第33話 色欲の花園

「ししょー? なに黄昏たそがれているんです?」


 空に広がる青空を見上げていたらそんなことを言われてしまった。


 サーヤは呆れたように首を傾げている。

 ヤマトはだるそうにこちらに歩み寄ってきた。


「で? この千切れた頭やら足やら、どうすんだぁ?」

 

「それは持って行ってくれないか?」

 

「そうなるか。しょうがねぇなぁ」


 ヤマトは残った部分のドラゴンの素材を結界で囲みだした。


「結界使ってなにするんです?」

 

「まぁ、みてればわかるさ」


 サーヤはさらに首を傾げて眉間に皺を寄せている。

 俺はヤマトの魔法の特色を知っているから伝えたのだ。


 ヤマトは囲んだ結界を縮め始めた。

 これをアイツは圧縮と呼んでいた。

 ヤマトの発動した結界の中は別の空間になるらしい。


 だからこちらの世界の結界を縮めたとしても中身はそのままらしい。

 こうして結界を縮めて麻袋へと放り込んでいるのだ。


「わぁー。あんなことできるんだ。結界って……」

 

「あれは完全にヤマトだからだと思うけどな」

 

「そうなんですか?」

 

「アイツは色々と特殊なんだ」

 

「ふーん」


 なっとくしたようなしないような返事をしたサーヤは魔力回復薬を口に含んだ。

 結構魔力を消費したらしい。

 上級魔法だったから兵士具ナイトールがあってもきつかったのだろう。


「回収したぜぇ? 行くんだろう? 花園によぉ」

 

「あぁ。ヤマトは分かっていると思うが、惑わされるな?」

 

「わぁってらぁ」


 ヤマトは心配ないとして、サーヤが問題か。

 

「サーヤ、とにかく気をたしかにもて。惑わされるなよ?」

 

「なんだかわからないですけど、わかりました!」


 大丈夫かと心配をしつつも進むことにした。

 行ってみないことには心配していても仕方がないからだ。


 両側に壁のある道を通り、奥までたどり着く。

 そこには色とりどりの花が咲いていた。

 ここを直進しなければいけない。


「進むぞ」


 俺は意を決してその花園へと歩みを進めた。

 それに続いてサーヤとヤマトもついてくる。


 揺れる花からは甘い良い香りがする。

 なんだか頭がボーッとしてきた。

 もやがかかった目の前には下着姿のサーヤがいる。


「ししょー」


 虚ろなその目を見て俺は気を取り戻した。


「服を着ろ!」


 そのサーヤめがけてファイヤーボールを放つ。

 凄まじい勢いで燃え上がったのは。


『ギィィィヤァァァァ』


 人型の大きな花だった。

 後ろを向くと大きな花の前でサーヤがだらしない顔をして服を脱ごうとしている。

 何やってんだか。


「燃えろ」


 魔法を放ちその花を燃やす。

 すると正気に戻ったのかハッとした顔でこちらを向いた。

 俺の目に気が付いたのだろう。


 この呆れた目に。


「べ、別に脱ごうとなんてしてませんよ!?」

 

「ほう。気をしっかり持てと言ったが無理だったか」

 

「そ、そんなことありませんよ! ほらっ! なんにもしてません!」


 その後ろではヤマトがケラケラと笑っている。

 アイツは魅了してくるやつを嬉々として殴っているのだから。

 

 何がそんなに嬉しいのかわからないが。

 

「この誘惑してくる奴らは全員が敵だと思え」

 

「は、はい!」


 それから俺は燃やしていたが、サーヤは目をつぶってアクアカッターを放っていた。


 危なく俺も切断されるところだったから注意したが効果はなかった。

 後から話を聞いたら出てきた人に魔法を撃つのは嫌で目を瞑っていたんだとか。


 しばらく進んでいると黄色いモヤが出てきた。

 これだと周りが見えない。

 どれが本物か分からなくなる。


「これは聞いてねぇぞ! この花粉やべぇ!」


 ヤマトが焦っている。

 この粉、なんだか興奮してくる気がする。

 

 聞いたことがある。

 匂いを嗅ぐと好意を持ってくれるという薬があるという話を。それの成分か?


 体が火照ってくる。


「ししょー」


 この状態でサーヤに声をかけられるのはまずい。下着姿が脳裏に移り、火照りを加速させる。


 黄色いモヤから現れたのは服の乱れたサーヤ。首元があらわになり。張りのある双丘が俺の思考を乱れさせる。


 このままじゃまずい。

 これは幻覚か?

 さっきのも幻聴か?


「ししょー? どうしたんですかぁ? ほらぁ。こっちにきて?」

 

「くっ!」


 どうしようもない気持ちの高ぶりを抑えられない。心臓の動きが早い。血を全身に送っている。このままだとマズイ。


「ぐっ!」

 

 周囲に鮮血が舞う。

 解体用ナイフを太ももに刺した。

 目の前に現れたのは大きな花の魔物。


「くそっ! 幻覚にやられるとは!」

 

 腕輪へと魔力を流し、静かに腕を引き絞る。赤黒の大量の煙は腕全体を覆い尽くしていく。


乱鬼らんき


 直撃の一瞬、拳を解放し全部の指を開いた状態。放たれた一撃は威力が乱れ打ちのように放たれていく。


 巨大な花の魔物はボロボロになった花を散らせた。


 横ではサーヤが顔を真っ赤にしながら必死に耐えていた。


「サーヤ、よくぞ耐えた! 乱鬼!」


 サーヤの目の前にいた花の魔物もボロボロとなり、崩れ去った。


「はぁぁぁ。ししょー。ワタシ、がんぱりましたぁ……」

 

「そうだな。よく頑張った」


 頭をポンポンと撫でると目をトロンとさせて抱きついてきた。

 腹の辺りに当たる柔らかい感触に戸惑い。


 ──パシンッ


「えぇ? 痛い!」

 

「正気へ戻れ。花粉にまだやられているようだ」

 

「そうですね……」


 ヤマトはというと、背中に背負っていた盾を叩きつけて魔物をペシャンコにしていた。


「こりゃあ、まずかったなぁ? ガイル、大丈夫か?」

 

「あぁ。回復薬が一つ無駄になった……なっ!」


 ナイフを太ももから抜くと回復薬をかけて治した。

 痛みはひいた。

 目の前には洞窟がある。


「さぁ。進むぞ」

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