み、盛大に舞ったホコリと藁くずにまみれてしまった。


「俺様ナイスコントロール!」


 ヴァルトは腕組をしながら、ふふーんと満足そうに頷く。


(いつか……絶対……ぶっ殺す!!)


 藁から顔を引っこ抜き、よろよろと上体を起すと、キュッリッキは心の中で拳を固く握った。スカートがめくれて、水色のストライプパンツが丸見えになっていることにも気づいていない。いきなりこんなことをされて、腹が立っているからだ。

 ホコリと藁くずの舞がおさまるのを見計らってヴァルトはゆっくり降りてくると、キュッリッキの横に着地して、すとんっと胡座をかいた。

 ここは家畜の餌用にまとめられた大きな藁束が、いくつも無造作に置かれた倉庫裏の一画だった。人気ひとけもなく辺りは静まり返っている。


「で……話って、なに?」


 ムスっと唇を尖らせたキュッリッキは、身体についたホコリと藁くずを叩き落としながら、藁束の上から飛び降りる。


「オマエ、あの”片翼の出来損ない”だろ?」


 着地と同時に言われて、キュッリッキはハッとなる。

 片翼の出来損ない。何年ぶりに聞いただろう、忌まわしい言葉。


「暫く思い出せなかったんだけどよー、今朝いきなり思い出したんだ」


 ヴァルトは胡座をかいた上に片肘をついて、じっとキュッリッキを見おろしている。表情も声も淡々としていた。

 硬直したようにヴァルトに背を向けていたキュッリッキは、ゆっくりとヴァルトのほうを向いて、そして怯えの色を滲ませながら睨みつけた。


「……同族なんだから、知ってるでしょ」

「まーね。オマエが生まれたとき、他惑星のアイオン族のとこにも、話題が広まるほどユーメイだったからな」


 睨みつけてくるキュッリッキの視線を真っ向から受け止め、ヴァルトは青い瞳を揺るがすことなく見つめ返す。そして、ふいっと視線を空へ向けた。


「アイオン族はもとからイケスカナイ一族だが、極めつけのオーサマを生み出しちまった。第57代皇帝アルファルド、コイツのせーで、アイオン族は益々嫌われ者になった」

「……」

「”アイオン族は完璧であらねばならない。欠陥品はクズ同然、アイオン族を名乗るのもおこがましい。飛ばない鳥を、鳥とは言わない。アイオン族の面汚し”。――こんなこと言い出しちまったせーで、オマエみたいな奇形児は、風当たりが冷たかったんだろうな」


 第57代皇帝アルファルドは、今から3代前に皇帝の座に就いた、フルメヴァーラ皇家の者である。

 ヴァルトの言った皇帝アルファルドの言葉を、キュッリッキもよく知っている。心の傷とともに、深く深く、胸に刻み込まれているからだ。

 キュッリッキの脳裏に浮かぶ、幼い頃の光景。

 空を見上げている少女、ボロをまとって悲しげに、すがるように、ただただ空を見上げていた。

 キュッリッキはそっと目を伏せた。




 世界には3つの種からなる人間が住んでいる。その中の一つがアイオン族。

 背に2枚の巨大な翼を有し、天空を自在に翔け風を読み、ほとんどの者が優れた容姿を持つ。翼は自在に出し入れ可能で、翼をしまっている状態ではヴィプネン族と見分けがつかない。

 その性格は気位が高い上に選民意識が強く、他種族を見下す傾向がある。それを隠しもせず露骨に振舞う者が多いことから、多種族はアイオン族を快く思わない者が多い。

 帝位に就く時、アルファルドはとんでもない布告を出した。


「アイオン族は完璧であらねばならない! 欠陥品はクズ同然であり、アイオン族を名乗るのもおこがましいのである。飛ばない鳥を鳥とは言わないであろう!!」


 拳をふるい、民衆の前で熱弁した。


「予の治める国にそんな欠陥品はいらぬ、アイオン族の面汚しは即刻排除すべし!!」


 そう布告を出した。

 布告を出された瞬間から、身体に障害を持つ者は容赦なく粛清され、病弱な者まで粛清された。身内にそういった者がいれば、隠す家族までもが処刑され、惑星ペッコに悲劇の嵐が吹き荒れた。だがアルファルドが死んで皇太子のレムリウスが帝位を継ぐと、無慈悲な布告は即撤廃される。

