2153年9月12日(水)

第9章「午後のパジャマパーティー」

「いや……気にしてませんけど」

「そこをなんとかっ!」

「ノアは別にいいんですってば」

「自分の心に正直になって……いいんだよ……!」

「だから本気で気にしてないって言ってんですってば! いいかげんしつこい!!」

「あ、はい」

 ただいまユイ先輩、今までの行動を誠心誠意あやまるも受け取ってもらえてません。

 いや、むしろもっと怒らせたかもしれない……!

 すごくひさしぶりに聞いた気がする怒声をあげたノアは、こほんっとせきばらいをすると、

「それで、部屋には行かないんですか?」と小首をかしげる。

「あ、そのことなんだけどっ」

 わたしは首筋を指で引っかくと、顔をあげた。

「いったん、第二世代のフロアにもどってもらってもいいかな?」

「……はい?」


 いつもより少しだけ暗いアンシュの部屋に、七人のパジャマすがたの子供が輪になってすわる。

「いえーい、第136回東亜ドームパジャマパーティー、午後エディショ〜ン! 今回は、勉強にはげんでいる高校生方はぬきでお送りいたしま〜す!」

 カンカンカンカンカンカンカン!

 そうさけぶなり、ヘアブラシの持ち手ですぐ後ろにある机のをたたいて音を出すアンシュ。

 体をギュッとちぢこめて体育座りをしているマイマイとノアは、顔を上げると同時に、

「「なんですかこれ……」」

 とつぶやいた。

 うわあ、わたし達のとデザインがそう変わらない、やわらかい素材のパジャマだけど、ノア達が着ているとすっごくかわいく見える。

 ……って、そうじゃなくて。

 発案者のわたしは、首筋をかきながら笑った。

「えっとね、二人にはみんなとも交流を深めてほしいなって思って! 楽しいおしゃべりの場といえば夜のパジャマパーティーだけど、流石に夜に来てもらうことはむりだから、パジャマパーティーってことで!」

 そう、パジャマだけパーティー。

 これからおひっこししてくる二人が、どうすればみんなとなかよくなれるかなって考えて、これを思いついたんだ。

 授業が長い高校生の先輩達はむりだったけど、クテ達はつかまえられたからよし!

 そう達成感にひたっていると、ノアが首をもっとかしげる。

「言ってることぜんぜんわかんないです」

「あっれぇ……?」

 第二世代の子は、寝る前にみんなでパジャマで話したりとかしないのかな?

 そう思っていると、「全員同い年ならわかんないかもな」とカオルがフォローを入れてくれる。

「ボク達第一世代は学年がバラバラだから、日中はなかなか会えないんだよね〜。だから、全員自由な風呂上がりに集まってしゃべるのがフツーになったってわけ」

 と、アンシュが笑顔でつづけた。

「ああなるほど……」

「マイマイ達は日中会えても話なんてしないけど」

「ええっ、もったいない!」

 せっかく、みんなで同じ教室で授業を受けられて、同じ時間に放課後になるのに。

「ほらほら早く話し始めるぞ」とシユンがポテトチップスの袋をすいっと開ける。

 そう、わたし達の輪の中には、マシュマロ、チョコレート、ポテトチップスなど、思いつくかぎりのおかしがあるのだ。

 ただ食べるだけだった二日目は失敗だったけど、楽しくおしゃべりしながらなら二人もよろこんでくれるんじゃないかって、自動販売機で先輩達が厳選してくれたんだ。

 ……シユンはともかく、『五年には食品選びのセンスがカケラもない』って言われたのがちょっと不服なんだけど。

 こういうのをしきるのが得意なアンシュが「はいはい」と片手を上げる。

「やっぱこういう時は怖い話でしょ〜。だれかすずしくなる話、知ってる人ー!」

「服の自動体温調節機能で、体感温度はずっと二十六度……」

「マイちんってばつれないなぁ〜、ゾワゾワ気分が大事なんだよ!」

「話ですずしくなんかならない」

 ぷいっと顔をよこにそむけたマイマイ、ぜんぜん乗り気じゃなさそうだ。

 それでもアンシュは笑顔をくずさず、「どうかな〜?」とからかうように口角をさらに上げる。

 今まではなんとも思っていなかったけど、ここで止まらずにたたみかけられる所が、本当にさすがだ。

「マイちんはまだ小三だから知らないかもだけど、昔の人類は尻とか鼻をふくためにある紙でおベンキョーしてたんだよ……?」

「「ぞわっ……!」」

 この話を聞くのが初めてらしいマイマイとノアは、ぶるっと肩をふるわせた。

 気持ちはわかるよ。わたしも初めて聞いた時、思わずコーラをふき出して、掃除ロボットを呼ぶハメになったんだもん。

 紙って、トイレットペーパーとかティッシュとかをまとめて呼ぶための単語なのに、昔は勉強とかに使われてたなんてさ。

 びっくりしちゃうよね。

「あたしも似たよーな話、あるよ……」

 怖い話にはぴったりの声音で、クテが片手を上げる。

 全員がごくっとつばを飲んで、彼女が話し始めるのを見守った。

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