第16話 接触
待機し始めてから1時間弱が経った時、下校のチャイムが鳴った。もし部活をやっているならもう少し待つか。名前は綾野、と言ってたよな。
すると「んん~、よく寝た。」
とノノカが起きてきた。
「授業終わったのかな、少しずつ門を出ていく生徒がいるね。あの子もう出てきた?」
「いや、僕の見ている限り出てきてないよ。」
「そっか、分かった。あたしちょっと行ってくる。」
と言ったかと思うと、サササーッと校舎の中に入って行った。
5分もしないうちに戻ってくると
「いたよ!もう来る‼どうする?」
「考えがある。いきなり声をかけたら変な人と思われるから、まずは尾行して家を突き止めよう。わかったらノノカに家に入ってもらって、パソコンがないか確かめてもらう。あったらほぼ確定。この時代は中学生では携帯電話ほとんど持ってないからね、おそらく家族共有のパソコンを使ってると思うんだ。」
「へぇ、よく知ってるじゃん、探偵みたいだよ。」
「はは、僕はちょっとしたパソコンオタクなんだ。父がGOJITSUのパソコン開発部門に勤めていて、新しい試作機ができると時々家に持ってきて使い勝手を訊いてくるんだ。僕が試しに使っていると、パソコンやインターネットがいつから普及したかとかを話してくれる。父はこれからはインターネットがすべてのソース(情報源)に繋がって行く、毎回と言っていいほど話していたよ。」
「そうなんだ~。意外な一面。わかった、青の言う通りにするよ。」
「うん、お願い。これはノノカにしかできないんだ。」
綾野は家が近いのか1人、歩いて帰っていった。その10mぐらい後ろにノノカ、50mぐらい後ろに青がゆっくりつけて行った。
1kmぐらい歩くと、新しい家が立ち並ぶ住宅街に入っていった。一番奥の、角の家に綾野は入って行った。
「じゃあ行ってくるね!すぐに分かると思うからそこの電柱のところにいて。」
ノノカはタタタっと家の中に入っていった。
「さて、これでパソコンが有ればあとはネットだな。この時代は確か光回線なんてないからテキスト型のSNSだったはず。ということは…」
考えを遮るように
「そこの高校生!そこで何をやっているのかな?」
と女の人の声。青はびっくりして
「警察?婦警さん?まずいな、身分証明するものなんて学生証しかない。でも2023年入学、ってあるから説明できないぞ…。どうしよう、どうしよう…。」
「何ビクビクしてるのかな、青くん。私よ、ワ・タ・シ。忘れちゃった?」
青は振り向くと
「え⁉ 合志先輩⁉ なぜここに⁉」
「言ったでしょ、もう一度会うことになるって。安城先生が大事なもの渡し忘れたって言ってたから持ってきてあげたのよ。マルチSIMカード。これがあるとどの時代、どの国に行っても通信できるし、サポアニちゃんとも通信できるの。便利でしょ?」
「う、はいっ、便利です。でもなぜ合志先輩が?」
「話すと長くなるのよね。もしよかったら私を仲間にしてくれない?そうしたら時間ができたときに話してあげる。」
「い、いいですよ、でも仲間にするのってどうすればいいんですか?」
「まだサポアニちゃんに聞いてない?サポアニちゃんが契約書持ってるはずなんだけど。」
「そうですか、じゃあすぐに戻ってくると思うので訊いてみます。」
そうこうしているうちにノノカが戻ってきた。
「ちょっと何?何この女の人?早速ナンパでもしたわけ?手が早いのね‼」
「ごめんなさい、私から声をかけさせてもらったの。」
「え??あたしのことがわかるの⁉ どうして⁉」
「もう日も暮れるから細かいことは抜き。私は合志美姫。青くんの1年先輩。あなたは?」
「そうなの⁉ あ、あたしはノノカ。えっと、何がどうなってるのか整理がつかないけど、まず報告ね。
青、ビンゴよ。綾野さん、部屋にパソコンがあってカバンを下ろすとすぐに電源入れてた。」
「そうか、ありがとう。あとはネットの内容だね。テキスト型のSNSだと思うんだ。パソコンが有れば覗き見できなくないんだけど…。かよさんところで買っておけば良かったな。」
「パソコン?これでいい?」
合志はバッグの中からA4のノートパソコンを渡してくれた。
「完璧です!これがあれば覗き見できますよ‼僕用のアカウント作ってもらっていいですか?」
「そんなの面倒くさいからあたしのアカウントでいいわよ。どうせ提出物のデータぐらいしか入ってないしね。」
「じゃあお言葉に甘えて使わせていただきます‼」
合志は言った。
「待って、使うのはいいけど、ここで使ったら本当に不審者で捕まるわよ。場所を変えましょう。」
「そ、そうですね。と言ってもどこがいいだろう、考えてなかった。」
「ネットカフェでいいんじゃない?近くにあるはずよ。調べてあげる…。あった!ここから1km弱。行くわよ‼」
うう、なんて頼もしいんだ、流石は先輩。とノノカを肩にのせた青は先輩の後ろをついて行くとバシッ‼今度はノノカの右足フックが青の左頬を直撃。
「いったいなぁ、何だよいきなり。」
「なんだよじゃないわよ、一体誰よ、何者?学校の先輩なのになぜこの世界にいるの‼」
「ま、まぁ、実は僕もまだ教えてもらってないんだ。先輩がどうしてここにいるのか。でもこれ持ってきてくれたんだよ。」
「あ、それは…安城先生、忘れてたな…。歳だからボケてきてるのよね。」
合志が
「コソコソ話しているつもりだろうけど全部聞こえちゃってるから。
せっかくだから話せるところまで話しておくわ。私は過去にこの世界を挑戦して死んでしまった人の娘なの。この世界で死んでしまった人は家族と会えないでしょ?だから現代にいる代理人が母親と私、妹に説明に来て、私達家族の生活が困らないような慰謝料を渡してくれたの。でも大切なパパを奪ったわけだから、私納得行かなくて代理人と掛け合ったのよ、この世界を行き来させてくれって。それが1年前の話。」
青は
「もしかして、その代理人って音楽の柳生先生ですか?」
「その通り。柳生先生は一見ぶっきらぼうだけど、すごく真摯な人よ。」
「色いろ繋がってきた気がします。他にもお訊きしたいことはあるんですが…。」
と言っている間にネットカフェに着いた。
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