 しかし40年以上も続いた悪習はアイオン族に深く根付き、すぐにはぬぐい去られず、それはいまだに暗い影を落とし続けていた。

 幸いなことに、そうした悲劇は惑星ペッコのアイオン族のみで、他惑星で暮らすアイオン族にはアルファルドの悪影響は及ばなかった。

 今はもう、アルファルドの時代ではない。酷悪な悪法は排除され、正常な法が敷かれている。にも関わらず、キュッリッキの身の上には、アルファルドの悪影響が冷たく降り注いでしまったのだ。




 ヴァルトはヴィプネン族が治める惑星ヒイシにある自由都市出身である。子供の頃両親から、惑星ペッコで生まれた奇形児の話を何度か聞かされていた。

 アイオン族に生まれ落ちた、稀少中の稀少、召喚〈才能〉スキルを持った女児の話を。

 召喚〈才能〉スキルは、稀少中の稀少と呼ばれるレア〈才能〉スキルである。1億人に1人の確率でしか生まれてこないとされていた。

 この〈才能〉スキルを授かった子供は、国が家族ごと召し上げ、生涯国の保護下のもとで安全で優雅な生活を送ることが約束されるのだ。それは、3種族共に決められたことでもある。

 本来なら種族をあげてその誕生を祝い称えることになっただろうに、奇形児として生まれてしまったため、生まれてすぐ親に捨てられ、挙句同族から蔑まされる羽目になった。奇形――片方の翼が、翼としての形を持たなかったがために。

 その女児の名を、キュッリッキといった。

 ヴァルトの両親はその話をするとき、女児のことを痛々しそうに話していた。

 惑星ペッコに住むアイオン族は、悪習の名残を色濃く残していることから、奇形児に対する偏見が酷い。しかし他惑星で暮らすアイオン族には、そうした酷い偏見を持つ者はほぼいなかった。

 ヴァルトの両親も、偏見とは無縁の性格をしている者たちだった。

 人間としてマトモな両親に育てられたヴァルトも、偏見意識は殆どない。蔑まれる女児を可哀想だとも思ったし、出会うことがあれば力になってあげたいとも思っていた。

 その話題の女児が目の前にいる。

 そしてなにより興味深いことがあった。それを確かめたくてキュッリッキを攫うようにして、人気ひとけのないここまで連れてきたのだ。


「翼見して」


 ヴァルトは何の感情もこもらぬ声で言う。

 キュッリッキは複雑な表情を浮かべ、きゅっと下唇を噛んだ。両手の拳を握り、肩を震わせる。無言で恨めしそうにヴァルトを睨みつけた。

 そんなキュッリッキの目をものともせず、ヴァルトは青い瞳でただ、キュッリッキの瞳を見つめ返した。その、黄緑色の瞳にまといつく虹色の光を。

 ヴァルトは何も言わず、キュッリッキが翼を出すまで黙って見ていた。

 残酷なことを言っているのはヴァルトにも判っている。心の傷を抉り出し、不遇の原因となった翼を見せろと言っているのだ。キュッリッキにとって、耐え難い苦痛と屈辱だろうに。それでも、ヴァルトは見たかった。




 キュッリッキはヴァルトを睨み続けていたが、顎を引くと、やがて観念したように目を伏せる。


(どうせ、アタシのこと知ってるんだもんね…)


 頭にカッと怒りがのぼったが、それ以上に悲しい気持ちが心に広がっていった。


 ――醜い子! 醜い翼!!

 ――なんてみっともない、見苦しい出来損ないめ!


