太陽の僕と雨の君

ふぁふ

太陽の僕と雨の君

日光アレルギーというものをご存知だろうか?

その名の通り日光や紫外線しがいせんに当たると炎症を起こす病気の総称である。


なぜそんなことを聞いたかと言うと僕、海上うなかみのぼるは日光アレルギー持ちだからである。


因みに日光アレルギーというのはいくつかの病気の総称で僕のはポルフィリン症という難病に指定されているもの、らしい。


辛くないのか?と聞かれると辛くない、、、わけが無い。

曇っている日じゃないと安心して外を出歩けないし、普段着も自然と分厚くなる。何よりずっと日陰で引きこもっていると陰鬱いんうつな気分になる。やることもゲームか勉強くらいしかない。


っと愚痴ぐちになってしまったがそんなことを考えてもなってしまったものは仕方がない。


「はぁ、、、どうしてこんな目に」


が考えてしまうのも仕方がないだろう。


何せこれから高校生になるという時期にこの病気が発覚してしまったのだから。


「ああ神よ。僕は前世で何か悪いことをしてしまったのでしょうか」


なんて、神とか信仰してないけどさ。


「ふぅ〜」パシンッ


両頬を叩く。


亡くなった父さんが言っていた。


『昇、いつまでもクヨクヨしてると女の子にモテないぞ』


そうだ、こんな時こそ立ち向かうのが男ってもんだろう。


「ありがとう父さん。僕、頑張るよ」


『おう、頑張れ』


父さんの声が聞こえたような気がした。


「よしっ!明日から学校だし、飯食って風呂入って寝るか!」



◇◆◇


「今日も学校終わったぁ~」


学校が始まってから1週間が経った。この1週間はずっと雨で、通学がとても楽だった。


学校の人達はみんな優しく、僕の事情を知るととても気を使ってくれる。


「よっアサシン〜。これからゲーセン行くんだけどお前も来るか?」


彼は新しく出来た友達の桜木さくらぎ夜一よいち。あだ名はよっちゃんだ。僕とは隣の席で、よく話しかけてくれる。明るく社交的な性格の彼はもうクラスのみんなと仲良くなっているようだ。


「ごめんねよっちゃん、これから病院に行かないといけないんだ。また誘ってよ」


「そっか、アサシンも大変だな。またな!」


アサシンというのは僕のあだ名だ。

陽の光を浴びないようにするために黒いマフラーやフェイスカバーなどをいつも身につけているのでそう呼ばれるようになったのだ。


まあそのせいでこの学校ではある意味有名人になってしまったんだけど、、、


今日は午後から1週間ぶりの晴れ、、、か。


「ずっと雨が降ってくれていたら良かったのに」



◇◆◇


その日の午後、僕は病院に来ていた。


「じゃあこれ、1ヶ月分の薬出しておくから、次からは1ヶ月置きに来てね。」


「はい」


先生から処方箋を貰い、向かいの薬局へ向かう。


「こちら、お薬になります。」


「ありがとうございます。」


そうして今日の用事を全部済ませ、薬局から出た瞬間、僕と同じような分厚い格好をしている人とすれ違った。


(あの人、すごい格好だな。僕よりも分厚いんじゃないか?同じ日光アレルギーかもしれない、、、話しかけてみようかな)


「あ、あの!」


「、、、」スタスタ


聞こえなかったようだ。


「す、すみません!」


「あ、私ですか?」


「すみません、急に話しかけてしまって、あの、」


「話が長くなるようでしたら先に用をすませてもよろしいですか?」


「あっ、ご、ごめんなさい!どうぞ」


彼女は薬局へ入って行く。


(格好のせいで分からなかったけど女の人だったのか、、、きっとナンパだと思われただろうな)


彼女は10分ほどで薬局から出てきた。


「それで、話ってなんですか?」


「あ、あの、僕日光アレルギーで陽の光を直接浴びることが出来ないのでこんな格好をしているんですけど、あなたも同じような格好をしていたので、もしかしたら同じ感情を共有できる仲間が出来るかもしれないと思って話しかけて、、、キモいですよね。すみません。帰ります」


「ま、待ってください!」


「え?」


「近くの喫茶店きっさてんでお話しませんか?」



◇◆◇


僕達は病院の近くの喫茶店で対面していた。


「ここ、私のお気に入りなんです。ここのオレンジジュース、100%果汁でとっても美味しいんですよ。そうだ。自己紹介が遅れましたね!私、望月もちづき水望みなみって言います!」


