第34話 洞窟に住まうもの
「さぁ。進むぞ」
洞窟の中はヒンヤリとしていて空気は澄みきっている。
先ほどの花園とは大違いだ。
俺が先頭。後ろにサーヤが続き、
「ししょー? この先何があるか知っているんですか?」
「来たことはないから正確にはわからん。ただ、一つの種族が住んでいると言われている」
「へぇ。攻撃されないといいですね?」
それが問題なのだ。この先に住む種族は好戦的だと言われている。
戦ってもいいのだが、多種族と敵対するのは避けたい。
この世界には多種多様な種族があり、魔物とは違う。意思を持っているために意思の疎通ができる。
どういうことかというと、一応話し合いができるということだ。あっちが話を聞いてくれればだが。
「りぃぃぃぃ! 侵入者だりぃ!」
奥からやってきたのは鱗に覆われた二足歩行の半魚人と似た種族。
「やはり、ここはリザードマンの住処だったか」
「お前たち何者だりぃ! 動くなりぃ!」
喉元に槍を突きつけられて手を挙げる。
抵抗しない意思を伝えなければ戦いになる。
「襲いに来たわけではない。人を探していてな。二、三年ほど前にここを通ったと思うんだが」
「……だからって侵入してきていいと思ってるりぃ? 大人しくついてこいりぃ」
後からやってきたリザードマンも加わり四人程に槍を突きつけられた状態になっている。
軽く突かれて大人しく歩いていく。
三人とも手を挙げて先頭のリザードマンに従う。
しばらく狭い通路を進んでいくと滴の落ちる音が聞こえてくる。更にヒンヤリとしてきた。
後ろの二人も大人しくついてくる。
開けたところに出た。
そこにはリザートマンが何人もいてこちらを警戒しているようだ。
「お前たち、ここへ何しにきたりぃ?」
一回り大きなリザードマンが腹に響く声で語りかけてきた。
「人を探しているんだ。ここを二、三年前に通ったと思うんだが」
「どんなやつだりぃ?」
「マナという肩まであるピンクの髪。彫の深い整っている顔。背はこの子と同じくらいなんだが」
少しリザードマンの中で話し合っているようだ。
顔をしかめている者もいる。
なにかまたマナたちはやらかしたのだろうか。
胸がざわつくのを抑え込みながら待つこと数分。
一回り大きなリザードマンが近づいてきた。
手を払うと周りのリザードマンは槍を引いた。
「話ができると思っていいのかな?」
「あぁ。マナ殿の関係者となると戦うことになるとこちらが痛い目にあうだろうりぃ」
その口ぶりだと、マナがやらかしている可能性が高いな。
一体何をやらかしたんだか。
「マナ殿が来たときは厳しい対応になってしまったんだりぃ。そうしたら、マナ殿のパーティが暴れ出してなりぃ。我々に被害が出てしまったんだりぃ」
眉間に皺をよせ、口を歪めた。
「我らが選択を間違えたのだりぃ。強者に争ってしまったのがいけなかったりぃ。我らは謝罪をしてなんとか怒りを納めてもらったのだりぃ」
「すまない。マナは俺の娘だ。犠牲を出してしまい申し訳ない」
俺は深く頭を下げた。
娘のしたことは、許されることではないだろう。
「やめてくだされりぃ。我らは強者が正しいのだりぃ。そういう世界なんだりぃ」
種族の風潮がそういうことなら、マナが強ければ正しいということになったのだろう。
それはなんだか申し訳ない気もするが。
このリザードマンの群れの中でも恐らくこのリザードマンは長のような立場なのだろう。
一番強いから長として君臨しているのかもしれない。
「いやいや。我々人の世界では強ければいいというわけではないのだ。そこを考えられない娘は未熟だと思う。反省しなければいけないのだ」
「そうなのかりぃ? 人間の世界も難しいのだなりぃ」
「そうなのだ。申し訳ないが、ここを通してもらってもいいか?」
少し困ったように爪でポリポリと首をかいている。
仕方がないような雰囲気でおずおずを顔を近づけてくる。
「すまんがりぃ。手合せしてくれないかりぃ? 若いのが血気盛んで強くない奴は通さないとか言ってるんだりぃ」
そういうことであれば、俺も受け入れよう。
手合せということであれば、死合ではないのだしいいだろう。
「いいぞ。そのかわり、その血気盛んな若いのを出してくれよ? 自分で言ったんだ。責任はとるんだな」
「もちろんそのつもりだりぃ。たのむりぃ」
一度引っ込むと先ほどのリザードマンと背丈はあまり変わらないが、細身の者がでてきた。
自信満々で肩を怒らせている。
若いのは元気があっていいな。
俺にもそんな時代があった。
こういう時によく効く薬を知っている。
「おぉ。強そうだ。こい!」
「ふんっ! じじぃが覚悟するりぃ!」
いきなり槍をついてきた。首を振ることでかわし、殴りかかる。
バックステップでかわすと槍を横薙ぎに払ってきた。
ちゃんと槍のリーチを理解しているようだ。戦いを理解しているようで感心するよ。
しゃがんで避けると足を払う。
握りこめた拳を浮いているリザードマンの腹へと添える。
そして、地面へと叩きつけた。
落雷が落ちたような轟音を轟かせ、その若いリザードマンはクレーターの中でのびていた。
最後まで振り切らなかった為、そこまでの怪我にはなっていないと思う。
「さすがですりぃ。やはり、あなたは強いりぃ。私の感覚は間違っていなかったりぃ。コイツもいい経験になったりぃ。感謝ですりぃ」
「いやいや。こういう若いうちは、敗北を味わうのが一番だ」
その後、若いリザードマンは話をよく聞くようになったそうだ。
敗北が良い薬になったようでよかった。
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