 この翼のせいで、片翼のせいで、幼い頃から浴びせられ続けた酷い言葉の数々。それがゆっくりと心に浮かび上がってきた。その度に、心がズキリと痛みに震える。


(なんでこんなものが、見たいんだろ…)


 親にも嫌われた、醜い翼なんて。

 急にどうでもいい気がしてきて、キュッリッキは苦笑した。どこか突き抜けてしまったような感覚に心が包まれた。

 両手を胸の前で交差させ、腕を抱く。僅かに前のめりになるようにして、腕を抱いた手に若干力を込めた。


 バサアアッ。


 粉雪のように、羽根がヒラヒラ舞い落ちる。ヴァルトは大きく目を見開いた。

 そこには見事な翼が右側に一つと、むしり取られた残骸のような翼が左側に一つ。


「噂は、本当だったんだなあ……」


 上ずったような声でヴァルトは呟いた。

 その呟きを、キュッリッキは片翼のことだと思って顔を俯かせた。


「瞳と同じように、翼も虹色の光をまとっているのか~。キレーだなあ」

「え?」


 思っていたこととは正反対の感想が返ってきて、キュッリッキは目を瞬かせた。貶されることはあっても、褒められたことなど一度もないからだ。


「オマエの噂話を聞いたとき、その翼の話も聞いたんだ。召喚〈才能〉スキルを持つと、翼までチガウもんなんだなーって」


 アイオン族の翼は本来白色をしている。クリーム色系をしていたり、青みがかっていたり、個人差は多少あるものの真っ白な翼をしているものだ。しかしキュッリッキは生まれ落ちた時から翼にも虹色の光が散らばっていて、それは珍しいと噂になった。


「会うことがあれば、どーしても、一回見たかったんだ~」


 ヴァルトはニッコリと笑った。


「あんがとな! もう仕舞っていいぞ」


 大満足そうに鼻息をつくと、ヴァルトはふとキュッリッキの背後に目を走らせた。


「おーーーい! そこでなに覗き見してるんだ覗き魔!!」


 ヴァルトは藁束の上に立ち上がり、片手を腰にあて、もう片方の手を前方に伸ばすと、人差し指を積まれた木箱にビシリと向けた。




「ありゃ、判っちゃった~?」


 ヘラリとした笑い声と共に、木箱の影からザカリーが姿を現した。そのザカリーを見て、キュッリッキは飛び上がるほど仰天した。


(見られた!)


「バレバレだろーが、バカ者めが!!」


 ヴァルトは腕を組むと、仁王立ちしながらザカリーを睨みつけた。

 ザカリーは降参のポーズを取りながら2人のそばにくると、いまだに翼を出しっぱなしのキュッリッキに、物珍しそうな視線を向けた。


「アイオン族だったんだ。アイオン族特有の上から目線が全然ないから、気付かなかったよ」


 興味津々の笑みをキュッリッキに向けたが、返ってきたのは怒りに染まった殺意に満ちた目だった。あまりにもその苛烈な目に、ザカリーはグッと息を呑む。

 キュッリッキはザカリーに色々と言ってやりたいことがたくさんあったが、怒りと屈辱でうまく言葉が出せない。頭の中はパニックに陥っていた。


(見られたなんて、こんな…)


 自分がアイオン族であることは、ずっと隠してきた。片翼の奇形の為、飛ぶことが出来ないからだ。

 アイオン族が他種族からどれほど嫌われているかは、これまでの傭兵生活でよく知っている。高慢ちきで気位の高い種族、だと。そんなアイオン族であるキュッリッキの奇形の翼を見たら、これみよがしに侮辱を受けるに違いなかった。

 同族からも散々受けてきたのに、他種族にまで侮辱されるなど、キュッリッキには耐えられない。

 他人に翼を見せることに激しい抵抗はあったが、ヴァルトは同族同士で事情も知っていることから、嫌だったけども見せたのだ。見せないと解放されそうもなかったから。それなのに、ヴィプネン族であるザカリーにまで見られてしまうなんて。

 屈辱と怒りで殺気を放つキュッリッキを見て、ヴァルトは軽く首を横にふると、藁束から勢いよく飛び降りた。そしてポンッとキュッリッキの頭を叩き、間隔を置いて、もう一度ポンッと頭を叩いた。