「あっ、僕は海上昇です!」


にこっと彼女が笑っている、、と思う。あまり顔は見えないが。


「さて、本題に入りましょうか。、、実は私、水アレルギーっていう奇病にかかっていて、あっ、正式名称は水蕁麻疹みずじんましんって言うんですけど、、、」


「水アレルギー?って水に触れないってことですか!?」


「はい。触れませんし飲むこともできません。」


「それって相当きついですよね、、、」


日光アレルギーの自分よりも大変そうだ。


「そうなんです。服装も天気によって考えさせられますし、この1週間雨のせいで学校に行くことも出来なくて、、、」


「それじゃあ明日からは晴れが続く予報なので行けますね!」


「はい!、、、ずっと晴れればいいのになぁ。なんて言ったら、海上さんに悪いですよね。」


「そんな事ないですよ!僕だって今日ずっと雨だったら良かったのになぁ、なんて考えてましたから、、、」


「ふふっ。私たち、似たもの同士ですね」


「そうですかね?あははっ」


「そうだ!連絡先、交換しませんか?」


「えっ、いいんですか?それじゃあ是非!」


それから暫く僕たちの会話は続いた。


「では、また今度お茶しましょう。」


「はい、また今度」



今日はいい日だった。アレルギートークができる友達ができるなんて!勇気出して話しかけて良かった。今考えると完全にやばい奴だったけどな。


ピコン


スマホに着信音が鳴る。


『今日は沢山お話が出来て良かったです!またお話しましょうね!海上くん!』


望月さんと話をしているうちに僕は海上から海上に昇格した。


ひとまず待たせないうちに『喜んで!』と返しておく。


なんか、可愛い人だったな。急に話しかけたのに嫌そうな声色はしなかったし。顔は見えなかったけどね。


「また会いたいなぁ」


◇◆◇


望月と出会った次の日、今日も学校だ。


「今日からずっと晴れかぁ。望月さんが同じクラスだったら毎日喜んで学校に行くのに」


そんなことを呟きながら学校へ向かう。


「アサシンおはよー!」


「おはよう、よっちゃん。今日は一段と元気そうだね」


「お?分かるか?特別にアサシンには教えてやろう」


恐らくアイスの棒が当たったとかそんなもんだろう。


「実はな?」


よっちゃんが耳元に近づいてくる。


「今日転校生が来るらしいんだ」


「そうなんだ」


「そうなんだ、、ってもっと何かあるだろ?まだ学校始まって1週間なのに!?とかさ」


「まだ学校始まって1週間なのに!?」


「おい」


(どうせ来るなら望月さんが来れば飛ぶほど喜ぶのにな)


「みんな!席につけ!」


「お、先生きたから戻るわ」


先生の声でみんな各自の席に戻る。


「今日は転校生、、では無いが家庭の事情で入学が遅れてしまった子が来るぞ。入れ!!」


(今望月って言った!?)


教室に入ってきた彼女は顔を隠していなかった。


(いや、もしかしたら別人かもしれないな)


「望月水望です!病気持ちで休みする日が多くなると思いますが、よろしくお願いします!」


(これ、本人だ)


僕はそう確信した。声が一緒だし、何より僕を見た瞬間に目がキラキラし始めた。


「「「「うおおおおおぉ!」」」」


男子たちの雄叫びが教室に響く。


「男ども!黙れ!それじゃあ望月の席は海上の後ろだ!」


ガタッ


「どうした?海上、体調でも悪いか?」


「だ、ダイジョウブデス」


「よろしくお願いしますね!海上くん!」


(僕の人生もここまでか)



◇◆◇


午前の授業が終わり、昼休み。


「海上くん。一緒にご飯を食べませんか?」


「ウン。イイヨ。」


僕は早々に周りの目を気にすることを諦めた。


(どうせそのうちバレるだろうしな)


周りの男子たちは


「望月さんとご飯を食べられるなんてッッ」

「くそぉ!アサシン!前世でどんな徳を積んだんだ!」

「羨ましいぞ海上ぃ!」


などと僕に罵声を浴びせてくるが直接望月さんに話しかける度胸を持ったおとこはいなかったらしい。


因みに「前世でどんな徳を積んだんだ!」と言った子は僕の病気のことを気遣ったのか後から「さっきはすまん。」と謝ってきた。本当に優しいクラスメイトである。


「望月さん!俺も一緒に食べていいか?」


よっちゃん以外は。


「いいですよ。ええと、、、」


「俺は桜木さくらぎ夜一よいちだ!水上こいつとは心の友と書いて心友だ!よろしくな!望月さん!」


僕はいつお前の心友になったんだと思うが、悪い気はしないので黙っておく。


「よろしくお願いします。桜木さん。ええと、水上くんもそれでよろしいですか?」


「うん。問題ないよ」


「それじゃあ机くっつけるか」


そうして席を立ち、机を動かそうとした瞬間


「きゃっ」


望月さんが誰かとぶつかり、相手が倒れてしまった。


(?変な倒れ方だな)


