第10話 絶対零度

「うむ、やっぱり来たの。待っていたぞよ。」


ゆっくりとした優しい口調で先生が声をかけてくれ、僕は我に返った。

前回もそうだったけどここに来るときは気を失うんだな…。


「先生…でいいですか?来ましたよ。何かが変わる気がしたので。」


「よろしい。殊勝な心がけじゃ。私も君は来ると思っていたよ。まぁなんだね、決めたからには慌てることはない。茶でも飲みながら話すとしようか。おっとと、その前にこのボタンを押しておかないとな。」


先生は教壇の隣の、教諭机にある赤いボタンを押した。


「なんですか今のボタンは?」


「向こうの君の時を止めたんじゃよ。昨日はうっかり忘れておっての、カッカッカ!」


「ボタンなんですか⁉ということは時を止める機械があるということですか?」


「おぉ、もう弾丸質問体制じゃの。まぁええ。機械とはちょっと違うの。正確には向こうに浮遊している君のほんのちょっとの細胞に、あるパルス(信号)を送って活動を停止させたんじゃよ。絶対零度は習ったかえ?」


「えぇ、細胞が完全に活動を停止する温度ですよね。確か-273℃だったかな。でもこの温度にすることは不可能と言われましたけど。」


「-273.15℃じゃ。わしも詳しくはわからんが、どうやらその温度を今から100年前に達成したらしい。と同時にその副産物として時間を止めることができたらしいの。物理や化学ではよくあることじゃ、カッカッカ。

それより安楽土青君、コーヒーと紅茶と、宇治茶と梅茶とレスカならどれがええかの?」


なるほどねぇ。絶対零度の副産物か。とりあえず納得しておこう。僕もまだそんな多くの知識は持っていない。それにしても随分飲み物のバリエーションが多いんだな!しかも最後はレスカときた。ハイカラだ。


「じゃ、じゃあレスカで…。それと僕のことは青でいいです。」


「レスカか!初めてじゃ。作れるかの…」


作るんかい‼もしかして面倒くさいおじちゃん?


「じゃあ紅茶でいいです…。」


「ホホホ、すまんの。紅茶ならもうできておる。ほれ、そこの棚からティーカップを取りなぁされ。」

教諭机の後ろの棚から2つティーカップを持っていった。


「おぉ、なんと気の利く子じゃ。ありがとう。どれ…、アールグレイじゃ。香りを楽しみながら飲むとええ。」

と言いながらどこから出てきたのかわからないポットから、紅茶を注いでくれた。うん、たしかにいい香りだ。


「先生も紅茶が好きなんですか?」


「わしはコーラじゃ。ほれ見てみい。コーラはいいぞ、さっぱりする。」


コーラがあるんかい‼じゃなんで言わなかったんだ!


「さっき言わなかったじゃないですか!僕もコーラが好きです!」


「いやもうこれで終わりなんじゃ。カッカッカ!」


カッカッカじゃないよ…。



まぁいいや、これからのことを詳しく訊いてみよう。

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