第7章「偉大なるクローン技術」

 その日の夕飯に、わたしとシユンはかわるがわるに──って言っても、シユンはしゃべると食べるを同時にこなせないから、ほとんどわたしが第二世代のことをみんなに報告した。

 反応は、みんながシェフロボットにオーダーして作ってもらった夕食と同様、人それぞれ。

「全員がクローンはさすがにやばば〜」

「マイマイみてえなのがあと三人いるってことか」

 ハンバーグを切り分けているアンシュとオムライスをスプーンですくっているカオルは、一応信じてくれているっぽいけど、反応はうすめ。

「ふふっ、くろーんかあ、あんしゅとかおるが四人になったら、おもしろそーだね……」

 カレーライスを混ぜているクテも、相変わらず。

 にっこりと笑みを向けられた二人は、ごくりとのどをならして、

「アハッ、ボクらのクローンがいたらおもしろいか、そっかぁ〜……」

「クテちゃん、オレの複製はカンベンして……」

 ってうろたえていた。

 二人とも、ちっちゃいころからクテを妹みたいに気にかけていたからか、彼女にだけは弱いんだよね。

「っていうか、それってそもそも可能? 人間のクローンをつくるとか、かーなりむずかしそうだけど……」

「たしかにね。こんな未完成のドームに、そんな技術ってあるのかな? 服とか日用品とかは、僕達もしょっちゅうクローンメーカーにお世話になってるから、分かるんだけど」

 ギョーザを一緒に食べているユーフォンとアルタンは、もう少しまじめに考えてくれているっぽい。

「あっ、言われてみれば」って、シユンがおみそしるにひたしたツナサンドとかいう、本日三品目のゲテモノを生成しながら首をかしげる。

 あいつ、熱くてドロドロしたものなら、ほんとになんでも食べるんだよね……それはともかく。

 わたしは、もくもくとビビンバを食べていたチャクリの方に目をむける。

 こういう時、チャクリは頭がいいからもう答えを頭の中で見つけているんだ。

「いえ、むしろドームだからこそ、あって当然ですよ」

「当然? どういうこと?」

 今回も、もうなんでだかが分かったみたい。チャクリは小さく笑って話を続けた。

「みんなも学んだと思いますけど、2060年くらいから、生きてる人間とくらべて食べられる動物と植物が少なすぎることが、問題になっていたんですよ」

 うん、ちょうどテストに出てきたところだ。

「あっそれ知ってる〜。その時からもう、一匹の動物から百万人分の食用の肉を作り出すクローン技術が発達してたんだよねっ」

「そうです、アンシュくん。俺達が今食べているものも、全部一人分の人口食品をロボットがクローンで複製したものですし」

 クローンで無限に作れたら、いくら食べ物が少なくても安心だよね。

 そこまで考えて、わたしはなんとなく話の続きに想像がついた。

「ここのドームには、本当は東アジアの人全員が住む予定だったから、人の複製をつくれるくらいすごいクローン技術があってもおかしくない……ってこと?」

 本来なら、とんでもない数の服やご飯を作らなきゃいけなかったわけだしね。

 チャクリはゆっくりうなずく。

「そうです。おそらく、生き残った大人の中に、クローン技術のスペシャリストがいるんでしょう」

「えー、でもさあ、そんな技術があったとして、フツーそれで人間とかコピーする〜?」

 ユーフォンが、多分みんながふしぎに思っていたことを聞く。

「そこがなぞですね」とチャクリがこまったように笑って、もう自分が話すことはないって言うように食事を再開させた。

 それを合図に、他のみんなも食べはじめたり、別の話を始めたりしている。

 ……うーん。

 クローン技術の疑問はスッキリしたけど、わたしにはもう一つ、引っかかっていることがあった。

 シユンから聞いた話だけど、マイマイも出会った時はノアみたいに敬語を使っていたらしい。

 でも、今のマイマイはノアと同じで無表情で無愛想だけど、わたし達に敬語なしで話してくるし、態度もずっとフランクだ。

 わたしは、ふやけまくったサンドイッチをそれはそれはおいしそうに食べているシユンを見やる。

 これって、シユンがマイマイをなつかせたってこと?

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