僕は少し違和感を感じながらも、気のせいだと思うことにした。


「すみません。ぶつかってしまって、、、お怪我はありませんか?」


そう言いながら望月さんは手袋を填めた手を差し出す。


「だ、大丈夫だよ。そ、それじゃあ僕は急ぐからっ!ふへっ」


望月さんとぶつかった小太りした男は差し出された手を取らず1人で立ち上がり、少しにやけたような顔をしながら立ち去って行った。


「あのお方は、、、」


「あいつは早乙女さおとめ襲夜しゅうや。1人でいるのが好きなのか知らんけど、俺もあんま話したことないんだよな」


よっちゃんでもあまり話さないとは余程孤独が好きなのだろう。


「大丈夫だって言ってたし、心配いらないと思うよ。そういう望月さんこそ大丈夫かな?」


「はい。私は大丈夫です!」


「じゃあ飯食うか!」



◆◇◆


早乙女視点


僕は、望月さんと触れ合ったのが恥ずかしくなり、用もないのに咄嗟とっさにトイレに来てしまった。


「ふへへ。望月さん、僕なんかのこと心配してくれた、、、ふへっ、、、あの目は絶対僕に気があったぞ、、ふへへへへ」



◇◆◇


望月さんが学校に来るようになってから何事もなく1ヶ月が過ぎた。雨の日はさすがに来ないが、それ以外の日は毎日来ている。


「海上くん、少しよろしいですか?ここでは話しづらい事なのですが、、、」


(話しづらいことってなんだろう、、、まさか告白か!?)


「うっ、うん。いいよ」


少し上擦った声が出て恥ずかしく思いながら、僕は望月さんの後に着いて行った。



◇◆◇


僕達は、普段誰も使わない教室に来ていた。


「それで、話の内容なんですが、、、担当直入に言うと私、、ストーカーされているみたいなんです、、、」


「、、、え?」


望月さんの話を聞いて、先程まで考えていたことは全て吹っ飛んだ。


「ストーカーって、、、誰に?」


「それが、分からないんです。ストーカーされているって分かってから、すごく怖くて、、、」


何時いつからか、分かる?」


「私が気づいたのは、3日前です、、」


馬鹿か僕は。この1ヶ月、ほとんど一緒にいて浮かれて気づかなかっただなんて、、、


「じゃあ早く警察に「だめです!」、、、え?」


「警察には、言わないでください、、、すみません。おかしいですよね、警察に頼らずにお前がやれ。って言ってるようなものですもん。でも、頼れるのがあなたしかいないんです、、、」


(そんなこと言われたら断れないじゃないかっ、、、でも)


「よっちゃんとかはだめなの?」


「、、言っては悪いんですけど、お口が軽そうだなと思いまして、、、」


「、、、」


言われてるぞ、よっちゃん。


「ああ見えても彼は口が堅いからね、大丈夫だよ。よっちゃんにも協力してもらっても、いいかな?」


「、、、!ということは!」


「うん。僕が協力するよ。よっちゃんが手伝ってくれなくても、ね」


「ありがとうございます!」


感極まったのか、望月さんが僕に抱きついてきた。


「も、もももも、望月さん!?」


「あっ!すみません、、、」


2人とも顔を赤くしながら顔を逸らす。


「あの、望月さん。離れていただけると、、」


「嫌、でしたか?」


「ぜ、全然嫌じゃないけどっ」


「じゃあもう少しくっついていてもいいですか?こうしているとなんだか落ち着きます」


笑顔でそう言う彼女の体は、僅かに震えていた。


そうだ、彼女は本当は泣きたいんだ。でもアレルギーのせいで、つらいのを我慢しなくちゃいけない。ならば僕が彼女が何時でも本心から笑えるように彼女の代わりに不安を取り払って見せよう。そう決心すると彼女のことを優しく抱きしめた。


「ふぇ?、、、あ、あの、ちょっと苦しいです」


少し抱きしめる力が強かったらしい。


「ご、ごめん、、、」


「ふふっ。では帰りに喫茶店のパフェでも奢ってもらいましょうか」


「わ、わかりました、、、」


彼女は僕が思っているよりもしたたかなのかもしれない、、、



◆◇◆


ふへっ、、今日も水望は可愛いなぁ。相変わらず恥ずかしがって僕には話しかけて来ないみたいだけど、そんな所も彼女の魅力の1つだな、ふへへっ。


僕には、1つだけ許せないことがある。


(海上昇ぅッ!いつも僕の水望に色目使いやがって!)