「すまん、ザカリーに気付かなかった」


 そう小声でキュッリッキに言うと、ザカリーとキュッリッキの間に立ち、キュッリッキを背に庇うような位置でザカリーを見おろす。

 ヴァルトはザカリーより頭3つぶん背が高かった。更に翼を広げたままなので、完全に視界を遮られて、キュッリッキが見えなくなった。


「見ちゃったモンはしょーがないが、このことは黙ってろよ!!」


 仁王立ちに腕組のポーズ。更にふんぞり返っている。

 ザカリーはバツが悪そうに頭をカシカシ掻くと、上目遣いにヴァルトを見た。


「…言いふらすことじゃないよな。黙っとく」

「アタリマエダ!!」


 更にヴァルトはふんぞり返った。


「まあ……なんだ、オレは先に戻るよ」


 身体をずらしてキュッリッキを見ようとしたが、がっちりとヴァルトにガードされて見えなかった。


「あきらめろん!」

「へいへい」


 ザカリーはジャケットに手を突っ込むと、のらりくらりとその場をあとにした。




 歩きながら、キュッリッキの背に見えた翼を思い出す。大きな翼と、翼の形を成していなかった無残な翼を。


(片方の翼が、いびつだったな…)


 話は聞こえてこなかったが、キュッリッキのあの怒り様とヴァルトの庇うような姿勢から、見てはいけなかったものを見てしまったということだけは察しがついた。

 2人が気になって着いてきてしまったが、興味本位で見るものじゃなかったのだ。

 後悔の念が押し寄せてきて、ザカリーは軽い憂鬱気分に陥った。




 帰りはちゃんとお姫様抱っこで連れ帰ってもらったキュッリッキは、アジトの玄関前におろされると、一目散に自分の部屋へ駆け込んで後ろ手にドアを閉めた。


「どうしよう…、ザカリーに見られちゃった」


 心の中は不安でいっぱいになっていた。もしみんなにバラされたら、ライオン傭兵団だけではなく、ハワドウレ皇国にすら居られない。居たくない。それに、ルーファスやマリオンは超能力サイを使う。透視されたらどうしよう。


「ヴァルトにも、見せるんじゃなかった」


 油断してしまった。ずっと隠しておくべき秘密だったのに。

 キュッリッキはベッドにうつ伏せで倒れこむ。花柄の可愛らしいキルトで作られたベッドカバーが目の端に映った。昨日マリオンと一緒に買いに行ったのだ。

 アジトにきて1週間、少しずつ馴染み出してきた矢先だったのに、また居場所をなくすのだろうか。そう思うと心がズキズキと痛んだ。


「ずっと、ここに居たい…」


 ベッドカバーをギュッと握り、目の端から涙がツウッと流れ落ちた。




 ザカリーは倉庫街からノロノロ帰り着くと、自室でタバコを3本ほど吸って談話室に足を向けた。憂鬱はおさまらなかったが、酒でも飲みたい気分だった。


「あー、ザカリ~」


 マリオンが笑顔で手を振る。


「ついにキューリちゃんがあ、談話室デビューを果たしたわよぉ~」

「おっ」


 ひどく緊張した顔で、オレンジ色のソファの隅に腰掛けている。とてもデビューを果たした表情ではないが、こうして談話室に来る気になったのかと思うと、ザカリーはひっそりと安堵した。

 キュッリッキの横にはルーファスとマリオンが並んで座って、キュッリッキを笑わせようと、傭兵団の赤裸々談を語り聞かせている。話題に挙がる面々が、時折誤魔化そうとツッコミまくっていた。

 ビールを手酌でコップに注ぎ、グイッと一気に呑む。今まさにギャリーの恥ずかしい思い出話が披露されていて、ザカリーも時々ツッコミ混ざる。そしてキュッリッキも緊張した表情は中々崩れないが、我慢しきれず笑みを漏らしてもいる。


(よかった、もうあんまり怒ってないんだな)


 ザカリーは自分に都合よく解釈していたが、キュッリッキはそうではなかった。

 不安だから談話室へ来たのだ。ザカリーがみんなにバラしはしないか、もしバラそうとするなら、それを阻止するために。

 ヴァルトについては、あまり心配していない。彼の性格的に、バラすつもりならとうにバラしている。でも、ザカリーはどうだか判らない。まだそこまで、信用することはできないからだ。


(絶対、みんなに知られないようにしなくちゃなんだから)


 キュッリッキはスカートをギュッと握り、更に表情を固くした。

 この出来事が、後に大きな悲劇を招き寄せることになるとは、このときキュッリッキもザカリーも気づいていなかった。

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