第15章「緊張の中で」

 両側をチャクリとユーフォンにはさまれて廊下を最短ルートで早足で突っ切り、エレベーターで六階に。

 見なれた場所のはずなのに、横にいる二人が険しい顔をしているから、緊張感がはんぱなかった。

 その間、マイマイはずっとチャクリに抱えられていた。

 でも、それはわたしが小さいころにしてもらっていた抱っことはまるでちがくて、完全に動きをふうじるような抱え方で。

 ……マイマイがなにをしたのかも、チャクリ達がどうしたいのかもわからない。

 わたしとシユンは不安げに顔を見合わせた。

 この前パジャマだけパーティーをしたアンシュの部屋に着くと、ユーフォンがすばやくコマンドでドアを開けて、わたし達は中に入れられる。

「よかった、全員無事だね」

「みんな……!」

 入り口の前に立っていたアルタンの顔に少し安心したのも束の間、わたしは彼の後ろに広がる光景に言葉をうしなった。

 みんなで楽しくおしゃべりをした床には、さっきと同じアンドロイドが頭部を破壊された状態で転がっている。

 そしてベッドの上には、カオルとクテとアンシュがかたまってならんですわっていた。

 一見ふつうに見えるけど、すわり方がなんだか、マットレスにしずみそうになるのを必死にたえているみたいな、不自然な姿勢で──少し、おかしい。

「みっ、みんな大丈夫なの!?」

 思わず問いかけると、アンシュがかすれた声で、

「あの銃、電撃出せるやつだった……全身しびれてさ、うまく動けない」

 と答えた。

「アンシュ達がこれに襲われた時、運よく三人一緒だったから、みんなの暴れる音と叫び声で僕達がすぐに助けに行けたんだ。もし一人だったらまんまと気絶させられてたと思う……」

 説明するにつれて、アルタンの声はどんどん小さくなっていく。

 彼はいったん言葉を切ってため息をつくと、髪をがしがしとかいてから、続けた。

「それが、目的かな」

 しずかで、安定してて、それでもいつものあたたかさが削ぎ落とされた声。

 彼は主語こそ言わなかったものの、その視線はマイマイにまっすぐ向けられていた。

 それと同時に、部屋の空気の緊張の色がいっそう濃くなった気がして、わたしは思わずつばを飲みこむ。

 ……なんで、マイマイがわたしも来るって知った時にいやそうな顔をしたのか、分かっちゃった。

 本当は、シユンも一人っきりにしたところを攻撃して、つれ去るつもりだったんだ……!

「キミさ、本当はなにが目的なの」とアンシュがマイマイをにらみつける。

「あーマジでしゃべりすぎたオレがバカだった」

 そう言って、カオルも冷ややかな目線をマイマイに投げかけた。

 クテも、二人の間から目を細めてマイマイの様子をうかがっている。

 マイマイはうつむくと、ぎゅっと服のすそをにぎって口をつぐむ。

 いつも感情的になることは滅多にない先輩達も、全員そろってマイマイに警戒的な視線をむけていた。

 わたしは首元のアザをガリガリと引っかくと、くちびるをかんだ。

 みんな、怒っている。

 それはわかるよ、だって、マイマイがクテ達のケガに関わっていたのはまちがいないんだもん。

 だけど、なんていうか、これはさ、これはさあ……!

「おまえらちょっと待てよ!」

 シユンが割りこむと、マイマイをかばうように前に出た。

「うたがうのはいいけど、っていうか第二世代はこの状況に確実に関係してるけどさ。でも『やった』のか『やらされた』のかがわかんないのにマイを追い詰めんのは、ちがうじゃん!」

 いつもやんちゃで調子に乗ってばっかりの彼が完全に『先輩の顔』をしていて、わたしは思わず息をのむ。

 ……シユンがこんな力強い声を上げるの、初めてだよ。

 彼の言葉に、先輩達も目を見開いた。

「……ごめん。私、後輩達がケガさせられて気が動転してた。一番冷静にならなきゃいけなかったのに」

「俺も、さっきは乱暴な抱え方をしてすみませんでした」

 ユーフォンとチャクリに謝られ、マイマイは少しおどろいたような顔をすると、視線をそらす。

「……いい。おまえらがマイマイをうたがうのは当然──というか、正解だから」

 正解って……やっぱり、これに第二世代が関わっていたのは、事実なんだよね。

 なんでこんなことするの、引っこしてくるんじゃなかったの? って、ズキズキと胸が痛む。

「説明してくれるかな。きみの言うことはひとまず信じるから」

 アルタンの言葉を最後に、部屋の中のマイマイを責めるような雰囲気は完全になくなった。

 ユーフォンがデスクの下のイスを引いて、マイマイをすわらせる。

 わたしとシユンは、ベッドの空いているスペースに腰をかけた。

 マイマイはイスにすわると、低い声で話し始める。

「エストさまがおまえらをつかまえようとしてるのは、総長がそう決めたから」

「……!」

 ひゅ……っと、一瞬だけ息の仕方がわからなくなる。

 ガツンと頭をなにかでなぐられたような衝撃が走った。

 だって、総長ってわたし達がどう生きるかを決めた人でしょ?

 なのに、なんでこんなことするの?

 マイマイはわたし達の混乱をさっしてか、ぎゅっと眉をひそめる。

 そして視線をだれもいないところに向けると、早口で言い切った。

「第一世代は失敗作だからって」

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