今日も日課の水望ウォッチングをしていると、海上と水望が二人きりで教室を出て行った。


それを当然の様に僕は2人の跡をつけた。


(可哀想に、海上に脅されているんだね。僕が救ってあげるから。もう少しだけ我慢してね。水望。ふへっ)



◆◇◆


学校が終わり、僕は自分の部屋にいた。


「くそっ!海上ィ!ぶっ殺してやるぅ!」


僕は激怒していた。


2人の跡をつけた後、2人が抱きしめ合っているところを見てしまったのだ。何を話しているのかは分からなかったが、抱きしめ合っていたのは事実。


「そうだ、水望は脅されているだけだ、ふへっ、海上を片付ければ水望と抱きしめ合うのは、、、ふへへへへへっ」


僕は自分が水望と抱きしめ合っている所や、その先まで想像する。


「ふへっ、か、考えなくちゃ、、海上をぶっ潰す方法を、、、」



◇◆◇


望月さんがストーカー被害を打ち明けた後、僕達はよっちゃんに事情を説明し、一緒に打開策を考えていた。、、のだが、、、


「なんも思いつかねぇ」


「やはり私が囮になるしか、、!!」


「それはだめだ!他になにか方法があるはずだ!」


ずっとこんな調子で気がつけば1週間が経っていた。


しかし望月さんを囮になんてできるわけが、、、おとり、、囮?


「、、、!そうだ!僕が囮になればいいんだ!」


「は?」


「え?」


突然のことに望月さんとよっちゃんが困惑の音を上げる。


「アサシンが囮ってどういうことだ?相手は望月さんのストーカーだろ?」


「そう。つまり、相手はストーカーしてしまうくらい望月さんの事が好きだということになる。好きな子が自分以外の男とイチャイチャしてたらどう思う?」


「そりゃあイラつくな。それとお前が囮になる事に何か関係あるのか?」


「うん。簡潔に言うと、僕と望月さんがイチャイチャしている所をストーカーにこれでもかと言うほど見せつけて嫉妬心を焚きつける。そしてその後僕が1人になればきっとストーカーは僕の元に姿を現すと思うんだ」


「海上くんとイチャイチャ、、、って、だめですっ!海上くんを囮にするだなんて考えられません。しかも犯人と2人きりだなんて、、、!やっぱり私が囮に!」


「望月さんは女の子で男の僕よりも力が弱いし、何より水アレルギーだ。正直日光アレルギーの僕よりも危険なものだと思う。だから何が起こるかわからない中1人望月さんを送るなんてできない。」


「でも、危険です!海上くんに何かあったら私、、、」


「大丈夫。負けるつもりは無いしよっちゃんもいるからね」


「おいおい、俺も巻き込む前提かよ。まぁ協力するって言った以上やるけどな」


「、、、分かりました。でも、絶対に怪我はしないでくださいね?」


「もちろん」


こうして僕のイチャイチャ囮作戦は始まった。



◇◆◇


「まず、僕と望月さんは名前で呼び合おう」


「ふぇ?名前で、、、の、昇くん?」


「う゛ッ」


顔を真っ赤に染めながら僕の名前を呼ぶ望月さんが尊い。


「み、水望」


「ひゃ、ひゃいっ」


恐らく僕の顔も鏡を見れば真っ赤に染っているだろう。


「俺は何を見せられているんだ」


その光景はさながら付き合いたてのカップルのようだったと後に彼は語った。



◆◇◆


最近以前にも増して海上と水望の距離が近い気がする。


(水望ぃ!君は僕のモノだろぉ!、、、ふへっ、や、やっぱり海上は潰さないと。計画を早めよう、、、ふへへへ)



