第21章「みんなの覚悟」

『第一世代の識別番号八番をのぞいた全員を捕獲ほかくいたしました』

 エレベーターのドアが開くと、場違いなくらい平静な機械音声が聞こえる。

 ボコボコだけどちゃんと機能しているエストさま四体と共に、アザだらけのみんながくやしそうな顔で入ってきた。

「時間切れだな。お説教ありがとうとだけ言っておこうか」

 総長はそれを見て、まんぞくそうな顔でうなずく。

 瞬間、ずっとうつむいていたユーフォンが顔を上げた。

「はぁーい、みんな目・え・と・じ・て・?」

 状況に合わない明るい声に、すぐさまノアの頭をだきこんで、目をぎゅっとつむってうつむいた直後。

 バリバリバリバリバリバリッ!!

 そんな擬音語が似合う電気の音が、ドームいっぱいにひびきわたった。

「すごーい、自分でうってもぴりぴりするねー……」

 ゆっくりと目を開けて、エレベーターの方を見る。

 プスプスとけむりを上げて転がっているエストさま四体と、しっかりと立っている七人。作戦成功だ。

 総長は唖然あぜんとしていて、その顔に少しだけ笑ってしまった。

「なにをした……!」

「子どもを文明の利器で甘やかしすぎたな」

 そう不敵な顔で笑うシユンの両手には、エストさまが持っていた白い電撃銃が三丁ずつにぎられている。

「オレらまだ中一のお子ちゃまだもんな」

「銃が一丁あったらクローンして百丁くらい作っちゃうオトシゴロだもんな」

 顔を見合わせてにやりと笑みをうかべるカオルとアンシュ。

 二人の両手には、それぞれ電撃銃が五丁ずつ、指の間にギチギチにはさまっていた。

『でも、そーちょーさんと会う時は何か武器とかあったほーが……あ』

 あの時、全員気づいちゃったんだよね。

 床の上には、壊れたエストさまと、まだ使える白い電撃銃が一丁。

 机の上には、みんなおなじみのミニクロ。

 武器、作り放題じゃん! って。

 総長はようやく自分の失敗に気づいたのか、くやしそうに顔をゆがめる。

「うごかないでね。それいじょーゆいちゃんたちに近づいたらうつよ」

「護衛用だけど、さすがに一度にこんだけ食らったら、とんでもないことになるかもね〜?」

 みんなはそれぞれ銃をかまえると、ジリジリとゆっくり近づいてきた。

 わたしは救われた気分で、ノアをささえながら立ち上がる。

 みんながわたし達と総長を囲む輪になってようやく、総長は低い声でうなった。

「最初からこれが目的だったのか。なにがしたいんだ」

「要求は二つだ。失格だの追放だのを取り消して、もう二度と僕達第一世代と第二世代に関わるな」

 一人だけ銃を持たずに総長と対峙たいじするアルタンの、もうさっすがリーダーって感じの、たのもしい声。

 最年長の彼ですら総長を見上げているくらいの体格差があるけど、どうしてかな、アルタンの方がずっと心強く見える。

 それでも、総長は余裕ぶった笑みをとりつくろって、我らがリーダーを鼻で笑う。

「第二世代も、か?」

「そうです」

 チャクリが間髪入れずにピシャリと言うと、総長はさらに笑みをゆがませた。

「正義の味方ぶるな。第二世代でお前達についていくと言ったのはノアだけだ。それ以外の声を聞かずに決断する気か?」

 その言葉に、チャクリは目を細めて口をつぐんだ。

 わたしも、ぐっとのどを鳴らす。

 くやしいけど、総長の言う通りだ。

 マイマイが説得しにいった二人の中に、もしかしたら総長と一緒にいた方がいいって思う子もいるかもしれない。

 いや、まさかそんなことはないと思うけど……。

 それでも、今、第一世代だけでここを押し切ったら、わたし達は第二世代の声を全く聞かない総長と同等ってことになる。

 ……今、全員の意見を聞けていない状況で、勝手な行動はできないんだ。

 痛いほどの沈黙が最上階をつつんだ、その瞬間。

「よーん、さーん、にーい……」

「なにをしている、識別番号七番」

 おもむろに数を数え始めたシユンに、総長はとがめるような視線を向ける。

 シユンは肩をすくめて笑うと、「いやあ」とエレベーターを指差した。

「総長サンさ、おまえがだーいすきな第二世代のことだけど、今監視役のエストさまもいないところでなにしてると思う?」

「……なんだと?」

 そのとたん、ふたたびポーンと間抜けな音がひびく。

 シユンはじわじわと口角を上げると、音のした方へとふりむいた。

「ほら、一階ついたよ、エレベーター」

 エレベーターの扉がなめらかに開き、中からすがたを現したのは──ノアと瓜二つな子ども、三人。

 第二世代の子ども達だ。

「なんで……」と、ノアが消えちゃいそうなくらいか細い声でつぶやく。

 総長は明らかにあせったような顔で第二世代の子達を凝視すると、うわずった声を上げた。

「呼んでもいないのになぜここに来た……!」

「ミロ、同級生が調だから心配できたんだけど、だめですか?」

 手前にいた子──『ミロ』は、初めて出会った時のノアと全く同じ無表情で首をかしげる。

「まあうそなんですけど。エイダ達、マイマイから全部聞きました。どっちにつくか、ここで決めなきゃいけないんだって」

 すかさず奥にいたエイダって子が前に出てくると、わたし達と総長を見くらべた。

「うん、そうか……話が早くて助かる。しかし、第一世代のお前達よ、まさか無知な第二世代に、自分達の方につくよう強要したわけじゃないだろうな」

 総長は居心地が悪そうに首元を片手で押さえながら、わたし達第一世代をじろりと見渡した。

「されてません。それに、事実ミロ達には、ノアや第一世代の人達みたいに、ついていきたい特別な人はいないです」

 第二世代の子達はこっちに向かってスタスタと歩いてくると、一番近いところにいたユーフォンとクテの手から銃をひったくる。

 腕をピンとのばしてそれを構える第二世代の子達に、総長は大きくうなずいた。

「やっぱり、そうだろう──」

「でも」

 調子に乗った子供をとがめるような、低い声。総長は口をつぐみ、眉をひそめる。

 三人はわたしとノアを見て顔をしかめると、全員そろって総長を見上げた。

「傷つけてくる人と守ってくれる人のちがいくらい、わかります」

 ぐっ、と総長が息を詰まらせたのが、たしかに聞こえた。

 傷つけてくる人って、まさかあの時総長がノアに言ったことを聞いてて……?

 そう一瞬思ったけど、ちがう。

 わたしは、腕の中のノアを見た。

 三人は、ノアの怪我と、総長の手にある銃を見て、全てを察したんだ。

 ぶわっと、怒りで焼けただれていた胸の中に暖かいものが広がる。

 第二世代が何者でもないとか、未来を作れないとか、そんなのただの総長のかんちがいだ!

 三人はカプセルのある方に向き直ると、銃をかまえ直し、

「もう、なにもうしないたくないっ!!」

 バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリッ!

 躊躇ちゅうちょなく、調整のための機械を撃った。

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