第6章「第二世代の子ども達」
立ちっぱなしはキツいからと、一番近い空き部屋に移動して、机の上に第一世代組と第二世代組で向かいあってすわる。
すごい、ノアとマイマイ、一つの机の上にならんでおさまっている。
……二人とも同じくらい細くて小さいからね!
「さっき言った通り、第二世代は全員人工的に作られたクローンです。そもそもの話、ユイさんが最後の『人の子供』なので」
左にすわっている子──しゃべり方からして、ノアが話し始める。
「いや…………うん、たしかにそうだよね……」
赤ちゃんって、ボタンを押したらポンっと出てくるわけじゃなくて、産まれるまでにすごく時間がかかるんだよね。
一学年に三人もいる高校一年生達だって、アルタンとチャクリがほぼ一歳差だし。
ちょっと考えれば、大人が十人しかいないこのドームに同い年の子供が四人もいるなんてありえないって、気づけたはずなんだけどなあ……!
わたし、ちょっと浮かれすぎちゃってたね。
そう反省しながら、ノア達の話の続きに耳をかたむける。
「マイマイ達がクローンとしてつくられたのは、第二世代の教育方針が『徹底した平等』だから。
だれかが他より背が高いとか、運動ができるとか、頭がいいとか、そういう『不公平』がないように、全く同じすがたにつくられた」
しょ、小学三年生のわりにめちゃくちゃむずかしいことを話してる……!
そう一瞬思ったんだけど、マイマイのしゃべり方は、まるでむずかしい本をふりがなを使って読み上げているみたいだった。
意味はわかんないけど、読み方はわかるから音読できるよって感じ。
「そっか、だから識別『番号』じゃなくて、識別『記号』だったんだな」と、シユンが納得した様子でうなずく。
「あっ、それわたしも気になってたんだよね。なんで数字じゃなくて、記号を使うんだろうって」
第一世代は、一番から八番っていう識別番号が年れい順に割り振られているんだけど、ノアは『ファイ』っていう数学記号を使ってた。
多分、マイマイにも別の記号があるんだと思う。
でも、ふつうは数字とかアルファベットじゃない?
「そうです。数字を使うと、どうしても優劣をつけているように感じるらしいので」
……うーん、そりゃあ、二番より一番の方がすごい感じはするし、成績だってBよりAがいいけどさ。
そこまで徹底して『平等』にするものなのかな……?
なんのために? って気になったけど、わたしだって第一世代じゃ家族を作れない理由なんかわからないから、聞かないでおく。
かわりに、べつの質問をしよう。
「あっ、でもさ。いくら産まれた時の状態がおんなじでも、たとえばノアがマイマイより国語の勉強をがんばったら、ノアの方がいい点を取ったりしない?」
「それはない」
そくざにマイマイが首を横にふる。
「毎週日曜日に、マイマイ達はドーム最上階の研究室で『調整』される。その時に他とはちがう記憶とか能力とかは消されるから、月曜日にはまた全員同じにもどってる」
「「調整!?」」
思わず、わたしとシユンの大声が重なった。
「えっ、じゃあつまり、さっきのたとえ話のままだと、ノアは国語の勉強の内容をわすれちゃうってこと!?」
「はい。もし調整前にテストを受けて他よりいい点を取ったときは、点数は書きかえられてなかったことにされます」
「えっ、せっかくがんばったのに、いやじゃねえの!?」
シユンの問いに、ノアは少し眉をよせると、わけがわからないと言いたげな様子で首をかしげる。
「その記憶ごとけされるので、がんばったこともわすれますよ……?」
「おまえらの言うことはよくわからない」
いや、マイマイ、わたし達もあなたのことが全然わからないよ……。
シユンが首をひねると、頭の片方をコンコンとたたく。必死に情報を処理しようとしているらしい。
そして首を反対側にかたむけて、うでをくんだ。
「えっ、じゃあ、第二世代は全員おん──あれ待って、おと……っじゃなくて、おん……あれ?」
「……あれっ?」
口ごもるシユンに、わたしも首をひねる。
多分、彼は『男なの?』か、『女なの?』って続けようとしたんだろうけど、続きがぜんぜん出てこない。
っていうか、そもそもわたし、ノアの性別がなんなのか知らないような……!?
「あのぅ……すっごく失礼でもうしわけないんだけど、二人とも、性別は……?」
おそるおそるたずねると、二人はまた、そろって首を横にふった。
「「ない」」
ないねえ、うん、この流れだからなんとなく察してたけど、そっかあ〜。
……だめだユイっ、流されるな!
「いやっ、え!? 『心の性別がない』はわかるんだけど、体の方もないってこと!? それ可能!?」
「マイマイ達はつくられたから、なんでも可能」
「科学の力すげー……」
へなへなとつくえの上にくずれ落ちたシユンにつられて、わたしもこのままバタッと気絶しちゃいたかったけど、むりだった。
第二世代、思ったよりとんでもないところだ……。
──結局、その後は映画鑑賞なんてする気分にはなれなくて、わたしはノアと二言三言話してからわかれた……はず。
というのも、何が起こったのか全然、記憶にないんだ……どうせ、ろくな会話はできなかっただろうけど。
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