◇◆◇


僕達は作戦決行から3日間、ところ構わずイチャイチャしまくった。教室でも外でもどこでも、だ。


因みにクラスの男子達は血の涙を流し、歯を食いしばりながら


「お幸せになぁ」

「幸せにしろよぉ」

「泣かせたら許さねぇからなぁ」


と祝ってくれた。作戦が終わったらこいつらには何か奢ろうと思う。


「昇くん。今日も一緒に帰りませんか?」


「うん。いいよ」


『今日も』というのは、実はストーカー被害に遭っていると相談された日から僕達は一緒に帰るようにしていたのだ。


僕達は帰路についても作戦を続ける。どこでストーカーがみているか分からないからだ。決して僕が望月さんとイチャイチャしたいからでは無い。決して。


「えへへ、作戦とはいえ、海上くんとイチャイチャできて嬉しいです」


彼女がものすごいことを言っているような気がしたが、僕はストーカーが周りにいないか気を使いすぎてあまり聞こえていなかった。


「それじゃあ、今日もありがとうございました!また明日!」


「うん。またね」


僕は望月さんを家まで送った後、自分の帰路につく。


(それにしても、ストーカーはいつ出てくるんだろう)


そう思った瞬間の事だった。


「海上昇!」


「えっと、君は、、、同じクラスの早乙女くんだよね。なんの用かな」


なんの用か、と聞いたが十中八九こいつがストーカー犯だろう。僕は警戒心をマックスにした。


「最近僕の水望と距離が近すぎるんだよ!離れろ!」


「僕の、、って別に君の彼女でもなんでもないだろう?」


こいつは何を言っているんだろうか。


「うるさい!僕と水望は心で繋がっているんだ!彼女が人前で恥ずかしがって僕に話かけられないことくらい分かってる!だからお前がいると邪魔なんだよ!」


話を聞いていて僕は思った。聞くだけ無駄だな、と。こいつは自分が望月さんに話しかけられないことを正当化しようと他人を悪者に仕上げているだけだ。


「邪魔者は死ねぇ!海上ぃいい」


急に早乙女が突進してきた。


しかし彼の体型はお世辞にも良いとは言えないものだった。そのため、走るスピードも遅かった。


僕はひらりと相手の攻撃を避けると、距離を取った。


「ふへっ、今日はいい天気だなぁ?海上ぃ」


「?そうだな、、うぉっと」


返事をしている間にまた早乙女が突進してきた。こいつは何がしたいのだろうか?まさかこれで僕に攻撃が当たるとは思っていないだろう。何か他に作戦があるに違いない。


思考を張り巡らしながら僕は早乙女の攻撃を避け続けた。



◆◇◆


僕は焦っていた。


(どうして当たらないんだ?)


僕は何度も何度も海上に攻撃を続けた。


「ぜぇ、ぜぇ、、、」


おかしい。海上を捕まえられない。僕は足が早いはずだ。僕は50mを10秒で走れるんだぞ。こいつは僕よりも足が早いというのか。



◆◇◆


早乙女襲夜はとにかく甘やかされて育った。たとえ足が遅くとも、親からは世界一早いと褒めちぎられた。太っていてもそれくらいがちょうどいいと言われた。そのため、自分が1番だと思っていたし、普通の人間と関わる必要はないと思っていたから他の人間の記録なんて知らなかった。また、何週間もかけた計画もそんな自分のスペック任せのお粗末なものだった。


◇◆◇


(こいつ、もしかして本当にこのスピードで僕に攻撃が当たると思っていたんじゃないか?)


早乙女の突進を避け続けて約15分、僕はそう思い始めた。


「ぜぇ、ぜぇ、海上ぃ。お前は水望に相応しくない、はぁ、はぁ、水望に相応しいのは僕だぁ、水望は僕のモノなんだあああぁ」


プツン、と僕の中で何かが切れた音がした。


「ふざけんな!望月さんはモノなんかじゃない!生きている人間なんだ!自分のモノだとか相応しいとかそんな勝手な理由で迷惑かけていいものじゃない!」


思わず早乙女に掴みかかってしまった。


それが良くなかった。


「ふへっ、ようやく捕まえたぞ」


しまった。油断した。やはり何か考えていたのか。


咄嗟に手を離そうとしたが早乙女が僕の腕をがっしりと掴んで話さない。


(やばい!こいつ、足は遅いのに力が強い!逃げられない!)


