第32話 行く手を阻むもの

 その後はローラと晩ごはんを食べ、帰路について泥のように眠ったのだ。

 その次も休息日だったのだが、ほぼ部屋から出ず寝ていたのだった。


「ししょー、ヤマトさんもそんなに眠かったんですかぁ? ワタシ昨日暇だったんですよぉ!?」

 

「あぁ。ちょっと疲れがたまっていたみたいだな」

 

「同じーく!」


 サーヤが疑問に思うのも仕方がない。

 しかし、原因であるサーヤは何も知らないから言うこともできない。

 疲れたということにしていればいいのだ。


「むー。まぁいいですけど。疲れはとれましたし! 今日は色欲の花園に向かうんですよね?」

 

「あぁ。そうだ」


 街の外へと向かっているとローラが送りに来てくれていた。


「サーヤ、また会いたいですわ」

 

「うん! また会いに来るね!」


 二人は抱き合って別れを惜しんでいた。

 ローラは目に涙を溜めている。

 次に会えるのはいつになるかわからない。


 それに、探索者は生きて帰ることができるかはわからない。これが最後になる可能性だってある。ローラがそこまで考えているかはわからないが。


「おじ様達も、また無事にお会いしたいですわ」

 

「そうだな。娘が見つかったら一緒によることにするよ」


 もしかしたらサーヤより、ローラの方が探索者のことを理解しているのかもしれない。


 俺とヤマトは遠くなるローラにずっと手を振っていた。


「ローラさんとまた会えると良いな」

 

「まずは、俺達は生き残ることだ」

 

「はい! そうですね!」


 街を背に俺達は色欲の花園へと向かって行った。花園までは街道をいく。

 しばらく歩いていると戻ってくる探索者がいる。

 一体どうしたというのだろうか。


「おぉ。あんたらも花園見学か?」

 装備が探索者風の三人の男。


「あぁ。そんなもんだ。きれいだったか?」

 

「いやぁ。それがなぁ……」


 三人は顔を見やって眉間に皺を寄せている。


「街道をドラゴンが塞いでんだよ。ずっと寝てるんだけどな」

 

「ドラゴン? 種族は?」

 

「ありゃあスティールドラゴンだな」


 その探索者は諦めたように手をバンザイしてそう呟いた。

 それは特級以外の探索者は諦めざるを得ないだろう。

 体が鋼鉄に覆われた強敵だ。


「情報感謝する」

 そう口にして俺は先へ進んだ。


「おい! 引き返さないのか!?」

 

「あぁ。ドラゴンっていうのも見てみたいからな」


 男は目を丸くしている。

 そんなやつがいるのは不思議なんだろう。


「そうか。あんた変わってるな。気をつけてな!」

 

「ありがとうよ」


 背を向けながら手を振る。

 ヤマトとサーヤは後ろから小走りでついてきた。


「俺様はくえねぇからな?」

 

「わかってる。俺がやる」


 サーヤは眉をハの字にして心配そうだ。


「強いんですか? 大丈夫ですか?」

 

「大丈夫だ。体は鋼鉄に覆われているが、それは外側だけだ。腹は柔らかい」

 

「へぇー。私もお手伝いします!」

 

「そうだな。頼む」

 

「はい!」


 今回はサーヤに手伝ってもらうこともありそうだ。

 俺が「頼む」というと目を輝かせていた。

 戦う時に手伝えるのが嬉しいようだ。


 三人で街道を歩いていると断崖絶壁の壁が見えてきた。

 その真ん中には切れ目があり花園へとつながる道になっているのだ。

 道の真ん中には巨大なドラゴンが寝転んでいる。


「ありゃあ。たしかにスティールドラゴンだ」

 

「うわぁ。おっきいですねぇ!」


 サーヤは大きさに圧倒されている。いままで見た個体より大きいかもしれないな。


「硬さを試してみるか」

 

「何する気ですか!?」

 

「ここにいろ」


 サーヤとヤマトを置き去りにしてドラゴンへと駆ける。

 魔力を腕輪へと流し込み赤黒の煙を宙に滞空させ。

 その煙を渾身の力で打ち付けた。


空鬼くうき


 打ち出されたその塊はレーザーのように突き進んでいき。ドラゴンの体へと衝突した。

 轟音が響き渡り。

 

 衝撃で吹き飛ばされた俺は近くに着地して様子を見る。

 ドラゴンは首をもたげてこちらをにらむ。


「グオラァァァァァ!」


 ドラゴンは咆哮しながら起き上がった。

 手足はそんなに長くない。

 それゆえこのドラゴンは四足歩行だ。


 体は少し傷がついた程度のよう。


「ちょっとー! 怒っちゃったじゃないですかぁ!」


 サーヤに注意するが気にしない。

 

「俺は下に潜りこむから気を引いてくれ!」

 

「えぇ!? ドラゴンの気を引くんですか!?」

 

「頼む!」


 無茶ブリなことはわかっているが、できるのは上級魔法以上を使えるサーヤしかいない。

 俺とヤマトは魔法士ではないため、中級以上は使うことができない。


「わかりましたよぉ! もう!」


 目を吊り上げて怒鳴りながら魔力を集めている。


「こっち向きなさい! ダイダルウェーブ!」


 サーヤの前には大きな波がおき、ドラゴンへと襲い掛かる。

 口へと魔力を溜めていくドラゴン。

 その隙を見逃さずに懐へと駆ける。


 サーヤが狙われている。それはわかっているが、ヤマトを信頼している。アイツの結界は硬いからな。


 レーザーが打ち出される音を聞きながら懐へと潜りこむ。


 巨大な腹の下は薄暗い。核のありそうなところを狙う。胸の真ん中あたりだ。


 魔力を多めに腕輪に流し、赤黒の怒りの力を腕全体に纏わせる。


「俺の行く手を阻むものは蹴散らす」


 そして、引き絞った拳を天へと突きだす。


天鬼てんき

 

 凄まじい轟音が鳴り響き、ドラゴンの胴体は木端微塵に吹き飛ばされた。そこからはきれいな雲一つない青空が見えた。

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