早乙女は僕を地面に倒して馬乗りになった。


「良くも僕の突進を避け続けてくれたなぁ。これは仕返しだ。」


早乙女が何度も僕の顔を叩く。


「そしてこれは水望に近づいた分だ」


早乙女が僕の身につけている日光対策の防具を外そうとする。


「お巡りさん!こっちです!」


誰かがお巡りさんを呼んでくれたらしい。


「ちっ!今日はこれくらいで許してやる!次水望に近づいたらぶっ殺すからな!」


早乙女が逃げていく。


「アサシン!大丈夫か!」


声の主はよっちゃんだった。


「うん。僕は大丈夫、、、ッ」


「すまねぇ、もっと早く止めるべきだったのに」


「いいんだ、よっちゃんには大事な役目を任せていたじゃないか、、そうだ、ちゃんと撮れたかな?」


「だけどよ、、おう、バッチリ撮れたぜ。早乙女がお前たちのことをストーカーしている所からな」


あまり大事にはしたくないという事だったので、この動画は後日に早乙女に見せて望月さんに手を出せないようにするつもりだ。


「なら、良かった、、、」


安心して僕は気を失った。



◇◆◇


「ここは、どこだろう?」


目を覚ますと、目の前には白い天井が広がっていた。


「起きたか!アサシン!」


「よっちゃん?」


「落ち着いて聞いてくれ。望月さんが学校に来られなくなるかもしれない」


「え、、?なんで?、、、まさか早乙女が!?」


「違うんだ。実はな?あの後、、、」


話を要約すると、僕が気を失った後に家から出てきた望月さんがボロボロな僕の姿を見て泣き出してしまったらしい。そしてアレルギーで発疹が出てしまい、救急車を呼ぶことに。何故こんなことになったのか知った望月さんの両親が娘を学校に行かせるのは危険だと判断し、今に至る。


ちなみに、僕は一日眠っていて、その間に早乙女のこともバレて、直ぐに自主退学させると彼の両親から学校へ連絡があったそうだ。


「そっか、、だからあんなに頑なに大人に頼ることを拒否していたのか、、、」


こればっかりはどうしようも無い、、、でも。


「望月さんって今どこにいるの?」


「確か、隣の病室、、、っておい!どこ行くんだよ!お前もボロボロのはずだろ!」


僕は一心不乱に隣の病室へ駆けだした。


「望月さん!」


勢いよく扉を開ける。


そこには男の人が1人、女の人が1人ベッドのそばに立っていた。望月さんの両親だろう。


「君は誰だい?」


望月さんのお父さんが僕に質問する。


「ぼ、僕は、望月さんの友達の海上昇と言います!」


「そうか、君が、、、」


「この子は最近すっごく楽しそうなの。いつもあなたのことばかりお家で話しているし、よっぽどあなたのことが好きなのね」


「えっ、そうなんですか!?」


望月さんのお母さんがそう話す。望月家で僕の話をされているとは、、、少しむず痒い。


「この度は娘の無茶ぶりに応えてくれてありがとう。君のような友人が娘にできて嬉しいよ」


「あ、あの、、、怒ってたりは?」


「もちろん怒っているさ。娘にね。恐らく、たくさんの人に迷惑をかけたくないからと言って君だけに無茶ぶりを押し付けたんだろう。それは許されることじゃない。こんな娘で良ければ退学したあとも仲良くしてあげてくれないかな」


「もちろんです!それに、迷惑だなんて思ってません!」


その時、望月さんが目を覚ました。


「むにゃ、、、あれ、ここは?」


「あなた、水望が起きましたよ!」


「水望、調子はどうだい?」


「はい、お父様。元気ですよ、、、あれ?昇くん?」


「望月さん!よかった、、、」


「昇くん、、、無事で良かったああぁ」


「な、泣かないで!望月さん!泣かないで!」


「うぅ、すみません」


望月さんを泣く寸前で止める。


「それじゃあ私達は仕事があるから後は若い子たちでごゆっくり」


そう言って望月さんの両親は病室を出ていった。


「昇くん、この度は本当に、ご迷惑をおかけしました」


「いいんだ、これくらい。迷惑だなんて思ってないよ。それに、死んじゃった父さんが言ってたんだ。女の子には優しくしろってね」


「ふふっ、昇くんは私にとって太陽みたいな人ですね!さっきも私の涙を止めてくれました」


「そうかな?僕にとっても望月さんは笑顔が眩しくて太陽みたいだなって思うよ」


「そうですか?やっぱり私たち、似たもの同士ですね!、、、ところで、もう水望、って読んでくれないんですか?」


望月さんが上目遣いで訪ねてくる。


「作戦も終わったし、ずっと呼び捨ては嫌かなって思ったんだけど、いいの?」


「はい!昇くんだけ特別です!」


ああ、やっぱり水望の笑顔は眩しい。この子が僕の太陽であり続けられるように、僕はずっとこの子の太陽でありたいと思う。

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